神威
「君達と戦うつもりはないよ。西方聖騎士団の英雄に、名の知れた罪人。少なくとも無事じゃ済まなさそうだ」
オノコスと名乗った仮面の男は、俺達に向かってそう言う。
「貴様の意志は関係ない」
震度1 ー始動ー
ノエルさんは戦う意志を見せないオノコスに、ノエルさんは一瞬で間合いを詰める。身体からは闘気がみなぎっており、ノエルさんが歩んであろう地面は、深くえぐれている。
「血の気が多いね」
ガギィィィン!
オノコスは、どこから取り出したのか分からない剣で、その攻撃を受け止めていた。
「これで終わりだと思うなよ」
ノエルさんの攻撃を受け止めたはずのオノコスは、遅れてやって来た衝撃に吹き飛ばされる。不意をつかれたのか、オノコスは5メートルほど後ろに後退する。
「不思議な力を使うものだね……。ドロがやられたのもまぐれじゃないらしい」
「……ふんっ!」
ノエルさんは余裕を見せるオノコスに対して、一撃一撃が致命傷になりうる剣撃を浴びせ続ける。俺とシンには、近づけないような強者同士の戦いだった。
速度特化50%
攻撃特化50%
ノエルさんの剣速が急激に上がったかと思うと、その剣筋は、オノコスの身体の右側を切り裂いた。
「全力だ……持ってけ!」
俺の隣では、目が赤色と青色に光るシンが、ノエルさんの方を見てそう言っていた。
「ダリア、俺は聖騎士のサポートに回る!お前はあいつと協力してあの仮面男をやれ!」
「ああ!」
闇纏 ー黒剣ー
俺はノエルさんの攻撃に意表を付かれたオノコスに、追撃を浴びせるようにして斬りかかる。
「お前が黒幕か!」
闇技 ー死を纏う大剣ー
俺は魔物を消し飛ばした、俺が今出せる最大火力を、オノコスへぶつけようとする。
「何してるんですか、貴方」
オノコスは、仮面の奥の目で、俺を見てきたように思う。体の内側から莫大なエネルギーが流れてくるのを感じ、抑えきれない黒い衝動が俺の体を包み込んだ。
ドゴオオオオンッ!
突如起こった暴風に、ノエルは弾き飛ばされた。そこにいたはずのオノコスは姿を消し、近くに援護しに来たはずのダリアの姿も見当たらない。
「聖騎士!」
暴風で前が見えない中、シンの声が聞こえる。それを頼りにして、ノエルは自分の位置を把握し、シンの方へと一旦退く。
「……大丈夫か!」
「私の事は気にかけるな。それより、なんだあの禍々しい生物は……」
聖騎士ですら立っていられないとてつもない暴風の中に、立つ影が二つ。オノコスと、邪悪な気配に満ちたダリアの姿が、そこにはあった。
「……おい、聖痕と言ったか、今。それに、私の事を呼び起こすとは、無礼にも程があるぞ、低俗な人間風情が」
ダリアの目は黄色に光り、獲物を狩る獣のような鋭い眼光を覗かせている。
「あいつ……まただ」
「また……?前にも同じことになったのか」
「……あぁ、ザバンで『執行人』を名乗る聖騎士と対峙していた時に、同じ姿になったあいつを見た事がある」
シンとノエルは、ダリアに起こった事態を理解するので精一杯だった。
「先程までの彼と随分雰囲気が違うようだが……。いや、そんな言葉では表せない程の殺気……。五大英雄の子孫様方に並ぶ気配だぞ、あれは」
普段冷静なノエルが、冷や汗を浮かべるほどに緊張していることが、その場の異常さを物語っていた。
「……この時代に何の用ですか。かつての大罪人が」
「……何の話か分からないが、私のことを知っている人間はこの世に居ないはずだ。だが、聖痕を語るのなら、お前を生かしておく訳にはいかない」
「そんな、とんでもない。私はただ、世界の真理を探る者ですよ……。それにしても、こんな所でとんだ大物に出会ったものだ」
オノコスは一瞬身震いした。目の前の怪物が放つオーラは、それほどまでに重く激しく脈打つ鼓動のようだった。
「何回も言わせないでください。私の目的は戦闘ではありません。貴方が何故この場所にいるかは分かりませんが、少なくとも私の起こそうとしている事は貴方には関係ないはずでしょう」
「……」
「それとも、今世での依代への同情ですか?」
ビュンッ
オノコスがその言葉を発した瞬間、黒い何かが、オノコスの心臓を貫いていた。
「……喋りすぎだ、餓鬼」
オノコスは膝を付き、胸に手を当てる。しかし不思議な事に、血が出る様子は無い。オノコスはゆっくりと顔を上げながら、ダリアに乗り移った者を見つめる。
「……準備は整っています。想定外のことも起こりましたが、私の役目は終わりです」
グオオオオオッ!
オノコスがそう言った時、近くで静観を貫いていたジュカテブラが突如として咆哮を上げる。そのあまりの桁違いな音圧に、ノエルとシンは思わず耳を塞いでいた。
「……っ!」
「あぁ、ジュカテブラよ。長きに渡る苦痛の日々を私が解放してあげよう。身を任せるのだ。ああ、敬神の神威よ。なんと美しいことか……」
横をゆっくりと歩いていくオノコスに、ダリアに乗り移った者が再び攻撃することはなかった。
「また会いましょう。ここでは無い場所で」
「……」
苦しむような咆哮を続けるジュカテブラは、その口から光り輝く何かを吐き出した。その光は遺跡群を照らす光となり、煌々と照りつける。
オノコスは飛び上がり、空中を駆けた。そしてその光り輝く何かに、手を添える。
「*******」
何かを唱えると、その光はオノコスへと吸収されていく。そして爆ぜるような最後の光を放ち、暗雲を吹き飛ばした謎の光は消え去った。
晴天が開けたジュカテブラの遺跡群の空で、オノコスは地上にいる3人に向かっていった。
「スティグマの種は、いつでも近くにある。いつか来る聖戦に、備えることですね」
そう言ってオノコスは、瞬きの間にその姿を消していた。
オノコスが去り、ジュカテブラの巨体は徐々に崩壊を始めていた。
「ダリア!ここにいるのは危険だ、離れるぞ!」
シンの声が遠くで聞こえる気がするが、夢の中にいるような、ぬるま湯に浸かっているような、不思議な感覚に俺はとらわれていた。
主よ、より強い繋がりを
精霊の神殿に赴くのです
そこで再び、いや、正式にお会いしましょう
我が名はラグドゥル
貴方の加護
我に返ったとき、そこはベッドの上だった。ザバンでも同じような事が起こった。自分の意識が遠のいていくような、自分では無い誰かに意識を委ねているような、そんな感覚。
「……誰だよ、お前は」
俺は白い天井を見つめ、そう呟いた。
作者のぜいろです!
今回の話で、魔獣討伐作戦については完全に終了しました!ここから先の話は、ミスティア内での後日譚のような形になります!もう少しだけお付き合い下さい!




