戦いに向けて
ドロと名乗る魔人が去った後、マービア湖の近くで待機していたミゲルさんと複数のミスティア王国兵士が現場に訪れていた。
ドロから傷をつけられたミルティさんについては、ミスティア王都で治療を行うとのことらしい。
「すいません、俺達がその場にいながら……。敵を逃がしてしまいました」
俺が謝罪すると、ミゲルさんは顔を上げるように言った。
「今回の件はダリア殿やシン殿の責任ではありません。ただ、早急にこの問題を解決する必要が出てきましたね……」
ミゲルさんは一度メイナさんに今回の件を報告に行くと言って、ミスティア王城へと戻って行った。とりあえずの処置として、龍の巫女を守るためにこれからは10名ほどの兵士を常に配置しておくらしい。
「龍の巫女の為に戦っていただき、ありがとうございました」
アイルさんの家へと戻ってきた俺とシンは、アイルさんに深々と頭を下げられ、お礼をされていた。
「顔上げてくれよ。あんたがあいつを怯ませたから、俺達は戦えたんだ」
シンはアイルさんを励ますようにそう言う。アイルさんは顔を上げて、俺とシンを見つめた。
「この場所は、かの魔人が待つと言ったジュカテブラの遺跡群からミスティア国内でも最も近い場所にあります。今回のような被害がないと言う保証はありません。御二方には、龍の巫女を代表して、災いを振り払う事をお願いしたいのです。メイナ王女から既に言われていることかとは存じますが、改めてお願い申し上げます」
マービア湖を去る時に聞いた話だが、アイルさんは龍の巫女の『総括』という役割を担っているようで、アンドレア家は代々この役割を受け継いできたらしい。
ミルティさんの危機に、誰よりも早くアイルさんが行動を起こしたのは、この責任感の為かもしれない。
「ダリア殿、シン殿。メイナ王女から伝言がありました。魔獣討伐に向けての会議を行うとのことですので、至急王城へとお戻りになる準備をお願いします」
俺とシンはその話を言われる前から、ミスティア王都へと戻る準備をしていた。そのため、すぐにでも馬車で出立することとなった。
「ダリア様、シン様!」
馬車へと乗り込もうとしていた俺達を呼んだのは、アイルさんの娘、フィスタだった。その傍にはアイルさんの姿もある。
フィスタは、はぁはぁと息を切らしながら馬車へと近づく。ここまで走ってきたのだろうか。
「無理を承知でお願いします。私もミスティア王都へと連れて行ってください!」
フィスタの目は、本気の眼差しをしていた。彼女は昨日の態度もそうだったが、アルケミオンの失踪について責任感を強く感じているようだった。それが行動に現れたのだろう。ただ……。
「龍の巫女の少女よ。ここから先は戦える者がその責任を負い、使命を果たすのだ。君の想いは分かる。だからこそ、私達はそれを受け取って魔獣を討つ」
俺より先に、ミゲルさんが反応していた。その内容は俺が言おうとしていたものとほとんど同じだった。
フィスタがどれだけ責任を感じていようと、俺より若い女の子を戦場に送り出す訳にはいかない。彼女のことを思っての判断だ。
しかし、彼女のその後の一言は、俺達の考えを簡単に変えてしまう。
「私、加護を持ってます!私も、戦えます!」
「今、何を……?君が、加護を持っているというのか……?」
ミゲルさんは驚いた顔をして硬直してしまう。俺もシンもそこまであからさまには表情に出さないものの、内心かなり驚いていた。
「この子は、サドムを訪れておりません。生まれた時から加護と共に生きてきたのです。私はこの子が心配でなりませんが、それ以上に親として応援してあげたい気持ちが勝るのです」
アイルさんは、ミゲルさんを説得するように話しかけた。
「しかも先天的とは……。分かりました。お母様も付き添いの元、王女に謁見してはいかがでしょう。戦場への同行などは、私の一存では決められませんので」
ミゲルさんの下した判断は、適切なものだったに違いない。
フィスタとアイルさんは、巫女服のまま馬車へと乗り込み、最後にミゲルさんが馬車へと乗った。5人を乗せた馬車は、王都へと向かって走り出した。
