魔獣討伐作戦 -8 強者を求めて
ーダリア、カイ組ー
「……弱いな」
ファワンシーは天を仰ぎボロボロの姿となった、ミスティア王国兵士長補佐のカイを見てそう言った。彼女は気を失っているのか、その言葉に反応することも出来ない。
「……我々の元へとわざわざ赴いた、その事には賞賛を送ろう。ドロの矜恃に付き合ったとはいえ、まさか来るとは思わなんだ」
ファワンシーは巨大な大剣を地面に突き刺し、ダリアに対峙している。剣を構え無いことからも、既にダリアに対する興味を失っているかのように見えた。
「……私の退屈を紛らわせてくれるのでは無かったのか?」
「……っ!」
ファワンシーは地面から剣を抜き、ダリアに降りかかる。黒剣で受け止めようとしたダリアだったが、その瞬間に最悪のイメージがダリアの脳裏をよぎる。
ブシュッ
ダリアの脳に巡ったのは、黒剣ごとダリアを真っ二つにするファワンシーの姿だった。それを感じてダリアは、受け止めるのではなく受け流すことに全神経を研ぎ澄ます。
ギャリィィィン!
金属同士が激しくぶつかるような音がし、ファワンシーが振り下ろした剣はダリアの剣をなぞるようにして、ダリアの左側の地面を大きく砕いた。
その衝撃でダリアは一瞬怯んでしまう。
ドンッ!
ファワンシーは剣を右手で保持しつつも、ダリアの左の脇腹に、その左の拳を叩き込む。ダリアはそのままファワンシーの左方向へと弾き飛ばされてしまった。
「……いったいな」
激しい痛みが熱をもってダリアを襲い、ダリアは口から吐血する。
「魔物を退けた奇妙な術は使わないのか、少年よ」
ファワンシーはダリアの方へと向かって、1歩ずつ歩みを寄せてくる。
「……あの技は、何回も使えるものじゃないんだよ」
「ほう」
「でも、お前を倒すためならもっと他の手段もあるからな!」
闇纏 ー黒腕ー&黒脚
ダリアは自分の身体に黒い痣を巡らせ、油断して近づくファワンシーの足元へと一瞬で近づいた。
「……吹っ飛べ!」
そのままファワンシーの顎のような部分を真下から蹴りあげるようにして、ダリアはファワンシーを空中へと送った。
ファワンシーは抵抗することも無く、ただ空中で次の攻撃を待っていた。
黒闢連打 ー破弾ー
ダリアはファワンシーの待つ空中へと飛び上がり、ファワンシーの体を滅多打ちするようにして、連続で殴り、蹴り続けた。
ダリアが一撃を入れる度にファワンシーの纏っている鎧のような物は傷つき、凹みも出来ていく。
「……なかなか良い」
しかし、その攻撃はファワンシーに届くことは無かった。
ファワンシーは、ダリアの攻撃の最中にその足をガッシリと握りしめ、怒涛の勢いをもった攻撃を停止させた。
「だが、所詮その程度だな」
そのままファワンシーは空中で回転し、その遠心力を使ってダリアを地面へと向かって投げた。その勢いは簡単に止まるようなものではなく、ダリアは地面に激しく打ち付けられた。
「カハッ……!」
ダリアは地面に打ち付けられ、仰向けになったまま動かなくなる。
ファワンシーは軽やかに着地し、ダリアを悲しげな表情でもしているかのように見つめる。
「……最初に言った、弱い者という発言は撤回しよう。貴様は強い。だが、私を倒すほどではなかったというだけだ」
ー50年前、とある王国ー
「な、なぜなのですか王よ!私は今までこれ程にあなたに、誠実に使えてきたではありませんか!」
おかしい。私はこの国のために、王のために多大な犠牲を払いながら生きてきたはずだ。
戦争には先陣を切って参加した。多くの敵を殺した。その途中で沢山の仲間を失った。
血で血を洗うような凄惨な戦場を生き抜き、私は確かにこの国に貢献したはずだ。それなのに、何故……。
