魔獣討伐作戦 -1 ジュカテブラの遺跡群
夜が明けた朝方、俺とシン、アイルさんとフィスタ、ミゲルの5人を乗せた馬車は、作戦実行の地ジュカテブラの遺跡群へと向かっていた。
「……なあ」
どことなく重い空気を振り払うように、シンが口を開いた。
「フィスタ、加護を持ってるって話は本当なのか?」
シンが尋ねた相手は、前に座っているフィスタだった。龍の巫女の服を着たまま馬車にのる彼女は、どことなく異質な存在だった。
「はい。私には生まれた時から加護が備わっていたみたいです……。この世界では珍しい事のようですが」
フィスタの言葉に、どことなくシンは納得したようだったが、俺は全く理解していない。
「生まれつきの加護って珍しいものなの?」
「加護を持つ人々はその大半が、五大帝国の一つサドムが管理している『精霊の神殿』へと訪れ、加護を受け取ります。ただ、非常に稀有な例として先天的に加護を持つ人々もいるようです。五大英雄の子孫などがその例ですね」
俺の問いかけに、ミゲルさんが代わりに答えてくれた。
「でも、ダリアはこれからサドムに行こうとしてるんだろ?だったらお前も先天的って事になるんじゃないか?」
シンには俺の過去を話している。そのため、俺が先天的に加護を持っていた可能性を感じているようだ。ただ、俺には生まれつき特殊な力は無かったし、アーバの街で力が暴走するまでそれに気がついてもいなかった。
「そう、かもしれない。でも俺は自分の力がどこから来たのかよく分かってないんだ」
「そんなもんなのか」
俺に対してシンは思う所があるようだが、それを口には出さなかった。他の人がこれ以上追及しないように配慮してくれたのだろう。
俺に語りかけてくる存在。顔を隠した謎の女の正体は、結局俺には分からないままだ。ザバンでの王国奪還作戦では、気がついた時には決着が着いていた。
俺は自分の中に眠る力のことを知るためにも、精霊の神殿を訪れなければならい。それが、俺の事を救ってくれたゴーシュさんとの約束でもある。
俺たちを乗せた馬車はマービア湖の近くを通り過ぎ、さらに奥地へと向かっていく。途中に見えた龍の巫女の人達が、こちらに向かってお辞儀をしているのが見えた。
彼女達のためにも、不安の種を取り除かなくてはならない。そう、俺は心に決めた。
ージュカテブラの遺跡群国境近くー
マービア湖から30分ほど行くと、そこにはミスティアに入った時のような濃い霧が立ち込めていた。
そこには俺達よりも先に出立していた、西方聖騎士団の面々を乗せた馬車が止まっており、多くのミスティア王国兵士達が立っていた。その中には、メイナさんの姿
もある。
俺達は馬車を降り、一人一人ジュカテブラの遺跡群に繋がる「国境」を渡っていく。
霧の中に体を通すと、そこには夜があった。今の時間は朝のはずだが、不思議な現象が起きている。
「皆様、お集まりでしょうか」
ミゲルさんは、その場に魔獣討伐へと向かう人々を集めた。俺とシン、フィスタに西方聖騎士団の3人、そしてミスティア王国兵士長の2人だった。
「ここが禁域、ジュカテブラの遺跡群の入口となります。この場所は神獣ジュカテブラの神威によって、1年を通して夜が支配する地域です。ジュカテブラは元々、魔獣から神獣へと成った身。そのため、この場所には人間が近づくことを許しません」
ミゲルさんは俺達一人一人を見つめて続ける。
「事前に報告した4体の魔獣以外にも、下位の魔物が多くいることが予想されます。くれぐれもご注意ください」
ジュカテブラの遺跡群は、禍々しい空気に満ちていた。その場所自体が魔の巣窟であるかのような、そんな妖しい雰囲気だ。
「この国を取り戻すために、皆様には戦っていただきたい。そして魔獣を討ち、ミスティアに光を取り戻すお手伝いをどうか、再度お願い致します」
メイナさんは甲冑を着て、装備を整えている。彼女は王女とは思えないほど低い物腰で、俺達に頭を下げた。
「私達は正義を執行する。必ずやここに、リーシュタッド家の方々、そして龍の巫女の少女を連れて帰ってくることを約束しましょう」
その言葉を放ったのはノエルだった。それに対して他の面々も頷く。
「では皆様、手筈通りにお願い致します」
俺達はペアに分かれ、ジュカテブラの遺跡群の最奥を目指して歩き始めた。
ージュカテブラの遺跡群、最奥地域ー
「暇だねぇ」
ドロの一言に、他の三体の魔獣は沈黙をもって返す。
「そろそろ来てもいい頃なんじゃない?折角喧嘩売ったのにさあ!」
ドロは、ジュカテブラの遺跡群にある巨大な生物の遺骨と思われるものに寝そべりながら腕を伸ばす。まるで駄々をこねる子供のような振る舞いだ。
「我々の使命はこの場所をあの方が来るまで守ること……。そのために我もレイポスもイギーも準備をしてきたのだ……。貴殿の一存でミスティアをけしかけたこと、我はまだ許してはいない……」
ダリアとシンの前に現れた黒色の鎧を着た魔獣は、ドロに対して睨みを効かせるような態度をとった。
「しかし、ドロの言うことも分からなくはねぇだろ、ファワンシーよ。俺達は力を与えられたにも関わらず、それを振るう場所がない」
レイポスと呼ばれた、ワニの顔に人の体をした半獣半人の魔獣は、ファワンシーに向かってそう言う。
「僕もドロっちに賛成だなぁ……。ミスティアの戦力なんかたかが知れてるしさぁ」
イギーと呼ばれた魔人は、風船のようなものに乗りながら、バランスを取っている。彼もドロのように好戦的だ。
「……ん?」
ドロは急に起き上がり、遠くを見つめる。
「来たみたいだ。それも強いオーラをたくさん感じる……!」
ドロの表情は歓喜に包まれ、巨大生物の骨から飛び降りる。4体の魔獣はそれぞれがドロの見つめる先を見ていた。
「褐色の剣士に会ったら教えてよ。あいつは俺の獲物だからねぇ」
そう言ってドロは、大きく黒い翼を生やし、空中へと飛び上がる。
「俺は一番強い気配がする所に行くから、他の奴らは皆でよろしくー!」
ドロはそのまま、ファワンシーとレイポス、イギーを残してその場を飛び去っていった。
「あいつがまいた種だろうが……」
レイポスはやれやれといった表情をしながら、ドロとは違う方向へ歩き始める。
「我は決められた持ち場に行く。ドロの持ち場は二人で対処してくれ」
そのままレイポスは、呼び出した魔物へと乗り、ドロが向かった方とは逆の方へと去ってしまった。
「二人とも自由なんだよなぁ、結局……」
取り残されたイギーとファワンシーは、互いに顔を見合わせる。ドロが本来持ち場としていた場所をどちらが担当するか、せめぎ合っていた。
「私が行こう……。あの方から、ドロの面倒を見るように言われているからな……」
「大変だねぇ、ファワンシー殿も」
二体の魔獣はそれぞれの道につく。
魔獣討伐作戦の火蓋は、切って落とされたのだった。
作者のぜいろです!
今回のお話から、霧の王国編の中の魔獣討伐作戦の話へと入っていきます!
砂の王国編を読んでいただいた方なら分かるかと思いますが、ザバンでの王国奪還作戦と同じように、一つの長いストーリーをまとめて魔獣討伐作戦と銘打ってます!
是非今後の展開にご期待ください!
いいね、ブクマ、感想等お待ちしております!
ぜいろでした。




