王国奪還作戦 -3 邂逅
「この先がサルノー結晶の採掘場だ。気ぃ引き締めとけよ」
俺は、シンと共にザバン郊外の砂漠へと来ていた。シンが知っていた抜け道を使って、城壁を守る護衛の王国軍の目につかないようにしている。
「ジジイはああ見えて頭が回る。俺はバビクスの護衛につくと思っていたが、アゴンがこっちを守る可能性は当然あるもんな」
シンは2年前の宿敵との戦いを前に、思うところがあるようだった。
「ダリア、もしアゴンが採掘場を守っていたら、その時はアゴンを俺に任せて欲しい」
シンは採掘場までもう少しというところで俺にそう伝えた。
「もちろん」
俺はその頼みに応える。この国で雪辱を晴らすタイミングを誰よりも伺っていたのは、他ならぬシンだろう。
そこから少し行くと、地盤が固まり、砂漠の中でも異質な場所へと出た。そこには目印にするかのように沢山の松明が置かれ、ザバンの夜を煌々と照らしていた。
「……やっぱりいたか」
シンが見つめる先には、大柄の黒髪の男。髪の毛はまるで獣のように荒ぶっており、その腕の太さは、普通の人間の太ももくらいはありそうだった。
なにより、近くに置いてある戦斧の大きさが、普通のそれとはまるで異なっていた。
「デカブツ野郎、あの日の借り、返してやるからな」
シンはそう言い残して一人で飛び出て行った。ここまでは俺とシンの作戦の通りである。
攻撃特化 ー20%ー
「おらああああっ!」
シンの刀による攻撃は、アゴンの頭を思い切り切り倒した……かのように見えた。
「久しいな、小僧」
アゴンはそれを、手に着けた金属の手蓋(小手)で軽く受け止めていた。そのニヤけた顔を見ると、シンの頭には2年前のトラウマが蘇ってしまう。
「何年ぶりだ、俺の前に姿を見せるのは……。怖気付いたのかと思ったぞ」
アゴンはシンを片手で振り払い、ゆっくりとその場に立った。シンは後ずさりし、勢いを止めた時の反動で砂埃が宙に舞う。
「お前たちは手を出すなよ。俺の、獲物だ」
アゴンは、後ろにいる王国軍の兵士たちにそう伝えた。彼らはそもそも、一撃目のシンの攻撃すらまともに受けきれないことを、自分たちの感覚で理解していた。
シンは、上手くやってくれている。今のうちに俺は、俺の仕事をやる……。
闇纏 ー黒衣ー
俺は空気中に黒い物質を放出し、その物質を固めて、自分の周りに漂わせた。原理は分からないが、これによって俺は、景色にとけこめる。
アゴンとシンの睨み合う最中を悠々と歩いて通り過ぎ、二人の気迫に押された王国軍の兵士たちの間も、通り抜けていく。
そして俺は、地下へと続く道を下って行った。
松明は採掘場の道を照らしてくれるが、砂岩で出来た自然の階段は、人間が歩いて下るにはやや不便である。
俺は余計な音を立てないように、1歩ずつ、歩みを進めて行った。
しばらく下ると、目の前に広い空間が広がっているのがわかった。薄暗いその場所は目を凝らしてやっと構造が分かるほどの、窮屈な場所だった。
その場所には、青白く光る石のようなものがあった。
「これが、サルノー結晶……」
その光は聞いていた通り、見る者を虜にするような光を放っていた。薄暗い場所だからこそ余計にその綺麗さが際立って見える。
採掘場の中には、誰もいないようだった。王国軍の兵士が護衛をしているかと思ったが、杞憂だったらしい。
そう思って俺は、歩き出そうとした。しかし、目の前に広がる違和感にようやく気がついた。
「……え?」
そこには、王国軍の武装をした兵士が、既に倒れていた。息はあるようだが、3~4人ほどの兵士が、地面に横たわっていた。
(……俺の前に、誰かが来たのか?)
俺はあらゆる可能性を考えたが、ここに反乱軍の人間がいるはずがない。
カルマさんと、キーんさん等の元王国軍兵士たち、そして蜃気楼の盗賊たちは、広場に向かっている。
シンさんは採掘場の入口でアゴンを抑えている。
俺に与えられた任務は、採掘場の制圧。もし王国軍がいればそれを無力化するように言われていた。
それが、俺達の王国奪還作戦だった。
(……一体誰が?)
俺の中に疑問が湧いた時、地面にある物が落ちているのに気がついた。
(……血痕だ)
恐らく、この場に倒れている王国軍たちの返り血と思われる血痕が、広い空間には点在していた。そしてその血痕は、俺を導くようにして、広い空間から繋がる一本の道へと案内しているようだった。
俺は、血痕を頼りにその道を真っ直ぐ進んだ。血の跡は相変わらず道に点々と記されている。
3歩先も見えない暗闇の中、道は行き止まりになった。しかし、俺は行き止まりの壁に違和感を覚えた。
(……奥に、空洞がある……)
壁を軽く叩いてみると、奥から跳ね返ってくるような感覚がある。俺は意を決して、その壁を壊すことに決めた。
闇纏 ー黒腕ー
その力で思い切り壁を殴りつけると、壁の向こう側から眩い紫色の光が、俺の体を包んだ。
「……っ!」
俺は突然の出来事に集中をかき、黒衣を解いてしまった。
行き止まりの先は、紫色の光を放つ鉱石がそこら中に散らばっている光景だった。
「……ネオン鉱石」
カルマさんとシンに、王国奪還作戦のことを伝えられる前に、ネオン鉱石の話は聞いていた。
自身と心を通わせる者に対して強制的な従属関係を結ぶ、魔石。それがネオン鉱石だと。シンが盗賊団として奪った物品の中にこれが紛れていたらしい。
「なんで、こんなところにあるんだ……」
俺はまだ、この国の本当の姿を知らないのかもしれない。そう思った時だった。
「どうしたんだい、こんなところで」
後ろから突然声がして、俺は臨戦体勢をすぐにとった。振り返った先にいたのは、俺の知る人物だった。
「あれ?セリア君じゃないか。なんでこんなところにいるんだい?」
「……アンバーセンさん……」
そこに居たのは、馬車で乗り合わせた世界連邦の考古学者、アンバーセンさんだった。
作者のぜいろです!
今回の話で、王国奪還作戦に出てくる重要なメンツは全員出てきたことになります!
カルマとミル、シンとアゴン、そしてダリアとアンバーセン。それぞれの戦いがどうなっていくのか、是非ご覧ください!
評価、ブクマ等お待ちしております!
ぜいろでした。