「……はあ。もう一度言おう、ファワンシー・ノースタッドよ。お前は強い、この国の誰よりも。だがそれ故に、貴殿に恐怖する者も多くなってしまったのだ。貴殿の存在が、この国にとっても、他国にとっても戦争の火種になりかねんのだ。貴殿の武力を争って、より大きな戦いが起きることを、避けたいのだよ……」
「そんな……」
私は涙を流した。自分の大切なものを守るために手にした力は、いつしか自分の周りの者を喰らうほどにまで大きくなっていたことに、私は気がつくことが出来ていなかった。
「ノースタッド、今までの働き大儀であった」
王の一言が、私の胸に大きくのしかかった。私はその日の内に国を追放され、放浪の身となった。
なぜ、なぜ、なぜ……。
私の頭の中には、無限の問いが繰り返されていた。
それからというもの私は各地を放浪し、その地の強者達と剣を混じえた。しかし、そのどれもが私が本気を出すにふさわしい相手はおらず、私は国という拠り所を失った上に、自分の力をぶつける先すら見失っていた。
「もう、いいか……」
私は食を断ち、水を断ち、深く暗い洞窟へと足を踏み入れ、その人生に終わりを告げることを決めた。誰のために生きたのか分からない人生だった。
水をとっていないせいで、身体が思うように動かず、手足が痺れ始める。意識は朦朧とし、目眩を感じる。
私は倒れ、薄暗い洞窟の中で静寂に包まれる感覚に陥った。周りには生物の気配も、もちろん人間の気配もない。
「……つまらない、人生だった」
私がそう呟くと、急に明るい光に照らされた。
「……っ!?」
最後の力を振り絞ってその光の出処を見ると、ランタンのような物を提げた、仮面の男がそこには立っていた。
「強い気配を感じて来てみれば、もしかして君、死のうとしてたりする?」
その男は、飄々と私に語りかけてきた。ここで肯定の返事が出来ていれば、私はその後の退屈な余生を過ごすことなく居れたのだろうか。
「強い奴に会わせてあげる。死ぬのはそれからにしなよ」
そう言って仮面の男は、私を洞窟から連れ出し、魔獣としての力を与えた。仮面の男の仲間と思われる者達は、私が出会った人間とは遥かにレベルの違う強さを持っていた。
「君は強い。だけど世界には上がいる。強者を求めて、私の仲間となるんだ」
「少年よ、世界には貴様よりも、私よりも遥かに強い者達が跋扈している。そして悲しいことに、人間の世界では強くあることだけが正義ではない……。魔獣となれば、そんな心配も要らない」
ファワンシーは、まるでダリアにも魔獣になるように諭しているかのような口調で話す。
「君には素質がある。それは人間として輝くものでは無い。私達なら、それを受け入れられる」
ファワンシーがダリアに1歩近づく。
ゴトッ
その時、ファワンシーは自分の身体に起きた異変に気が付くまでに数秒の時間を有した。
無い……。自分の右足が、無い。
ファワンシーはバランスを崩し、片膝をつくようにして地面に手をつく。
「……図に乗るなよ、魔獣」
ファワンシーは、その声を聞いた瞬間に全身から血の気が引いた。それが、目の前の少年によって発されたものだと気が付くまでに、時間はかからなかった。
「強さ?正義?……ふん、諦めた者が偉そうに語るなよ」
ダリアは立ち上がっていた。ファワンシーは背筋が凍るような殺気に包まれ、その場から動けなくなる自分にすら恐怖した。
「強い者と戦いたい?『敗北』を知りたいの間違いだろう、雑魚め」
ダリアの目は、黄色く、鋭く光っていた。
作者のぜいろです!
魔獣討伐作戦、最後の戦いとなるダリアVSファワンシーの戦いのお話になります!ファワンシーは魔獣達の中で(現状)最も強い敵になるのですが……。今後の展開にご期待ください!




