王国奪還作戦 -7 罪人と世界
「戦う前に、一つ聞いてもいいかい?」
アンバーセンさんは、いや、アンバーセンはそう言った。俺はつい、身構えてしまう。
「君は、この国に革命をもたらしたとして、その後どうするつもりだい?」
「……その後?」
「ああ、そうさ。ネオン鉱石やサルノー結晶の扱い方について知っているのは現国王政権だけ。残された国民と、革命を謳う反乱軍で、その後の自治はどうして行くつもりなんだい?」
アンバーセンは、恐らく反乱軍にとっての弱点ともいえる部分を理解していた。今まで国王政権のもと、結晶の貿易で財を成した国民たちには、もはや政権が無くてはならないものへと変わっていた。
それでも、ダリアは思う。そして、反乱軍の誰もが、心に思っている。
「この国の国民は、そんなに弱くない」
「なに?」
「いつまでも守られる存在であるほど、彼らは弱くない!」
スラムの人々の一日を大事に生きる姿も、自分たちの理想を追い求めるシンや元王国軍の姿も、実りに感謝する真面目な国民の姿も、ダリアはこの国で見てきていた。
だからこそ、言える。
「この鉱石はもう、この国にはいらない」
闇纏 ー 黒腕ー!
そう言ってダリアは、闇の力をまとわせた腕で、その場にある全てのネオン鉱石を破壊した。アンバーセンはその様子を、ただ黙って見ていた。
「はあ……。裏のルートでこの鉱石に幾らの値がつくか君は知ってるのかなぁ。世界中の為政者たちがどれだけこの鉱石を欲しているか分かるのかなぁ……」
アンバーセンは、暗い雰囲気に包まれる。ダリアはその瞬間、戦闘の始まりを予感した。間違いなく、裏でこの国を操っていたのは彼女であると、確信した。
「正義を、執行する」
アンバーセンは腰に提げたレイピアを抜き、ダリアに向けて構える。
そして一瞬のうちに、ダリアの頭上へと近づいていた。アンバーセンはそのまま、ダリアに向かってレイピアを貫く。
「……っ!」
ダリアは咄嗟に黒剣を装備し、アンバーセンのレイピアを上から真っ直ぐ受けた。耐えられるだろうとの、算段だった。
しかし、彼女の攻撃はダリアが想像していたものよりもはるかに重かった。というより、レイピアから伝わってくる重さが、見た目のそれとは完全に異なっていた。
アンバーセンは一度ダリアと距離をとる。大事には至らなかったダリアであったが、自分の周りの地面が窪んでいることに気がつく。
それほどまでに重い攻撃を受けたためか、足にはいつもより負担がかかり、疲労を感じている。
「どう?私の加護。とっても動きづらくて最高でしょ?」
アンバーセンはレイピアを優しく撫でながら、ダリアを見据える。彼女もやはり、加護持ちだった。
「私の加護は、『重力の加護』。今みたいに自分の攻撃に重力を乗せて、何倍にもその重さを強めたり、逆に自分の体にかかる重力を減らすことだって出来る。だからね……」
アンバーセンの人並外れたスピードの理由もそこにあった。普通の人間ならば重力による影響でその速度には限界があっても、重力を軽減できれば、その速さは幾らでも速くなる。
アンバーセンは再びダリアまで距離を詰める。レイピアによる猛攻には、一撃一撃見た目からは想像がつかない重みが乗っていて、受けることは得策ではないとダリアは判断した。
辛うじてレイピアの猛攻を躱したダリアだったが、自分の後ろにある壁に、深い穴が空いてることに気がつき、その威力を理解した。
それしても、体がいつもより動かないように感じる。ダリアは少し足をふらつかせた。
「まだ、何かしてるだろ……」
「あら?バレちゃった?」
アンバーセンは屈託のない表情で微笑むと、地面を指さして言う。
「この場所には今、私以外の物に対して、普段の3倍位の重力がかかってるの。君の体重は55キロってとこでしょうから、150キロくらいに感じるんじゃない?」
