魔獣討伐作戦 -4 ただ一つの信念
レイポスに対して剣を構えるシスタナシアだったが、レイポスはそれを軽く嘲笑った。
「貴様、聖騎士か……。魔獣の討伐などと、わざわざ分かりやすい正義でも持っているようだな」
レイポスはそう言うと、口に手を当て、甲高い口笛を鳴らした。その音に呼応するようにして、地面が揺れ動く。
「我は戦いに感情を抱くほど浅はかではない。こいつらを相手にして疲弊したお前らを喰らうだけよ」
地面から、ワラワラとカエルのような魔物が湧いて出てくる。その魔物は明らかに毒でも持っているような、赤・青・黄色の派手な色をしていた。
「ポイズンフロッグという。我の使う酸を随分と好んでいるようでな……。我の呼びかけには応えるようになったのだ」
レイポスの余裕そうな態度は、自分で戦うつもりがないからであると、シスタナシアは確信した。
「フィスタ、無理を承知で頼む。さっき私に教えてくれた貴女の加護で、私があの魔獣に近づくスキを作って欲しい」
シスタナシアの提案に、フィスタは頷きをもって返した。そして手を組み、祝詞を唱え始める。
清らかに 澄む水までも 汚さでか
実り祈りし 我に力を
フィスタがその祝詞を唱え終わると、フィスタの周りに澄んだ青色をした水が漂い始める。
「水の裁きを、悪しき者に」
フィスタの周りを囲んでいた水は、その形を鋭利な物へと変えていく。一つだった水の塊は、5本の矢のような形へと変わっていた。
「貫け、清流の矢」
フィスタがそう言うと、周りにあった五つの水の塊は、ポイズンフロッグ目掛けて勢いよく飛んでいく。
ポイズンフロッグは口から謎の液体を噴射するが、フィスタの放った矢はそれをそのまま取り込み、ポイズンフロッグへと変わらずに向かっていく。
「水は全てを受け入れる。それが悪しき者によるものであっても……」
レイポスの呼び出したポイズンフロッグに、フィスタの放った水の矢は深く突き刺さった。ポイズンフロッグ達は悲鳴をあげてその場に倒れる。
「ほう……。剣を持った女にこいつらは相手が悪いと思っての事だったが……。なかなかやる」
レイポスはそう言って笑い、フィスタとシスタナシアに向き直る。しかし、その隙をシスタナシアは見逃していなかった。
「戦いの最中に油断するとは、脳まで腐ってるらしいな」
剣技 ー二連撃ー
レイポスがフィスタに対して視線を動かした隙に叩き込まれたシスタナシアの剣撃は、レイポスの腹部に深く決まった。
「グオッ……!」
攻撃を受けることを想定していなかったのか、レイポスはそのまま受け身も取れずに後ろへと飛ばされた。
「ほら、また油断した」
状況が掴めていない様子のレイポスに対して、シスタナシアは容赦なく攻撃を続ける。
剣技 ー三連撃ー
先程の攻撃よりも遥かに威力の高いシスタナシアの剣撃は、地面につくばったレイポスを更に上から叩きのめす形になった。その衝撃で地面は割れ、レイポスはその最深部で動かなくなっていた。
「シスタナシアさん、凄いです!」
遠くで様子を見守っていたフィスタが近づき、シスタナシアを羨望の眼差しで見つめる。
「まだ。油断しないで」
シスタナシアは自身の経験から、先程の攻撃に違和感を感じ取っていた。まるで、表面だけを攻撃しているような不気味な感覚だ。
「……一度の攻撃に見えて、何度かに分けて衝撃がやってくるとは……。なかなか面白いものだな、聖騎士というのは」
シスタナシアがレイポスを地面に叩きつけた場所から、レイポスは立ち上がってきた。腹部と額から黒い血が流れてはいるが、その表情は血に飢えた獣そのもので、先程よりも殺意に満ちていた。
「前言撤回だ、女。先程までの私は確かに油断していた。戦いを他の者に任せると楽だと知ってから、自分で手を下す楽しみを忘れていたようだ」
レイポスは自身の血を舐め取り、鋭い牙をチラつかせた。
「ドロに謝らなければな。結局我も、狩猟本能には抗えないらしい」
ドンッという爆発音のような音がしたかと思えば、フィスタの隣に立っていたはずのシスタナシアは、遥か後方へと吹き飛ばされていた。
「カハッ……!」
大きな岩のような物に打ち付けられ、シスタナシアは血を吐いた。
レイポスの前には、足のすくんだフィスタが立っていた。
「お前は後だ、若い女。楽しみは最後まで取っておかなければ」
そう言ってレイポスは、自分が殴り飛ばしたシスタナシアの方へと距離を詰める。
シスタナシアはもう一度意識を集中させ、目の前のレイポスの攻撃に対応しようとする。
剣技 ー四連撃ー!!
