シンの過去 -4 選別
「……見えてきたぞ」
オルゴーさんに言われて船首から顔をのぞかせると、海の向こうに島のような場所がかろうじて見えていた。
「あれが、精霊の神殿……」
俺の目は、きっと輝いていただろう。それくらいに俺は興奮していた。聖騎士へとなるための第一歩がここから始まると思うと、居てもたっても居られなくなったのだ。
その港は、人気がまるでなく、それでいて神聖な雰囲気に包まれていた。精霊の神殿がある島の周囲はどんよりとした雲におおわれていたが、その島の周りだけは、照らされるようにして光が差していた。
「……行こうか」
オルゴーさんは先に船を降りており、俺とオノンはそれに続いた。
精霊の神殿のある島は、「世界を分かつ島」とも呼ばれている。その理由としては、海を越えた先に「風の帝国」リカネルがあり、五大帝国同士の間に位置していることからその名がついた。
従来から、この島の所有権を巡ってサドムとリカネルの間では皇帝同士の話し合いが行われており、いくつかの条件付けによって現在はサドム領土最西端の地となっている。
「……君たちは聖騎士になりたいのか?」
オルゴーさんは、精霊の神殿への道すがらそう話しかけてくれた。
「俺は、なりたいです。ガガリアンさんみたいにこの国を守れる騎士に」
「僕は別にそんなつもりは無いけどね。ただ連れてこられただけ」
俺とは対照的に、オノンは加護の受け取りについて緊張しているような素振りを見せなかった。そもそもオノンには辺境伯の子としての身分が保証されている。今更それ以上の地位は要らないのだろう。
「……サドム皇帝とリカネル皇帝の契約により、加護を授かった者はリカネルへと向かう必要がある。……それが、この世界のルールだ」
オルゴーさんは神妙な面持ちでそう答えた。風の帝国リカネル、それは今まさに戦争を起こしている五大帝国の一つ……。いくら契約とは言っても、そのような所に行く気にはなれなかった。
「……風の帝国、リカネルには聖騎士を養成するための学院がある。……世界中に散らばる聖騎士達は、皆そこで己の能力を高めた者達だ」
そう言うオルゴーさんも、その養成学校の出身なのだろう。話し方や内容の詳しさから、俺はそう感じとっていた。
そこから数分程、オルゴーさんに続いて森の中を歩いていくと、少し開けた場所が見えてきた。そこは島の中心部にある大きな湖、そして精霊の神殿と呼ばれる建造物が、そこにはあったのだった。
島に降り注ぐ太陽光を集めるようにして、その湖は照らされていた。神殿の周囲には、神々しいオーラでも漂っているかのように、暖かい空気に包まれる。
「綺麗だ……」
俺の口からは、自然とその言葉が出ていた。
「……神殿に入る前に、もう一度忠告しておく」
オルゴーさんは神殿を前にして振り返り、俺とオノンに言った。
「……加護を受け取った者は、選べない。……それがこの世界におけるルールだ。……そのことを肝に銘じて、中に入るといい」
オルゴーさんは神殿に入る素振りを見せなかった。ここから先は、1人で行けということだろうか。
ピチャン
神殿の内部は、地下に降りていくような構造をしていた。道を照らす明かりなどは無さそうだが、地下へと続く階段は何故かくっきりと見えた。
神殿の内部は湖の中にあるからか、天井から水が少し漏れており、辺りには水溜まりのようなものがいくつか見られ、そこに跳ねる水の音だけが神殿の中にこだまする。
その部屋までは、迷わずにまっすぐ進むだけだった。地面に魔法陣のようなものが描かれ、二つの石像がただそこにあるだけの無機質な部屋。しかし俺は、直感的にそこがこの神殿のゴールだということに気がついていた。
「……天使と、悪魔?」
そこにある二つの石像は、大きな翼を持ち微笑みを浮かべる天使のような像と、鋭い翼を持ち不敵に笑う悪魔のような像にそれぞれ形が分かれていた。
俺は、吸い込まれるようにして、二つの石像のうち、天使をかたどったように見える石像に触れていた。
その瞬間、俺の意識は飛び、自分の内側へと意識が吸い込まれるような感覚に陥った。
「……?」
「おお、お前は選ばれた方か」
「……誰?」
「ん?俺か?俺は、アグベラ。『特化の加護』を司る、まあ、天使みたいなもんだ」
「……ここは?」
「おいおい、質問ばっかだな。まあ仕方ねえか。ここはお前の潜在意識の中、心の中って言えば分かりやすいか?」
「俺は、加護を手に入れたのか?」
「ああそうさ。これからは俺がお前を護ってやる。だからお前も俺に体を委ねるんだな」
「分かったなら今日はとりあえず帰りな。お前が俺の力を欲した時、その時にまた会おう」
俺が目を覚ますと、先程まで居た部屋を出て、精霊の神殿の入口近くで倒れていたようだった。
「……目を、覚ましたか。……そして、どうやら君は加護に選ばれたらしい」
近くには、オルゴーさんが座りこんでいた。
「……なんでそれを?」
「……加護を得た者達のここでの行動は、皆似通っている。……言葉も発さず、何かに操られたようにして、精霊の神殿の外まで出てくる。……そうでない者は、あのようになる」
オルゴーさんが指差した先には、若干怒り気味のオノンが足を踏み鳴らすようにして、精霊の神殿から出てくる様子が見えた。
「何が神殿だよ!何も無いじゃないか!」
「……え?部屋があっただろ?」
「何の話だよ」
オノンのキョトンとした顔を見て、俺は精霊の神殿の仕組みに少し気が付いたようだった。
「部屋に入る段階で、選別が始まってたのか……?」
俺のそのつぶやきは、オノンには聞こえていないようだった。
はじめましての人もお久しぶりの方もこんばんは。作者のぜいろです!
実は作者がコロナウイルスにかかってしまい、思ったように執筆に専念できておりませんでした。申し訳ありません……。
ということで今までの遅れを取り戻す意味も込めて、ここから20話は、毎日投稿していきたいと思います!是非今後の展開にご期待ください!