アンバーセンの加護は、明らかに今まで見てきた加護の中で、群を抜いて便利で、戦いにおける優位性を取りやすいものだった。
普段とはまるで感覚が違う重力空間に、アンバーセンはそれを無視して、人外のスピードで動ける。それに加えてレイピアによる貫通力は、硬い壁に易々と穴を開けてしまうほどだ……。
「ほら、逃げてばかりないで戦いなよ、大罪人!」
アンバーセンは、レイピアによる猛攻を止める気配がない。それどころか、俺はその全てを避けることが出来ている訳ではないので、徐々に傷を負っていく。
「はぁっ……。はぁっ……」
猛攻に加え、普段よりもはるかに重い自分の体を動かすのには、エネルギーを格段に消費する。俺は反撃のチャンスもないままに、追い詰められていた。
「もうつまらないから、終わりにしていい?」
過重力
アンバーセンさんが手を叩くと、俺の周りの重力は更にその強さを増し、俺はその場に立っていられなくなった。黒脚を使い、足に黒い痣を巡らせる事で多少は動けるものの、アンバーセンのレイピアをかわす事が出来る力は、もう残っていなかった。
「さよなら、罪人くん」
重打突・乱舞
重力を乗せたアンバーセンの攻撃によって、俺は肩と腹、そして両足の健にレイピアの打突を食らってしまった。
俺は壁にもたれ掛かるようにして座り込んでしまった。足にはもう、力すら入らない。自分の体から溢れていく血を見ながら、自分の体が段々と冷たくなっていくのを感じた。
「うーん、今まで戦った罪人達の方が強かったなあ……。まあいっか、これで団長に褒めてもらえるぞー!!」
アンバーセンは歓喜に酔いしれていた。実際、彼女はダリアに完全に勝利していた。
一つの可能性を除いては……。
「全く、君の家族は今頃地獄行きだね。あ、もう家族殺しちゃったんだっけ、自分の手で。ハハハッ!」
狂気じみたアンバーセンの笑い声が、広い空洞にこだました。
「何をしているんですか、主よ」
目の前には、怒っているようなポーズをとる、覆面の女が立っていた。彼女に会うのは、これで二度目だ。
「何故あんな女に負けるのです?私は主に信頼を寄せすぎてしまっていたようですね」
それは、言い返せない。俺も自分の力を過信しすぎて、アンバーセンに対して何の成果もあげられなかった。
「主よ」
覆面の女は、俺の眼前に立っていた。
「私に体を貸していただけますか?もちろん無理にとは言いませんが、このままでは主は死んでしまいます」
死ぬ……。そうか、あんなに血、出ちゃってたもんな……。
「諦観ですか……。それは、肯定とみなしますよ?」
覆面の女は立ち上がり、俺に言った。
「力とは、こうやって使うのです」
アンバーセンは、目の前にいる罪人をどう処理するか迷っていた。
世界連邦における執行人としては、処分した人間については処分報告だけで済まされる。だが、アンバーセンはどうしても自分が処理したという証拠が欲しかった。
「あ、これなんてどうだろう」
アンバーセンは、ダリアが首から提げていたネックレスのようなものに手を伸ばそうとする。
ガシッ
アンバーセンの手は、意識を失った、あるいはもう既に絶命していたはずのダリアによって、突然鷲掴みにされた。
「主を侮蔑するなよ、女」
アンバーセンを睨みつけるダリアの目は、目の白い部分は黒色になり、瞳孔は妖しい黄色に光っていた。そこに、オッドアイの美しい目をした少年の面影は、残っていなかった。
作者のぜいろです!
ダリアとアンバーセンの戦いは佳境に迫っていますが、次話で一応王国奪還作戦は終わる予定です。
ここまで見てくださった皆さん、ありがとうございます!話はまだまだ続きますので 、この後も楽しみにしていてください!
是非評価やブクマ、いいね等お待ちしております!
ぜいろでした。




