水の帝国 サドム
シンは暗い表情のまま、その話を終えた。
「俺の育ての親とも言えるガガリアンさんを殺したソニーユは、あの日を境に姿を消した……。西方聖騎士団は血眼になってあいつを探したが、1年ほど経って捜索は打ち切りになった。あいつの所在は今も分からねぇままだ……」
その言葉に、俺とフィスタは無言で返すしか無かった。サドムはシンの生まれ故郷でありながら、トラウマとも言える場所だったことを、俺は今になって知ったのだった。
「……シンさんは、聖騎士だったんですか?」
フィスタはシンにそう尋ねた。確かに、話の流れからすれば、加護を受け取ったシンは風の帝国リカネルにあるという学院に行くことになっていたはずだ。
「……ああ。リカネルで12歳まで教育を受けて、俺はサドムに戻ってきた。生まれがサドムだったのもあってか、西方聖騎士団には世話になった。……少しだけな」
俺はシンの言葉に少し引っかかりを覚えた。
「……少しだけ?シンがザバンに着いたのは2年前だよな?その間は何をしてたんだ?」
「……」
シンは少しの沈黙の後に、答えた。
「……俺は、西方聖騎士団内で問題を起こして除外されたんだよ。それが、俺の抱える罪だ」
シンは俺達にこれ以上気遣わせまいと、少しだけ明るく話したが、そのことは俺に無視できるものでは無かった。
「俺はサドムから追放された。亡命って言い方をカルマのジジイがお前に言ったのは、優しさからだ。今の西方聖騎士団の人間は、何年も昔の男の罪なんか覚えちゃいねぇだろうがな」
「……シン、嘘だよな?」
「何がだよ」
「……お前が、水帝様に盾突いたなんて話、俺は信じたくねぇよ!」
「本当のことだよ……。だからこうして俺は捕まってんだろ」
「シン……!」
その時、シンの脳裏には過去の記憶が蘇った。
俺はいきなり頭を抱えるシンを、なだめることしか出来なかった。
「……シンさん」
そこに割って入ったのは、フィスタだった。そして彼女は優しくシンを抱きしめた。
「……罪があるのは、私も同じです。だからどうか、落ち着いて下さい。貴方はもう、1人じゃないんですから」
その言葉は、シンに届いたようだった。シンは、俺には見えないようにして涙を流しているのか、肩が少しだけ震えていた。
「すまん、迷惑かけたな」
それから少しして、シンは開き直ったように明るい笑顔を浮かべた。少しだけ目が充血しているのは気のせいだろう。
「サドムに行っても大丈夫そうですか?」
「ああ、俺は大丈夫だ。まあ、入国出来るかは分からないけどな、ははっ」
シンはそう言って笑ったが、俺とフィスタからすればとんでもないブラックジョークを挟んでくれたものだ。
「……とりあえずいつも通りになったみたいで安心したよ」
「悪ぃな。ちょっと情緒不安定だったわ」
俺達を乗せた馬車は、サドムの首都ビュケルへとかなり近づいていたようだった。窓から顔を出すと、そこにはミスティアにあるものよりも、遥かに大きな城が見えてきていた。
「あれは、サドムの象徴とも言われてる巨城、エルゴール城だ」
目を輝かせている俺とフィスタに、シンはそう説明してくれた。エルゴールという名前は、ゴーシュさんとの歴史の勉強の時に聞いたことがある。
「五大英雄の一人、エルゴール・ラハン……」
だが、俺より先に口を開いたのはフィスタだった。サドムとの関わりも深いであろう彼女は、やはりその名前を知っている。
五大英雄が一人、エルゴール・ラハン
彼は今の世界を創った5人の偉大なる英雄の1人であり、巨大な戦いの後に世界地図西方の地に水の帝国サドムを建国した。
彼の家系は現代まで受け継がれ、ラハン家はサドムにおける最大の為政者として依然として君臨している。
「そこの馬車、止まりなさい」
そのエルゴール城が近づいてきたと思った時、外からそう呼ばれる声が聞こえた。何やら馬車の運転手と門番のような男が話しているようだった。
そこに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「フィスター!!」
その声に、馬車に乗っていたフィスタが反応する。
「シスタナシアさんです!間違いありません!」
そう言って足早に、フィスタは馬車から降りていった。外では再会を喜ぶ女子たちの声が聞こえてくる。
しばらくして、フィスタが馬車の中に顔を覗かせ、俺とシンに話しかけてきた。
「シスタナシアさん達が聖騎士団本部に報告してくれたようで、ビュケルの中に案内してくれるそうです!」
それを聞いて、俺とシンは安心して馬車を降りた。降りた先にあった巨大な門の前には、見覚えのある姿が他にもあった。
「久しいな、ダリアにシン」
そこに居たのはサドムを代表する聖騎士であり、ミスティアで共に戦ったノエル・ジャガーだった。
「ノエルさん……!」
俺はノエルさんのミスティアで充分に別れの挨拶を出来なかったことを謝ったが、ノエルさんは淡白な反応を示した。
「君がサドムに来ることは聞いていた。だから、またいずれ会うことも想像していた」
口先では冷たい対応にも思えるが、ノエルさんは優しく笑いかけてくれていた。
ーエルゴール城、謁見の間ー
「西方聖騎士団統帥、ボルザーク・ムタファ。水帝様に謁見したく参りました」
「……通って」
荘厳な玉座のある部屋に、ボルザークと水帝と呼ばれた人物は二人きりになる。
「彼の旅人たちがビュケルに到着したとの知らせがありました。つきましては、このことをご報告させて頂きます」
ボルザークは片膝をつき、目の前の水帝に敬意を示しながらそう言った。
「そう……。それは良かった」
水帝と呼ばれた人物は立ち上がり、窓の外を見つめる。そして窓に触れながら優しく呟いた。
「……待っているわ、運命の子」
作者のぜいろです!
シンとソニーユのその後が気になってる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは後のお楽しみということで……。
物語は遂に五大帝国の1つ、サドムへと到着しました!ちなみに作者の構想ではようやく8分の1くらいが終わったところです……泣