ーミスティア王城ー
「この場に多くの人が集まってくださったこと、心より感謝致します。改めて自己紹介を。私はミスティア王国第一王女メイナ・リーシュタッドです。魔獣によって連れ去られた私の家族、そして龍の巫女の一人を救うため。そして、霧龍様に戻ってきていただくための方法を探すため、どうか、皆様の力を貸していただきたい」
メイナさんは、兵士と同じく甲冑を着た姿で、そこに集まった面々にそう話した。
ここはミスティア王城内の大会議室。そこに集まっている人々は皆、今回の『災い』への対処に関与する者達だ。
ミスティア王国兵士達。ミゲルさんの他にも屈強な体をした兵士の人達が、何名か椅子に座り、テーブルを囲んでいる。
西方聖騎士団の面々。俺とシンに向かって剣を突き立てたノエルという筆頭騎士の他に、薄紫色の髪を一つに束ねた気が強そうな女の聖騎士と、フードで顔を隠した不気味な男の聖騎士がそこに座っていた。
龍の巫女の二人。アルケミオンの管理役として今回の件に関わるアイルさんとフィスタもそこに同席する。フィスタはただならぬ気配に少し緊張しているようだ。
そして、俺とシンのザバンからの使者達。この全ての人々が、災いへの対処に向けて動く。
「今回の『災い』への対処について、ミスティア王国として二つの方向性に絞りました。続きは王国兵士長のミゲルから報告させていただきます」
メイナさんの合図で、ミゲルさんは立ち上がり、説明を始める。
「今回の対応について、大きくわけて二つ。一つは、ジュカテブラの遺跡群に滞在すると思われる魔獣の殲滅及び人質の解放。もう一つは、これに付随する聖獣アルケミオンの復活を主軸として作戦を行います」
ミゲルさんは会議室の中央に置かれた巨大な世界地図を示して言った。
「我々が確認している魔獣は全部で4体。その内の2体は昨日、ザバンからの使者であるシン・ダリア殿の両名がこれと対峙しています」
ミゲルさんがそう言うと、会議室中の目がこちらを向くのが分かった。
「残る2体については、龍の巫女の住まう土地であるマービア湖への侵攻で姿を見せていますが、詳細については不明です」
ミゲルさんはミスティアとジュカテブラの遺跡群との国境を示す部分を指し示し、続ける。
「現在、ミスティアと遺跡群の間に位置する国境近くに拠点を建設中です。早ければ二日後には完成し、作戦の遂行が可能となります」
驚いた。俺とシンが魔人として接敵してからそう長い時間は経っていないはずだが、ここまでの準備がもう出来ているらしい。ちなみに、ミゲルさんにはドロを含む魔獣たちが遺跡群で待つ、という旨の伝言を残したことを伝えただけだ。
「今回の作戦において、参加者の殆どを魔獣の殲滅へと充てます。メイナ王女と、龍の巫女の総括であるアイル様、そして護衛として私とミスティア王国兵士150名は拠点に残り、アルケミオンの復活を待ちます」
ということは……
「魔獣の討伐作戦については、実力者を充て、少数精鋭での撃破を考えております。これは少人数の方が連携が取りやすいためと、敵に気づかれるリスクを減らすためです。あくまでも魔獣討伐と人質救出が同時に行える場合、後者を優先して頂くため、ご了承ください」
ミゲルさんはそこまで言って席に着く。そして、メイナさんが代わりに立ち上がった。
「最後に、魔獣討伐作戦及び人質救出作戦の組み分けを報告させていただきます。実力に偏りが無いように配置させて頂きました」
そして、以下の組み合わせが言い渡された。
A……ダリア・ローレンス&カイ(王国兵士長補佐)
B……ノエル・ジャガー&モンロー(王国兵士長補佐)
C……シン・ネオラルド&ガゼル・ライオット
D……フィスタ・アンドレア&フレンツ・シスタナシア
作者のぜいろです!
次回のお話から、いよいよ魔獣討伐作戦の話へと入っていきます!ミスティアを脅かす魔獣に対してダリア達は対抗できるのか?そしてアルケミオンは戻ってくるのか……ご期待ください!
是非、評価、いいね、ブクマ等お待ちしております!
ぜいろでした。




