龍の巫女
俺とシンは、ミゲルさんに連れられてミスティア南方地域まで送ってくれるという馬車へと乗り込んでいた。災いに関して、アルケミオンの棲家であるマービア湖へと連れて行ってくれるとの事だった。
「災いに関して、アルケミオンの居た場所を見ておくことは、ダリア様とシン様にとっても重要なことでしょう。是非、マービア湖へと足を運んで見てください」
ミスティア城内でメイナさんからそう言われ、ミゲルさんが案内役を買ってくれたのだった。
「キーンのやつは、元気でやってますか」
ミゲルさんは馬車で俺達にそう問いかけた。俺もキーンさんにはザバンでお世話になった。実践では加護を活かせなかったが、その訓練に付き合ってもらった恩がある。
「あいつは元気だよ。俺もザバンの革命の時にはあいつに助けて貰った」
シンがアゴンさんと戦っている時に、キーンさんが時間を稼いだと言う話は、王国奪還作戦が終わった後にシンの口から聞いた。
「そうですか。あいつは私の愚弟ですが、かなり歳がいまして、ザバンでちゃんとやれているか不安だったんですよ。まあ、今では随分と出世したみたいですがね」
ミゲルさんは穏やかな表情でそう言った。キーンさんに顔は似ているが、やはり兄ということもあってか、その落ち着き方はキーンさんとどうしても比べてしまう。
「私達の家系、アンデルセン家は、元々ミスティアの生まれなんです。私はそのままこの国の兵士となりましたが、キーンがザバンに行ったのには理由があります」
ミゲルさんは少し暗い表情をしてそう言った。
「知ってるよ。ザバンに昔起こった魔獣侵攻の影響だろ?」
シンはそう言ってミゲルさんに返す。俺はそんな話などキーンさんから聞いていなかったため、驚いてしまった。
「さすが、よくご存知ですね。ダリア殿は初めて聞いたことでしょうか?」
俺はミゲルさんのその言葉に首を横に振った。そして、ミゲルさんは話し始める。
「魔獣、というのはその名前の通り、魔の力を持った獣、人間を全て指してそう呼びます。ザバンには、今から5年ほど前でしょうか。魔獣達による王都襲来が起こりました。その時、何とか侵攻を食い止め、ザバン王都は守られましたが、何人もの尊い兵士達の命が失われました」
ミゲルさんはそこまで言って口を詰まらせる。
「……ミゲルさん、それ以上は自分の口からだと言いにくいだろ。俺が代わりに話すよ」
「……お気遣い、感謝します」
シンは馬車の窓の外を眺めながら俺に話してくれる。
「その時ザバンを守ってた兵士の一人が、キーンのもう一人の兄貴だったんだよ。ザバン王国軍って訳じゃない、その場に居合わせたミスティア王国兵士として、ザバンに侵攻する魔獣と戦って死んで行ったんだ」
俺はその話を聞いて絶句する。俺が今まで生きてきた中で、魔獣と呼ばれる存在に会ったことがないため、あまり想像ができなかったが、ミスティアが魔獣の侵攻を恐れている理由がわかった気がする。
「私の弟、つまりはキーンの兄にあたる、クォークという兄弟が、その時死にました。キーンは自分の兄と同じような犠牲者、また、自分と同じような境遇を他の人に歩ませないために、ミスティアを出てザバンへと移り住みました」
そのタイミングで、キーンさんはザバン内の悪政を目の当たりにしたのだろう。だからこそ、反乱軍としてカルマさんに着いて行った。自分の中の正しさに従って……。
「すみません、暗い話をしてしまって。ただ、お二人ならキーンの事を知っていると思い、話をしてしまいました」
「いえ、俺は今まで魔獣という存在を知りませんでした。ミスティアに同じ危機が迫っているという事実を知れて良かったです」
俺の言葉に、ミゲルさんは感慨深い表情をしていた。きっと、話すかどうか迷っての事だったのだろう。
それから馬車の中では、ザバンの革命の話やミスティアの国内事情などを聞き、夕暮れにマービア湖の近くへと馬車は到着した。
「マービア湖は、ここから歩いて10分ほどです。さあ、行きましょう」
ミゲルさんは、俺達を先導して案内をしてくれた。その道中でシンが俺に語りかけてくる。
「なあ、『龍の巫女』っていう名前ってことは、女だけがここにいるってことだよな?」
「……そうなんじゃない?」
「それは、あれだな……。良いな」
シンがこういう風にテンションを上げて話すのは初めて見たかもしれない。興味があるのだろうか。
「興味があるの?」
「馬鹿っ!違ぇよ!ただ単純に気になっただけだよ!」
シンはあからさまに動揺しているようだった。興味があるならそう言えばいいのに……。
「はっはっは。確かに『龍の巫女』は女性にしかなる事を許されていません。ただ、彼女達は自分の身を守れるだけの力はありますよ」
俺とシンの話をミゲルさんは聞いていたようで、そう答えてくれた。俺とシンはその言葉に驚く。
「え……嘘だろ」
「冗談ではありません。冗談だとしたら、魔獣がこの地に訪れた時に、一人の犠牲者も出ていないことを不思議に思うべきでしょう」
言われてみれば確かにそうだ。女性しか居ないマービア湖のほとりに住む『龍の巫女』達は、突然の魔獣の襲来に対応したのだ。何か特別な力を持っているに違いない。
「まあ、詳しいことは彼女達から直接聞いてください。私はここで」
そう言うと、ミゲルさんはミスティア王国の印が押された宿屋へと入っていく。
俺達の目の前には、ザバン王都が簡単に入ってしまうほどの大きさがある湖が広がっていた。
湖は夕焼けをその水面に反射させ、オレンジ色の光が湖の周りを取り囲んでいる。そして、湖の周りには幾つかの家が立ち並んでいた。
「ダリアさんと、シンさんですね」
俺達は、背後から話しかけられた。振り返るとそこには、上に白衣を身にまとい、腰から下は赤色の袴を履いた、美しい女性が立っていた。
頭には龍の姿をあしらった髪飾りが、夕焼けに照らされて輝いていた。髪は全体的に紺色に近い色をしているが、毛先の方だけ鮮やかな青色へと変わっている。目は透き通った紺色が、夕焼けに映えている。
「ようこそ、マービア湖へ。私は『龍の巫女』の総括をしております、アイル・アンドレアと申します。話は聞いておりますので、どうぞこちらへ」
アイルと名乗ったその女性は、俺達を導くようにして、マービア湖の奥に見える家の方へと歩き出した。
マービア湖に並ぶ家の中でも、最も大きな家の中へと、俺とシンは通された。ここに来るまでに同じような服装をした人達を何人か見かけたが、全員若い女性だった。
「すげえな……」
シンは感動して言葉を失っている。
「ここまでの長旅ご苦労様でした。どうぞ本日は体をお休めください」
そう言って通された家の奥から、一人の若い女性が出てくる。容姿はアイルさんにそっくりだが、年齢は俺とシンと同じか、それよりもっと若い気さえした。
「フィスタ・アンドレアと申します。今回の事件で御二方にお願いがあり、参りました」
若い龍の巫女は、俺とシンに深く頭を下げた。
作者のぜいろです!
霧の王国編、お楽しみいただけていますでしょうか?どうしても最初の方は戦闘シーンよりもその国で起こっていること、ダリア達の目的を書くために時間がかかってしまいます……(運命)。
ですが、もう少し情報を補足しなければならないので、何とか読んでいただけると、この後のお話がもっと面白く読んでいただけるかと思います!
是非、評価、いいね、ブクマ等お待ちしています!
ぜいろでした。




