魔獣討伐作戦 -5 それでも私は
「ノエル……?我の知らない名前だが、お前の戦う理由がなぜそいつにあるというのだ」
レイポスはシスタナシアの発言が理解できないといった風な表情を見せる。
シスタナシアは傷だらけの体ながら立ち上がり、剣を構えた。
「ノエル様は私の全てだ。ノエル様が私の過去を知らないとしても、私はこの身をあの方に捧げると決めている」
シスタナシアは剣を強く握り締めた。既に傷を負った腕からは血が流れ、地面に滴り落ちる。
「……」
レイポスには、シスタナシアの考えが理解できなかった。自分の命は自分のためだけのもの。魔獣として自我を自覚した瞬間から、レイポスはただ一人、自分のために生きてきたからである。
「ノエルとやらはお前の死を無駄に思うかもしれないぞ?」
「それでも構わない……。私が生きた証が、ノエル様の中に残ってくれるなら、それでいい」
シスタナシアは、危うい目をしていた。自分の命を捨てる覚悟を持った人間の目だった。
「……フィスタ。私が最後まで聖騎士の誇りを持って魔獣と戦ったこと、ノエル様に伝えておいてくれ」
シスタナシアは、フィスタの方に目をくれることもなくそう言った。
「……シスタナシアさん」
「私の心配ならいらない。これくらいの修羅場、今まで沢山抜けてきた。まあ、ノエル様がいないのは初めてだけどね」
― 清流の御装 ―
フィスタはシスタナシアに、水の鎧を纏わせた。その水は優しくシスタナシアを包み込み、傷の痛みを紛らわせてくれているようだった。
「あくまでも応急処置です……!傷が完全に治った訳では無いので、どうか無理はなさらないでください……」
「ありがとう、フィスタ」
シスタナシアは自らの剣を目の前に掲げ、言葉を放つ。
「連撃の加護よ、我に力を。……解放!」
シスタナシアの体は、眩い光に包まれた。その光はシスタナシアの内側から来ているようにも見えた。
光が消え、シスタナシアは剣を再び構える。
「来い、魔獣。お前の命は、ここで潰える」
レイポスはシスタナシアの様子の変化に驚き、高揚した。
「いいぞ、いいぞぉっ!我は強敵と戦いたいのだ!簡単に死んでくれるなよ、女ぁっ!」
レイポスは口にフィスタの腕を傷つけた強い酸を溜め、上空へと吐き出した。その酸の塊は上空で爆ぜ、雨のようになって地面へと落ちてくる。
五連撃 ― 地衝 ―
シスタナシアは自らの剣を地面へと突き刺し、衝撃を放つ。地面は複数の莫大な衝撃を受け、巨大な窪みを形成する。
― 連破斬 ―
砕かれた地面の欠片は、上空へと高速で舞い上がり、レイポスの吐き出した酸を悉く弾き飛ばした。それに驚くレイポスへと、シスタナシアは間合いを詰める。
三連撃 ― 無刀 ―
レイポスの腹部に、シスタナシアは強烈な掌底を叩き込む。その振動はレイポスの体を内部から揺らし、激しい衝撃を与えた。
「グォっ……!」
多段連撃
衝撃を受け止めきれずに体勢を後方へと崩したレイポスに、シスタナシアは追撃する。振り抜く剣の一振一振に、凄まじい数の連撃が乗っていた。
「……ガアアアアっ!」
レイポスは強靭な肉体によって、嵐のような連撃を受けながらもシスタナシアに向かって拳を振り抜いた。
― 清流の導き ―
しかしその拳は、シスタナシアに当たる間際で軌道を変え、虚しくも空を切った。レイポスは間違いなくシスタナシアを狙って放った拳が当たらなかったことに、戸惑いを覚える。
「シスタナシアさんだけには戦わせません!」
「小娘ぇっ!」
レイポスは激昂した。フィスタを睨みつけ、一対一の戦いに水を刺されたことに対する反撃をしようとする。
しかし、フィスタとレイポスの間には、シスタナシアが立ちはだかっていた。
「ようやくちゃんと、隙を見せたな」
破濤
シスタナシアは、レイポスの胸に深く剣を突き刺していた。その剣はレイポスの体を、反対側まで貫いていた。
「終わりだ。貴様は死ぬまで体内で増幅する衝撃に耐えられない……。私は貴様が死ぬまで決してこの剣を離すことは無い!」
レイポスは剣で胸を貫かれながらも、必死に抵抗した。ゼロ距離にいる無抵抗のシスタナシアを力が入る限り殴り続ける。
「離せ、離せぇっ!!!」
既にシスタナシアの顔は腫れ上がり、剣を握ること以外に身体の機能はほとんど停止していた。
(……ノエル様)
それでも最後に浮かんだのは、ノエルの顔だった。
(…私は、務めを果たせたでしょうか……)
ボトッ
鈍い音が、響いた。
無限にも感じたレイポスからの攻撃は、ピタリと止んでいた。
「女性の顔を殴るとは、正気の沙汰とは思えないな」
シスタナシアが顔を上げると、そこには尊敬するノエルの姿があった。剣を突き刺したはずのレイポスは、首から上が無く、地面にその首が落ちている。
「……ノエル様ぁ……!」
シスタナシアは剣を強く握りしめていた剣を手放し、ノエルに抱きつこうとした。普段なら軽くあしらうノエルだが、部下の疲弊した姿に、この時ばかりは心を許した。
「一人でよくやった、シスタナシア。後のことは私に任せるといい」
「はいぃぃぃい……!」
シスタナシアは泣きじゃくり、ノエルの胸に顔を埋めていた。フィスタはそれに対してどう反応していいか分からなかった。
「あの、魔獣はどうされたんですか……?」
「……魔獣?ああ、こちらは少し問題が起きてな。フレンツはまだ加護の扱いが完全ではない。しかし、解放をした光が見えたから、急いで来ただけだ」
ノエルのあっさりとした態度に、フィスタは若干引いた。
「ノエルさーん!」
その場がだいたい落ち着いた時に、モンローが遠くから走ってくるのが見えた。
「速すぎますって。遠くの方で何かが光ったと思ったらすぐにいなくなっちゃうんですから……」
「すまない。だが、私たちの方の事情が変わったのだ……」
残る魔獣との戦いは、依然として熾烈を極めていることを、4人はまだ知らない。
作者のぜいろです!
いきなりノエルが登場し、混乱させているかと思いますが、これについては次回の話で書くつもりです。前後してしまいましたが、次回はノエルの加護についてのシーンを書く予定ですので、ご期待ください!
是非、いいね、ブクマ、感想等お待ちしております!
ぜいろでした。