レイポスの拳とぶつかり合った衝撃で、シスタナシアは空中へと飛ばされる。レイポスはシスタナシアの攻撃による衝撃を力のみで振り切り、大きく地面を踏み蹴った。
「衝撃が何重にも来るのは面白い。だが、所詮それだけの話だ」
レイポスは両手を握り、空中にいたシスタナシアを地面へと思い切り叩きつける。先程シスタナシアがレイポスを叩きつけたのとは比べ物にならないほどの衝撃が、地面へと伝わっていた。
「シスタナシアさん!」
フィスタは再び手を組み、祝詞を唱える。フィスタの周りに集まった水は、巨大な手のような形へと変わった。
「握りつぶせ、清流の御手っ!」
巨大な水の塊は、レイポスの体を覆うようにしてそのまま包み込んでしまう。
レイポスは一瞬、自分の身に起きている事に理解が及ばなかったが、大きく拳を振り上げる。
パァンッ!
フィスタが作り上げた水の塊は、レイポスによっていとも簡単に弾き飛ばされ、雨のようにして地面へと、そしてフィスタとシスタナシアを濡らした。
「加護とはいえ、水遊びの範疇だな」
レイポスは口の中に何かを溜め、フィスタの方へと向かって飛ばした。
フィスタはそれを躱す余裕がなく、そのまま腕で受け止めてしまう。フィスタの腕は、燃え盛る炎の中に腕を突っ込んだ時のような激しい熱を感じていた。
「ああああっ!」
フィスタはその場に崩れ落ち、再び自分の力で呼び出した水を応急処置のようにして腕に当てている。
「ふん、その程度の攻撃で泣き叫ぶとはな。女というものはつくづく弱い」
レイポスは地上に降り、倒れ込んでいるシスタナシアの首を掴み、簡単に持ち上げた。
「今まで多くの人間を喰らって来たが、聖騎士は初めてだな。味わって我の血肉としてやろう」
レイポスが大きく口を開き、シスタナシアに噛み付こうとする。
キィンッ!
レイポスの口には、シスタナシアの剣がぶつかっていた。レイポスはそれを受けて、あからさまに不機嫌になる。
そのままシスタナシアを近くに放り投げ、レイポスは尋ねる。
「お前は強くないのだろう?自分で言うのもなんだが、我より強い魔獣などごまんといる。お前はそれらの相手もできまい。なぜ戦う。なぜ命をとして戦う。無駄な行為だと思わないのか」
レイポスの言葉に、既に血だらけのシスタナシアは力を振り絞って答えた。
「……れるから」
「ああ?」
「お前に勝てば、ノエル様が褒めてくれるからだよ……。私にとってあの人は、自分の命よりも大事な人だ!」
シスタナシアは再び強く剣を握りしめていた。
作者のぜいろです!
次の話では、シスタナシアとノエルの過去に触れることがメインとなります!シスタナシアが何故ここまでノエルを想っているのか。それについての話になります!ご期待ください!
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