王国奪還作戦 -6 紅い目
全力を出す覚悟をした二人の男は、お互いの武器を構えたまま、睨み合っていた。
先に動いたのは、アゴンだった。
自身の体ほどある巨大な戦斧を、アゴンはあろうことかシンの方へと向かって投げた。回転する戦斧への対処をシンは一瞬考えたが、体を後ろに倒してそれを避ける。
それを好機と見て、アゴンは獣のような俊敏な動きでシンまでの距離を一気に詰めてくる。
獣の鋭爪!
体勢を崩した状態のシンに、アゴンは容赦なく狙いを澄ます。シンはそれを大剣で受けきり、アゴンの腹部めがけて強烈な蹴りを叩き込む。
(このデカさに、普通の蹴りは効かねぇ……)
攻撃特化 ー80%ー
「おらあああっ!」
シンの両目は赤く光り、シンの攻撃に対して油断しているアゴンに、その蹴りは深く突き刺さった。
「グハッ……!」
アゴンは吹き飛び、採掘場の入口に叩きつけられる。しかし、獣の頑丈さゆえか、そう長くは倒れていてくれなかった。
「……今の蹴りは、効いたぞ」
アゴンは口元の血を腕で拭う。久しぶりの強者との戦いに、アゴンは笑みを隠すことが出来ない。
「この国にも、私の事を真に理解してくれる者はいなかった!この見た目と加護のせいで、私が受けてきた迫害の数々が分かるか!?」
アゴンは先程の蹴りが効いていないかのような素振りを見せる。それどころか、シンにとって理解不能なことを言っている。
「ガキじゃねえんだからよ、人のことをどうこういう前に自分の悪い所でも探してみたらどうだ?」
シンは目の光を再び赤と青に戻し、アゴンの出方を伺った。どんな攻撃にも対応できるように。
シンの加護『特化の加護』は、自身の身体能力などを大幅に上昇させることが出来る能力である。
強化している身体能力に合わせ、目の色が変わるため、知っている人間にとっては何の能力を強化しているのか、一目で分かるようになっている。
また、全能力の合計強化率は100%となっているが、これはあくまでも、その能力の100%を引き出すというものであり、倍々にしたりするものでは無い。
「ああ、全力でぶつかっても良いのだな、小僧」
そう言ったアゴンは、両手を地面につき、本物の動物のように、四足歩行の状態になった。そして、獣のような雄叫びをあげる。
獣の咆哮!
それをまともに聞いてしまったシンは、その場から動くことが出来なくなった。まるで足に力が入らない。自分の意思とは裏腹に。
その無防備な状態に向かって、アゴンは突進してきた。そして、鋭利な爪でそのままシンの体を引き裂く。
「ぐああっ!」
シンの体から血が吹き出し、その血は返り血となって、アゴンの体にも飛び散る。
「私の咆哮をまともに聞いて、無事に立っている人間は初めて見たな……。それでもその場から動けない程度には足がすくんだようだが」
アゴンは自分の顔についたシンの血を舌で舐めとり、傷口を抑えるシンへとゆっくり近づいた。
「私は強さを得るために、かつての同胞を食らった。まあ、その時私は暴走していたが為に、記憶は無いがな」
アゴンの加護は、既にその思考回路まで侵食しているようだった。
「認めよう、小僧。貴様は確かに強い。後数年もすれば、私を脅かす存在になっていたかもしれん。だが、ここまでだ。もう二度と私に逆らう気すら無くしてやる」
アゴンはそう言ってシンの首根っこを掴み、軽々と持ち上げる。二人の間には、それほどまでに大きな力の差があった。
ただ、アゴンは一つ、誤解をしていた。
それは、相手がただの加護持ちの人間ではなく、かつて五大帝国の一つに逆らった大罪人であるという事実を知らない事だった。
「あと数年……だと?馬鹿言ってんじゃねえ……」
シンは大剣を手放し、アゴンの腕を両手で掴みとった。そしてシンの目の光は、アゴンが今まで見たことの無い色に変わっていく。
「俺にはもう、お前を待つ義理なんかねえんだよ」
シンの目は、濃い赤色に輝いた。それは、シンの加護によって攻撃特化を行った時のものでは無い。それよりも遥かに、真紅と呼ぶべき色をしていた。
「き、貴様、まさか……。××××××なのか……」
アゴンは、とある名を口にした。それを聞いたシンは、不敵な笑みを浮かべる。
「昔捨てた名前だけどな。俺の中にはその血がまだ残ってるらしい」
シンはそれから、一瞬のうちにアゴンの手を振りほどいた。正確には、万力とも言える握力によって、アゴンが自分から手を離したのだ。
「お前相手に、もう武器なんか要らねえ」
シンはそう言うと、一瞬でアゴンの懐へと入り込む。驚いたアゴンは距離を取ろうとしたが、それよりも少しだけ、シンの拳がアゴンの胸を貫く方が速かった。
アゴンは目を覚ました。周りを見渡すと、そこには自分の知らない王国軍の服装を身にまとった兵士たちがいた。
「……私は、負けたのか」
アゴンは目の前で起きていることと、自分の体が、身動きが取れないように拘束されている状態を見て、察したようだった。
「バビクス様……。申し訳ない……」
あからさまに肩を落とすアゴンの近くに、シンが寄ってきた。その手には、ネオン鉱石が持たれている。
「なんでアンタみたいな強いやつが、あんなクズの国王に従ってるかと思ったら、これのせいだったんだな」
アゴンはネオン鉱石を見つめ、我に返ったような表情をする。
「それは、私の武器の一部……」
「このネオン鉱石は、従属の石って呼ばれてる。お前の主人として契約された、バビクスに与えられた斧にこれが埋まってた」
シンはそう言うと、アゴンの前でネオン鉱石を砕いた。その瞬間から、アゴンの目から、曇りのようなものが引いていった。
「わ、私はなんてことを……」
ネオン鉱石による支配が解けたアゴンは、シンと戦う前のような威圧を放つ男とは思えないよな口調に変わった。カルマから聞いた話では、ネオン鉱石に捕らわれていた間の記憶も残っているらしく、自責の念にでも駆られているのだろう。
「あんた強いんだから、あんなクソみたいな国王に従うべきじゃないぜ」
そこには、ボロボロのままのキーンもいた。しかし、強敵と戦いその証を残したことで、キーンはどこか誇らしげだった。
「それでシン、広場の方はどうやら事態が収まったらしいが、ダリアはどうした?」
キーンは直前まで一緒にいたはずのシンに尋ねる。
「分からねえ。作戦通りあいつは、姿を隠して採掘場の中に入ったはずだ。その後の動きは何も……」
ドオオオオンッ!
その時、採掘場から少し離れた場所で爆発のような音がして、あたりはその爆発からくる激しい風に襲われた。
少しして、辺りの砂が落ち着くと、爆発のあった方向に、二つの影が見えた。
一つは見え覚えのある女の姿。もう一つは、体全体が黒色の物質に侵され、体の周りにも黒い粒のような物を張り巡らせた、ダリアの姿だった。
「ダリア……」
作者のぜいろです!
王国奪還作戦、ついにシンとアゴンの戦いが終わりました!
シンの正体については話がもう少し進んでから分かるようになっています!今までの話の中に伏線のようなものは作っていませんが、シンの過去については後々書きます!
是非評価やブクマお待ちしております!
ぜいろでした。




