王国奪還作戦 -5 獣と盗賊
ー採掘場入口ー
「ふんっ!」
アゴンの強力な突き上げは、シンの体を軽々と空中へと持ち上げた。シンは別に軽い訳では無い。なんなら同じくらいの身長の人間の中では筋肉質な方である。
「また正直に受けるつもりか?いつまでお前の体がもつか分かったもんじゃないな!」
そう言ってアゴンは、空中に飛ばされたシンに狙いを定め、落下地点でシンを待ち構える。
「……くそっ」
シンは自分の刀に手を添え、攻撃を受ける姿勢をとった。もちろん、それだけでは自分の体も刀もそのダメージを防ぎきれないことは、承知していた。
防御特化 ー40%ー
アゴンの戦斧とシンの刀は激しくぶつかり、周囲に火花をまき散らし、轟音を轟かせた。
砂埃の中から、シンとアゴンは共に立ち上がる。
「私の一撃を受けてもなお立とうとする、その精神は認めてやろう……。だが、そんなことを繰り返しても私には勝てん」
「……うるせえな。まだこっちは本気出してねえよ」
「……ははっ。面白い冗談を言うじゃないか。2年前に敗北を喫し、今ですら私に一撃も見舞えないお前に、よくそんな口がきけたものだ」
アゴンはシンを煽るように高笑いした。2年前とは違う自分を見せなければならない、というプレッシャーにシンは襲われていた。
「前は加護を使うところまで追い詰められたが……。今回はその必要も無さそうだな」
アゴンの強力な突進を喰らい、不意をつかれたシンは近くにあった岩の方まで飛ばされる。
「カハッ!」
口からは血が吹き出し、体の一部は岩へとめり込んでいる。
「……結局お前も、つまらない」
アゴンは岩にめり込んだまま動かないシンを見て、呆れて持ち場に戻った。採掘場の入口にどっしりとあぐらで座り込み、頬杖をついている。
その時、採掘場にやってきた男がいた。
「おいおいなんてざまだ、シン!」
シンが顔を上げるとそこには、作戦で広場にいたはずのキーンの姿があった。
「キーン……!」
キーンの姿にアゴンは気が付き、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「お前の顔は、見たことがあるなぁ。王国軍を辞めた男の一人じゃないか?今更どんなつもりでここに来たんだ」
キーンは、一般の人間に比べれば上背も筋肉も、その全てにおいて勝っている。しかし目の前にいる男は、そんな自分が子供に見えるほどの、巨体だった。
「シンじゃお前は手に余るってな。お前の相手は俺で十分だぜ」
「言ってくれる」
アゴンはあえて見え見えの挑発に乗り、キーンの腹部めがけて拳を振り抜いた。
それを、キーンは両手で受け止めていた。しかし、腹部へのダメージを完全に無くしているわけではなかった。
「……効かねぇなぁ。お前みたいなヘナチョコ野郎のパンチなんて……。っ!」
キーンは隠そうとしているが、ダメージが入ってることは、シンの目から見ても一目瞭然だった。
「やめろ、お前に勝てる相手じゃねえ!」
シンは必死に叫んだが、キーンはそれでも止まらなかった。無謀とも思えるアゴンに対して、正々堂々正面から向かっていった。
「所詮、威勢だけだな」
アゴンはそうやって向かってくるキーンを、何度も殴り、何度も蹴り、何度も投げ飛ばした。アゴンが攻撃をする度に、キーンの体は痣だらけになり、至る所から出血している。
そんなことを、何回繰り返しただろうか。何度痛めつけられても、何度罵られても、キーンは休むことなくアゴンに向かい続けた。
「……いい加減しつこいぞ!」
アゴンの渾身のパンチが、キーンの腹部にもろに入った。それを受けてキーンは、その場に倒れ込む。
「なんなんだ、お前は……。そこまで体を張る理由がどこにある……」
アゴンは呆れたような、疲れたような表情でキーンに問いかける。
「理由……?そんなの決まってるだろ……」
キーンはそれでも、立ち上がった。その男の顔は既に、目も当てられないほどに、腫れ上がっていた。
「この国の、未来のためだ!」
アゴンはその言葉を聞き終わらないうちに、その巨大な拳を振り下ろしていた。キーンにもう、それを躱すだけの力は残っていなかった。
「未来なら、私達が与えてやろう。もっとも、幸福な未来とは約束しないがな」
ドオオオオンッ!
