表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第1章 砂の王国編 ー国の夜明けを待つ者達ー
19/138

王国奪還作戦 -4 執行人

そこに居たのは、馬車で乗り合わせた()()()()()()()、アンバーセンさんだった。


「おかしいなあ、迷い込んだにしては奥深くだし、それに……」


アンバーセンは不敵な笑みを浮かべている。


「アゴン君がいたよね?」


その時の目は、かつて彼女がシンに向けたものと同じだった。殺意を込めた、冷酷な目。彼女の世界連邦の人間としての姿そのものだった。


「噂をね、聞いたんだ。反乱軍の中に大罪人が混ざってるって」


アンバーセンさんは不敵な笑みのまま近づいてくる。でも、目だけは笑っていなかった。



「……思い出した。黒髪に、オッドアイの子供……。ダリア…ローレンス」


アンバーセンさんは、目で追うのがやっとの高速の蹴りを俺に当てようとしてきた。俺はそれを身を翻して躱し、アンバーセンさんの背後に回る。



「君が、かの大罪人だなんてねぇ。運命はあるものだ……」


運命、とアンバーセンさんは言ったが、俺にはその言葉の意味が分からなかった。



「私が世界連邦の考古学者っていう話はしたね」


アンバーセンさんは無数にあるネオン鉱石の一つをつまみ上げ、顔の前に持ってきた。その表情は美しいものに取り憑かれた人の顔をしていた。


「それはあくまで表の顔……。私の本当の姿は、聖騎士団筆頭()()()。『無為のアンバーセン』」


アンバーセンさんは、ネオン鉱石を指で挟んで粉々に砕いてしまった。その時のアンバーセンさんの顔は、俺が今まで出会った誰よりも、悪意に満ちていた。



「聖騎士団の執行人は、私刑によって罪人を処罰することが認められた唯一の存在……。君なら、この意味が分かるだろう?」


アンバーセンさんの笑みは、もう彼女の表の顔を隠すことは出来なくなっていた。



「ザバンは世界連邦にとって重要な場所なんだ。各地にいる貴族たちにサルノー結晶の唯一の採掘場所として重宝されているからね。でも、近年情勢が変わった」


「……ネオン鉱石」


俺の言葉にアンバーセンさんは振り向き、軽く拍手をした。



「察しがいいね!この石は為政者達にとって重要な意味を持つ。本人の意志の元に合法的な()()()()を結ぶことが出来るという意味で、ね」


なぜ、世界連邦の役人であるアンバーセンさんがここにいるか、俺はようやく理解した。




サルノー家にとって、ザバンにとって最も重要な資源は、サルノー結晶()()()()。その、不気味な光を放つ鉱石こそが、この国が栄えた本当の理由だったのだ。


「さて、君は過去に大罪を犯した罪人。そして今、世界の為政者達の地位の根源とも言える物に手出そうとしている……。言いたいことは、分かるよね?」


アンバーセンさんは、それでも尚笑顔を崩さない。




平和とはなんなのか。世界連邦とは何者なのか。世間に疎い俺は本当のところは分からない。ただ、一つだけ言いきれることがあった。



「あなたは俺の、いや、この国を憎む全ての人の敵だ」


アンバーセンさんは、余裕の笑みで返した。





ー同刻、ザバン城前広場ー


「……腕が鈍ったんじゃないか?ロリックよ」


剣を構えるミルは、カルマを視界に捉え続けていた。一方のカルマは腹部から血を流し、その部分を手で押さてえている。


「お前がザバン王国軍を去った後、何人もの革命を謳う兵士たちが反乱を起こそうとした。その業火のような怒りをこれまで鎮めてきたのは誰だと思ってる」


ミルは傷を負ったカルマに近づく。カルマは苦悶の表情を浮かべながら、ミルを睨みつける。


「そうまでして、自分の地位を守りたいってか、バンダレイ」


「違うな、私はザバンのためを思ってやっているのだ。人間は弱く、脆い。指導者が居なければ自分一人では動くことの出来ない木偶の坊たちに、道をひとつ与えてやっているだけだ」


「考え方が腐ってるな」


カルマは力を振り絞り、その場に立つ。だが、既に全力で剣を振ることが出来るほどの力は残されていなかった。


「私が先祖の威光だけで今の地位にあると思うなよ。ここまで来たのは、私の剣術の力あってこそだ」



ミルは傷を庇いながら剣を構えるカルマに対して、距離を詰めた。


左から右に、カルマの首を狙う剣筋を、カルマは既のところで受け止める。


「この国は私たちに任せてもう眠れ、ロリック。お前は革命を起こすには、もう歳をとりすぎだのだ」


ミルはカルマに受け止められた件を振り払い、カルマの胴体を蹴り飛ばす。カルマは口から血を吐き、地面に這いつくばる。


「……そんなことは、分かっている」


カルマは、地面にしゃがんだまま、言葉を漏らした。


「だからこそ、若い者に儂達はこの国の命運をかけてきた」


カルマのその言葉に、ミルは顔をしかめる。


「数年前に城まで攻め込んできた褐色の小僧のことか?あれでは無理だ。アゴンには到底及ばん」


ミルはシンのことを鼻で笑う。それに対してカルマは、怒りをもって応えた。


「ふん、あいつの事を何も知らんお前が何をほざく」


そしてカルマは剣を地面に突き立てて、立ち上がる。その様子を、ミルは哀れだと思った。



「あいつは、強い。だからこそ儂は、信頼をもって送り出した。この国に革命は近いぞ、バンダレイ」


自惚れ(うぬぼれ)は身を滅ぼすぞ」


そしてミルは、カルマの胴体に剣を突き立てた。……かのように見えた。




「……貴様、何をした」


ミルが握りしめていたはずの剣は、カルマの胴体に刺さったかに見えたが、瞬時のうちに、その姿を消してしまった。


「……自惚れか。そうかもしれないな」


カルマはニヤリと笑い、ミルの胴体を斜めに切り裂いた。


「少なくともお前は、儂の加護を知らずにここまで生きてきた。それは確かに自惚れだな」


魔法の箱(マジック・ボックス)


それは、カルマに触れたものを()()()()彼の作りだした空間に『収納』するというもの。


ミルが貫いた剣は、確かにカルマの胴体にあった。しかしその瞬間にカルマは加護の能力を発動し、この剣を自身の能力の中に消失させていた。



「……貴様、加護持ちだったのか」


ミルは血を流しながら、カルマを睨みつける。カルマは余裕の笑みを持って返した。


「情報は、最後まで隠しておくことだ。ペラペラと自分のことを話す男は嫌われるぞ、バンダレイ」


「……くそっ!」


そのままミルは倒れ込んだ。地面には、ミルの血が水溜まりのように広がっていった。





「……儂も無事じゃ済まんがな」


カルマの胴体からは、赤い血が垂れてきていた。自身の体に触れることが条件であった能力のために、胸の部分に刺し傷を作ってしまっていた。


「後のことは頼んだぞ。シンにダリアよ……」


カルマは力なくその場にしゃがみ込んだ。





カルマ・ロリック VS ミル・バンダレイ


カルマ・ロリックの勝利

作者のぜいろです!



今回の話では、アンバーセンさんの裏の顔と、カルマ対ミルの戦いに決着がついた所まで書いてます!砂の王国編は、残り5話ほどで終わってしまうので、是非楽しみにしてください!



ぜいろでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