フィスタ・アンドレア 【※】
「よう、起きたらしいな寝坊助」
俺がジュカテブラの元で意識を失い、ミスティア王城内で意識を取り戻した後、シンは俺の居場所を訪ねてきてくれた。その部屋から出て、シンに着いていくようにして王城内を歩く。
「今度は随分と早いお目覚めじゃないか」
「また、迷惑かけちゃったみたいだね……。ははっ」
俺は情けない作り笑いをしていたと思う。シンに思いっきり背中を叩かれたのはそのためだ。多分。
「まあ、聖獣のおかげでこれだけ早く元に戻ったんだろうな」
「うん……。夢の中で、アルケミオンの姿を見た気がする」
「お前、また何したか覚えてないのか……?」
「あんまり……」
本日2度目の作り笑いに、シンは額の血管が浮き出たように見えたが、それより心配が勝ったらしい。
「全く……。お前の戦い方は危なっかしくて見てられねえよ。毎回意識は無くすわ、いきなりヤバい姿になるわ……」
「迷惑……かけてるよね」
「まあでも、今回についてはお前が居なかったら俺とノエルが危なかったかもしれねぇ」
シンは笑って「ありがとな」と言うと、俺の頭をワシャワシャと撫でた。シンから感じる兄貴感は、年の差だけではない気がする。
「あ、そういや」
シンは突然思い出したように、足を止める。
「フィスタの母ちゃんが用があるって言ってたな……。お前が寝てる間に訪ねてきたんだ」
「アイルさんが……?」
「湖を離れてこっちに来てるらしい。フィスタも一緒だったみたいだぞ」
「そうなんだ」
シンは行き先の分からない俺を連れて、ミスティア王城内の会議室へと連れて行ってくれる。そこは、1番初めにメイナさんに作戦について聞かされた場所だった。
中に入るとそこには、メイナさんとミゲルさん、アイルさんにフィスタが先に座っていた。
「お目覚めになられたようで安心致しました、ダリア様。まだ本調子ではないでしょうが、少し聞いて頂きたい話があります」
俺とシンが入ってきた瞬間にメイナさんは立ち上がり、そう言って席に案内してくれた。
「まずは今回のミスティア内での事件に関する協力、ありがとうございました。人質として攫われていたリーシュタッドの者、龍の巫女は1名の欠損も出さずに、無事に帰って参りました」
メイナさんの話では、ドロと名乗った魔人はリーシュタッド王妃の首を持ってきたらしいが、それはノエルさんをけしかけるための偽装のようで、本人は無事だったらしい。
「そしてジュカテブラの件ですが、ダリア様がお目覚めになられる前に、ノエル様達は一足先にサドムへと戻られ、現皇帝閣下へと報告されるとおっしゃられていました」
神獣ジュカテブラ。俺の淡い記憶の中で、その命を失い、謎の人物によってその『神威』が奪われた……。という所までしか把握していない。
「この件に関しては既に、世界連邦が動いております。神獣の管理については彼らの管轄ですので……。ダリア様とシン様におかれましては、この国に世界連邦の調査隊が来る可能性があるため、サドムへの移動を早急に行うことが望ましいかと思われます」
シンは置いておいても、俺は少なくとも指名手配の件がある。世界連邦の役人と再び会うことは、アンバーセンのような事件を起こしかねない。ミスティアの為にも、早く立ち去るのが無難だろう。
「ダリア様とシン様がサドムへと向かうと聞き、私達も手伝えることは無いかと考えました……。その結果として決まったのが」
そこまでメイナさんが言うと、龍の巫女の当主であるアイルさんが話を続けた。
「娘のフィスタを、御二方の旅へと同行させては如何でしょうか」
「……え?」
俺とシンは、同時に疑問を抱いた。あまりに突然の申し出に頭が着いていかない。
「フィスタには先天的な加護があり、自分の身は自分で守れます。また、サドムに居た経験もありますので、案内役としての役目も果たせるでしょう。それに、これはフィスタ自身の意志でもあります」
アイルさんはそう言ってフィスタの方へと目をやった。フィスタは少し恥ずかしそうに話す。
「え、えっと……。私、もっと世界を見て回りたいんです!でも龍の巫女としての立場や次期当主としての立場もあるので……。でも、遺跡群で霧龍様からお告げを頂いたんです」
フィスタが言うには、シンやノエルさんにアルケミオンが語りかけたのと同じように、フィスタにも語りかけていたらしい。
「霧龍様から、各地の神獣の元へ赴き、今回のような敵が現れないとも限らないことを伝えて回ることをお願いされたのです。霧龍様はミスティアを護って下さっているので、その代行者として私を連れて行って貰えませんか……?」
フィスタは立ち上がり、俺とシンに頭を下げた。ただ、俺達の返事は決まっているようなものだった。
「……聞いたぜ、フィスタ。お前が聖騎士と共に魔獣に立ち向かったこと。そして、遺跡でのお前の貢献無しには解決には至らなかったかもしれねぇ」
「そうだな。俺も神獣の住処について心当たりがあるし、フィスタが居てくれたら心強い」
「それに、男だけだと華が無いしな」
シンの発言に、会議室は笑いが起こる。作戦の前まで暗く張り詰めていた空気が嘘のように、人々の顔には笑みが満ちていた。
「ダリア様、シン様、そして龍の巫女のフィスタさん。貴方たちが今後歩む道は険しいものになるでしょう。ただ、ミスティアとしてそれを全力で支援さて頂きます。貴方たちが進む道に、幸が多からん事を願っています」
メイナさんは、俺達一人一人と握手を交わした。
「お待たせしましたぁっ!」
ミスティア王城からサドム方面へと行き、王都への入口で、俺とシンはフィスタの到着を待っていた。俺達の返答を待つ前に、フィスタは旅に同行する気満々だったようで、荷物はまとめていたらしい。
ミスティア王城近くの宿屋から、パンパンの荷物を背負ってフィスタが現れる。女の子1人で担いでいくには少々不安になる量だ。
「あ、これは自分で持ちますよ!意外と私、力あるんです!」
フィスタは巫女服の袖を捲って、白い肌を露わにする。そして二の腕に力を込めて、誇らしげな顔をする。
「……女子がそういうのするのはどうかと思うぞ」
「そうだね……」
俺とシンはフィスタが周りの注目の的になっていることの方が気になっていた。マービア湖に住む人達しか纏っていない巫女服を着たフィスタの姿は、周りからすれば浮いて見えるだろう。
「……その服で旅に出るつもりか?」
「いやいや!そんなことはないです!もちろん動きやすい服も持ってきてますよ!下の方に詰め込んじゃったので、取り出せないですけど……」
フィスタはあまり物事を深く考えるタイプではないようだ。荷物も意外と乱雑に詰め込んでいるのだろう。
「行きましょう、ダリアさん、シンさん!」
そう言ってフィスタは、荷物から鈴の付いた棒のようなものを取り出した。
「私達の旅が良い縁と機会に恵まれますように。霧龍様、どうかお護りください」
シャラアアアン
フィスタの持つ鈴の音は、高く透き通った音を辺りに響かせた。太陽の光で反射する金属の煌めきが、フィスタの顔を照らしている。
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
そう言って、フィスタは笑ってみせた。
作者のぜいろです!
今回の話でミスティアでの話は一段落着きました!
ダリア達の旅の舞台はサドムへと移っていきます!
私事ですが、そろそろ合計ポイント数が100ポイントに行きそうです……。
フィスタちゃんの笑顔に免じて是非とも、いいね、評価、ブクマ等お待ちしております!