砂埃が、砂漠に舞う。アゴンの重い拳の衝撃は、違和感を感じ取っていた。
「……すまねぇ、俺が不甲斐ないばっかりに」
「やっとか、この野郎」
ボロボロのキーンを守るように、アゴンの拳をシンが受け止めていた。その目は、ただアゴンだけを見つめていた。
「小賢しい」
アゴンは2人まとめて振り払うように、左の手で横から殴りを入れようとする。しかし、気がついた時にはそこにはシンの姿もキーンの姿もなかった。
速度特化 ー60%ー
シンはキーンを抱え、一瞬で先程自分がいた岩の近くまで移動してきていた。
「おいシン、今のスピード大丈夫なのかよ?」
「やっぱり60%でも、体に堪えるな……」
そう言ってシンは笑った。シンが久しぶりに見せた笑顔だった。
「ありがとな、キーン。お前のおかげで冷静になれたわ」
シンはキーンに背を向け、戦斧を構えて臨戦態勢に入っているアゴンの方へと向かう。
「この作戦が終わったら、飯でも行こーぜ」
「キーンの奢りなら喜んで」
そこで、キーンの意識は途絶えた。最後の希望を、シンに繋ぐ形となった。
「すまねえな、さっきまで手加減してたみたいで」
シンは飄々としてアゴンの前に立つ。アゴンの表情からは余裕が消え、本気で相手を潰す目をしていた。
「さっきまでの俺は、負けたらどうしようとか、他のやつに面目が立たねえとか考えちまってた。でも、そんな心配はいらないみたいだった」
シンは、遠くで意識を失っているキーンの方を見て、優しく言った。
「この国の人間は強い。だから、支配者なんていらないんだよ。とっとと失せるんだな、デカブツ」
武器特化 ー20%ー
攻撃特化 ー40%ー
速度特化 ー40%ー
シンの持っていた刀はその形を変え、アゴンの戦斧にも並ぶほどの大剣へと成った。そして、シンの目は、赤色と青色の光に包まれていた。
「謝罪しよう、さっきまでの俺は確かに弱かった」
そう言ってシンは、アゴンの背後に一瞬で回り込んだ。その動きに体が追いつかず、防御が出来ないアゴンの甲冑を着た背中を、シンは思い切り切りつけた。
ギイイインッ!
アゴンは先程シンが飛ばされたように、採掘場の入口近くまで吹っ飛ばされた。しかし、アゴンにダメージを与えるのには、まだ十分ではなかった。
「明らかに力と速さが上がったな。そういう加護か……。いいだろう、こちらも手加減は無しだ」
そう言ってアゴンは、深く息を吸い込んだ。アゴンの動きが2.3秒静止したかと思うと、突如凄まじい咆哮が周囲に響き渡った。
ウオオオオオオン!
それは人間のものというより、獣に近い声だった。アゴンの元からの屈強な体は、獣のような体毛に覆われ、牙と爪はより鋭利になっていた。
まるで狼のようなシルエットが、夜の景色に馴染んでいる。そしてアゴンは、巨大な戦斧を再び構える。
それに応えるようにして、シンも大剣を構えた。
「第2ラウンドだ」
二人の戦士の声が、重なった。
作者のぜいろです!
王国奪還作戦のうち、シンとアゴンの戦いを現在書いています!
2人とも加護持ちなので、次話では熱い戦いがあることを期待しましょう!
男気溢れるキーンさんも、砂の王国編の中では好きなキャラです。
是非評価やブクマ等お待ちしております!
ぜいろでした。




