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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第2章 霧の王国編 ー霧龍の民と自我無き神獣ー
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聖獣の行方

時はダリアが意識を失った時に遡る。


「聖騎士、俺はダリアを連れて行く!3人の元へ早く!」


シンはノエルに向かってそう言った。


「私にはノエル・ジャガーという名前がある。いつまでも聖騎士と呼ぶのは止めてもらおう」


「……めんどくせぇな!神獣の身体が崩れてるんだ、ここで争ってる場合じゃないだろ!」



焦るシンを前に、ノエルは冷静だった。ノエルは、ジュカテブラの遺跡群最奥の地について時から、()()()()()()を感じ取っていた。



「……声が、聞こえる」


「は?何訳分かんねぇこと言って……」


ノエルが、ジュカテブラの遺跡群の更に先、広大な海が広がっている方を急に見つめ始める。シンはその行動の意味が分からなかったが、ノエルの見つめる方向を向いた時、その意味が分かった。




クォォォォンッ




そこには、淡い水色の美しい体をした龍が、その羽を大きく羽ばたかせていた。鱗粉のような物が周囲を舞い、その光景はまるで()()()()()見えた。



「あれは……」


「……恐らく、聖獣アルケミオンだろう」


2人は息を飲んだ。目の前で起こっているジュカテブラの崩壊など気にもならないほどに、その姿は神々しく、美しかった。





ああ 愛しい我が子達


今 救いを




シンとノエルの脳内に語りかけるようにして、女性のものとも男性のものとも分からない声が響く。




その声が聞こえたかと思うと、龍が撒き散らす鱗粉は、風に乗ってシンとノエル、そして崩れ行くジュカテブラをも包み込んだ。



「傷が、引いてる……?」


龍の鱗粉は、シンの体に出来た傷に集まり、太陽の光を反射して虹色に煌めく。痛みが和らぎ、傷に入り込むようにして鱗粉はシンの身体の一部となっていく。


その鱗粉の力は、意識を失ったダリアの元へも集まり、ここに来るまでに出来たであろう傷に優しく溶け込んだ。




ジュカテブラの体をノエルが見上げると、体内から鱗粉に包まれた球体のような物が空中に上がっていくのが見えた。




生きていた


神獣の意志には 私も逆らえない


救う機会を 幾度となく待っていたことか


今はただ 感謝を





再び脳内に声が響く。その声は、優しさと安堵で溢れているようだった。



やがて鱗粉に包まれた球体はゆっくりと、ジュカテブラの遺跡群の入口へと飛んでいく。目の前の龍はそれを見送るかのようにして、見つめている。




「……あんたが、聖獣か?」



そう



「こいつを助けてくれたこと、感謝する。それと、さっきのはリーシュタッドの人達と、龍の巫女か?」



人間の事は よく分からない


ただ 私を敬い 畏れ 感謝する者達


報いたかった


救えてよかった



「貴殿は何故ここに……?」



神獣の崩壊が 始まろうとしていた


神威は奪われた


私が 神より給った宿命は


果たせなかった


多くの命が消えるところだった


私は神より


神獣を()()ことを言い渡された


しかし それは果たせなかった




私はこの地に残り


私の生涯を全うする


神と私と この地に生きる全ての者との契約の元に






そうシンとノエルに語ったアルケミオンは、再び大きく羽ばたき、青色の空の中へとその姿を消した。聖獣として、ミスティアの人々を守る契約へと戻ったのだろう。










ーミスティア城内ー


「そんなことが……。お話頂き、感謝します。ノエル様、シン様」



魔獣討伐作戦及び人質救出作戦を終えた8人の派遣隊、そしてミスティア王国兵士達は帰路に着き、夕暮れにはミスティア王都へと戻ってきていた。


リーシュタッド家の人々は皆ジュカテブラの体内で意識を失っていたのか、未だに起きた者はいないが、命に別状は無いようである。


最初の人質として連れていかれた龍の巫女も、今はマービア湖で療養している。



最奥の地での出来事は、それに立ち会ったシンとノエルによってメイナ王女へと報告がなされた。その時にメイナ王女はシンとノエルに伝えたことがある。



「私達は霧龍様、聖獣アルケミオンを祀る者達です。ただ、龍の巫女をはじめ、この国の者達は誰も霧龍様の御姿を見たことはありません。国の代表として仕えてきたリーシュタッドの者達でも、今では伝記のみが残されているだけで、正確な御姿は知らないのです」


メイナ王女は、シンとダリアがミスティアに入る前にも見た絵に近い、アルケミオンと思われる生物を描いた絵を見せられる。



「初代国王とその時代に生きた僅かな者達のみが、その姿を見ただけです。今回の件で、霧龍様が御姿をお見せになったこと。そして神獣ジュカテブラが逝去した事は、私には偶然には思えません」


メイナ王女はノエルとシンに向かって言う。



「世界の歯車が、動き出しているような気がしてなりません。世界に10体居るとされる神獣がその姿を消す……。いや、『神威』を失うのは初めてのことですから……」






メイナ王女への報告は済んだものの、シンとノエルの中には、疑問を残す結果となった。


「……ノエル、あんたは神獣のこと、どこまで知ってるんだ?」


シンの問いにノエルは返す。


「……聖騎士団の筆頭騎士にも神獣について教えられることは極僅かだ。世界の調停者、と言うべき存在とだけ伝えられている。少なくとも王女と同じように、私も神獣が死ぬという例を聞いたことがない」


「……そういうもんなのか」






元々重傷者が多くなかった上に、アルケミオンの力を受けた西方聖騎士団の面々は、ミスティアでの作戦が終了したことに際し、水の帝国サドムへと足早に帰ることが決まった。


「私達は滞在が長くなっても何ら迷惑には思いません。むしろ恩返しをさせて頂きたいのですが……」


作戦の成功に大きく関わったノエル達に、メイナ王女はミスティアを代表してそう言うが、ノエルはそれを断った。


西方(ウェスト)統帥(グランマスター)からは、ミスティア内での事件についての解決までが派遣の期間と定められていますので、これ以上の滞在は不要でしょう。それに、神獣ジュカテブラの件について、私にはサドムでの説明責任がありますので」


ノエルの言葉に対し、メイナ王女は手を引いた。元々彼らがこの国の聖騎士ではないこともあり、その管轄権は自分にはないことを自覚しているからだろう。



「いつでもお待ちしております。『災い』の解決への尽力、誠にありがとうございました」



メイナ王女に合わせるようにして、ミゲル、カイ、モンロー……そしてミスティア王国兵士達は皆頭を下げた。






「……何か俺達に要件でも?」


ミスティア王城を出た所に、シンはノエルから呼び出されていた。シスタナシアとガゼルもそれに着いてきている。


「……私は、お前と黒髪の少年を誤解していた。罪人という名前だけが先行し、ミスティアに害をなす者と決めつけていた。その非礼を侘びたい」


そう言ってノエルは頭を下げた。


「ノ、ノエル様っ!?筆頭騎士ともあろう方が簡単に頭を下げては……」


後ろに控えるシスタナシアは、アワアワと焦りの表情を見せる。ガゼルはいつも通り無表情のままだ。



「……俺達もサドムに行く予定がある。その時は罪人って呼んでくれるなよ?」


シンは頭を下げたノエルに向かって、笑ってそう言った。


「俺としては剣を構えられたこともあって釈然としねぇけどよ。あんたは自分の心に真っ直ぐなだけみたいだしな……。ダリアもきっとこう言うだろうな」


「……」



ノエルはゆっくりと頭を上げ、シンに伝える。



「今回の件、ミスティアの災いの解決、ジュカテブラの逝去、そしてお前達がミスティアの人々のために貢献した事……。西方聖騎士団八騎聖(ウィット・シュバリエ)の名において、必ず皇帝の耳に伝えておく」


「そりゃどうも」




ミスティアを救った英雄達は、静かに別れを告げた。聖騎士団の面々はその日のうちにミスティアを離れ、水の帝国サドムへと戻ったという。

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