西方聖騎士団
「よしてください、ノエル様」
俺に剣を突きつけるノエルと呼ばれた男を静止したのは、メイナさんだった。ノエルは不服そうな顔をしながらも、メイナさんの顔を立ててのことか、剣を収める。
「姫様、そこにいる者達が罪人だということはご存知なのですか?」
ノエルは嫌味のようにそう言った。だが、メイナさんはそれに屈しない。
「知っていますとも。しかし、彼らがザバンで行なった事の功績は大きい。ミスティアはそのように判断しています」
俺やシンがザバンで起こした革命は、思わない形で波及しているようだった。少なくともこの場において説得力を持つ程度には、だ。
「まあ、構いません。罪人を捕らえるのは私の仕事の管轄外ですから」
ノエルと呼ばれた男は、俺とシンに言い残すように言った。
「くれぐれも私達の邪魔をしないことだ。ザバンの英雄だか何だか知らないが、世界連邦にとって敵であることに違いはない」
そう言ってノエルは、俺達のいる部屋を出ていった。場には静寂が訪れる。
「……彼は、サドムを中心として世界西方の秩序の維持を掲げる、西方聖騎士団の筆頭騎士、ノエル・ジャガーという方です。アルケミオン、そしてリーシュタッド家の件で、西方聖騎士団から正式にミスティアに派遣されて来た方なのです」
メイナさんは、いまいち事情を把握しきれていない俺とシンに向かってそう教えてくれた。それに対して、シンが反応する。
「聖騎士団の筆頭?随分と戦力を寄越したもんだな」
シンはノエルがここにいる事の重大性について気がついているようだが、俺にはさっぱりだった。
「筆頭ってなんだ?ザバンでアンバーセンも同じことを言ってたんだが……」
それを聞いたシンは驚く。俺が筆頭騎士について知らなかった事にでは無く、アンバーセンが筆頭騎士だったことについてだろうが。
「聖騎士団には、全部で5つの階級があるんだよ。各地を取り仕切る聖騎士団のトップ、総督、聖騎士団の中でも一部の有力者に与えられる称号の『筆頭騎士』、それに次ぐ『準筆頭騎士』。後は『上流騎士』と『下流騎士』っていう感じだ。ただ、筆頭騎士は実力もそうだが、功績が伴わなきゃ名乗ることを許されねえ。あのノエルって野郎は、それだけの実力と功績を認められてるってことだよ」
シンは聖騎士団についてよく知らない俺に対して、詳しく教えてくれた。その情報を補足するように、その場にいたミゲルさんが教えてくれる。
「ノエル・ジャガー……。サドムにいる8人の筆頭騎士『八騎聖』の内の一人として西方の国々には知られている。ただ、上からの指示よりも自分の正義を貫く男らしい」
罪人を捕らえるのは管轄外、という言葉の意味が分かった気がする。アンバーセンのように『執行人』の名乗る騎士達に、その仕事は任せているのだろう。
「彼が今の筆頭騎士の地位についているのは、かつての大戦あっての事だと聞いているが……。まあ実力は確かだろうな」
ミゲルさんの言葉に気になる部分はあったものの、今必要な情報ではないと思った俺は、追及しなかった。
「ノエル様を含め、西方聖騎士団からは三名の騎士の方が、ミスティアへと来てくださっています。その方々の協力無しに、魔獣の討伐は果たせない、というのが私とミゲルの判断です」
俺とシンは、直接魔獣というものの存在を見ていない。それがどれだけの力を持っている者で、ミスティアにとってどれだけ脅威が迫っているのかも理解は追いついてない。
しかし、メイナさん達を救うためには、世界連邦や聖騎士団との協力は避けられない。恐らくシンも同じ考えだろう。
「災いの件、俺達も関わらせてくれ」
考えは同じだったのか、シンは俺より先にメイナさんにそう伝えた。それを聞いてメイナさんは安堵の表情を浮かべる。
「ありがとうございます……!どうかこの国に、安寧を取り戻す手伝いをしてください」
ーミスティア城内のとある場所ー
「あ!お帰りなさいノエル様!」
ドアを開けて帰ってきたノエルに、一人の女は擦り寄る。ノエルはそれに対して無表情で返す。
「いつも言っていることだ、フレンツ。そう近づけれては邪魔になる」
ノエルはフレンツと呼んだ女をかわすようにして部屋の奥へと進んだ。
「ノエル様……。そろそろシスタナシアって呼んで欲しいんですけど……」
自らをシスタナシアと名乗るその女は、指をモジモジとさせながらノエルの後を着いていく。
「フレンツとシスタナシア、文字数の問題からフレンツの方が効率的だ。西方聖騎士団にお前以外にフレンツという苗字を持つ者は居ないしな」
ノエルは後ろを着いてくるシスタナシアに嫌気が差したのか、突然振り向いてそう言った。いきなりノエルが振り向いたので、シスタナシアは心臓が飛び出るかと思ったほどだ。
「そ、そんないきなり呼ばれても困りますぅっ!」
シスタナシアは顔を赤らめ近くにある本棚の影に隠れるようにして、ノエルから見えないようにした。
(……相変わらずなんだコイツは)
ノエルは優しさのためか、あえてその言葉は発さなかった。
「ガゼル、話しておきたいことがある」
ノエルが向かった一番奥の部屋には、フードを被った男がいた。彼もまた、ノエルと同じように聖騎士団の装甲を身にまとっている。
「ミスティアは私達だけでなく罪人にも手を借りるつもりのようだ。ダリア・ローレンスとシン・ネオラルドと言ったか……。私には関係の無い話だが、この件が落ち着くまでは手を出すなよ」
「……ああ」
ガゼルと呼ばれた男は、端的にそう返した。
「ノエル殿」
部屋を出ていこうとしたノエルに対して、ガゼルはそれを引き止める。
「貴方は何故、聖騎士団に居られる。貴方の心からは、その罪人達に対する怒りが感じられないのだが……。聖騎士団は正義の軍隊のはずだ、罪人を許して良いと思っておられるのか?」
ガゼルの目は、鋭く光っていた。ノエルも背中を向けたまま話すのはいけないと感じたのか、ガゼルの方に向き直る。
「私には私なりの正義がある。少なくとも、罪人を処罰するのは私の正義ではないと考えているだけだ。最も、それが私の正義を邪魔するものなら、容赦はしない」
そのノエルの言葉をガゼルは「フッ」という軽い笑いで返す。
「それが貴方の本心ですか、ノエル殿。少なくとも、私の考えとはかけ離れている」
ガゼルは立ち上がり、ノエルの横を通って先に部屋を出ていこうとした。すれ違う瞬間、ガゼルはノエルに対して囁く。
「貴方はまだ、本当の悪を知らないのですよ」
ノエルに大きな疑問を残し、ガゼルは部屋から出ていった。
作者のぜいろです!
今回の話では、霧の王国編に世界連邦(聖騎士団)側として登場する、ノエル・シスタナシア・ガゼルの3人の騎士が登場しました!
彼らもミスティアでのストーリーに関わってくる重要な人物になるので、是非覚えていただけると嬉しいです!
評価、いいね、ブクマ、感想等お待ちしてます!
ぜいろでした。




