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五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第1章 砂の王国編 ー国の夜明けを待つ者達ー
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王国奪還作戦 -2 開戦

ーザバン城前広場ー


「今年も無事にこの記念祭を迎えれたな」


「ああ、後はこの式典が無事に終わることを祈るばかりだ」


王国軍の兵士たちは、広場前で行われる式典の警備のため、記念祭にもかかわらず仕事をさせられていた。彼らには人質がおり、反抗など最初から可能性としてない。


「俺は早く娘に会いたいよ……。寂しい思いをさせてしまっているだろうから……」


「俺はお袋だな。兵士じゃなきゃ、もっと沢山話せただろうに……」


王国軍の兵士のほとんどは、彼らのように胸に心残りがある者達である。人質を理由に、従いたくもない王政に従わざるを得ない状況となっている。


「正直俺は、2年前の盗賊には期待してたんだけどな。アゴンさんが強すぎて結局失敗に終わったけど……」


兵士の一人がそう呟くと、二人の後ろから大柄の男が足音を踏み鳴らして近づいてきた。


「私の噂話か?感心しないな」


「ア、アゴンさん……。お疲れ様です……!」


二人の兵士は、アゴンに対して敬礼を行う。その間をわざとぶつかりながら、アゴンは通り過ぎていく。


「ふん、肝っ玉の小さい奴らよ。陰口を叩くのは、喧嘩を売るに等しい行為だと思うことだな」


そう言って、アゴンは近くにあった木に向かって、思い切り拳をぶつけた。


木と拳がぶつかった衝撃が、風となって兵士たちの間を抜けていく。アゴンが殴った部分から、木にミシミシと割れ目が入り、木はそのまま倒れてしまった。


「サルノー家に恩はあれど、貴様らにはなんの思いもない……。覚えておくことだな」


そしてそのまま、アゴンはサルノー結晶の採掘場の方へと向かっていった。


「やっぱり、アゴンさんがいる限り、この国の政治には誰も口出し出来ないんだろうな……」


二人の兵士は揃って肩を落とした。





「それでは只今より、サルノー王家主催によるザバン国民のための『記念祭』式典を執り行います」


兵士の一人が、広場に集まった国民に向かって挨拶を述べる。そこに集まっている国民とは、もちろんサルノー結晶や、貿易業によって私財を蓄えた、いわゆる成功者たちであった。


「まず初めに、現ザバン国王、サルノー7世であらせらるバビクス・サルノー様に、ご挨拶を賜ります」


バビクスは、名前を呼ばれて上機嫌で広場の舞台へと登った。そして国民に向けて話す。



「今年もこの祭りを執り行えたこと、大変嬉しく思う。皆の協力で、ザバンはますます栄えている。今後もこの国をより豊かにするため、努力してもらいたい」


バビクスの挨拶に対して、国民は感激の表情を見せている。それを見たバビクスは、行動に移った。



「かねてからもそうであったが、皆は私の忠実な国民である。その事を改めて、()()()()()()()()()()


そう言ってバビクスは、()()()()()()()()()()()



「さあ、返事は?」



国民は顔を見合せ、笑顔で答えた。


「もちろんです!」




その瞬間、辺りに黒いもやが広がる。国民達の目は光が失われ、虚ろになり、まるで人形のように変わってしまう。


そして黒いもやの広がりの中心から、紫色の光で描かれた魔法陣が現れる。そこから、一人の()()()()のような者が現れた。


「おお、久しいなネオンよ」


ネオンと呼ばれた男は、気怠るそうに顔を上げた。その頭からは角のようなものが生えており、人間の風貌ではなかった。


「またあんたかよ……。懲りねぇなあ」


()()()()()よ。私に力を!」


「はいはい、ご自由にどうぞー」


従属の悪魔と呼ばれた者は、そのまま地面に魔法陣を描き、手をヒラヒラさせて帰って行った。


そしてゆっくりと黒いもやが晴れていく。目が虚ろだった国民たちも、意識を次第に取り戻していった。


「さあ、余にひれ伏せ!」


バビクスがそう言うと、国民達はおもむろに膝と手を地面につき始め、バビクスに向かって頭を下げた。


「はははっ!これでこいつらは私の言いなり。最早この国は私たちだけのものである!」


近くにいた家臣たちは、こうなることを事前に聞いていたのか、誰も意義を唱えない。近くを護衛していた兵士たちですら、何があったのかを目の当たりにしていながら、動けなかった。


「大変素晴らしい挨拶でございました」


バビクスの前に、ミル・バンダレイが現れる。


「国民との契約は成立した。ここに来ていないのはスラムの奴らと一部の元兵士たちだが、私たちにはアゴンがついている。この国は完全に私たちの手に堕ちたのだな」


バビクスの言葉に対して、ミルは微笑みで返した。全ては彼らのシナリオ通りだった。



はずだった。





「これがお前らの理想の国かい、サルノーよ」


バビクスとミルは、突然声がした方に振り返る。そこに立っていたのは、かつて王国軍としてサルノー家に仕えた、カルマ・ロリックの姿だった。


「貴様は……。今更出てきて何の用だ、老いぼれよ」


言葉を失うバビクスに代わって、ミルがカルマに問いかける。カルマはミルに近づき、答える。


「未だに国王の腰巾着か、バンダレイ?国民を悲しませて食う飯はさぞかし美味いと見える」


カルマは冗談のような口調で言ったが、その表情は全く笑っていなかった。


「私には関係の無いことだ。それに、二度目の反逆となれば、命はないぞ?ロリック」


そのミルの言葉に、カルマは鼻笑いで返した。



「すまんが今の儂は一人じゃあない。心強い味方が増えたものでな」


カルマがそう言うと、広場に続く道を塞ぐようにして、元王国軍の兵士たちと蜃気楼(ミラージュ)の面々が現れた。


王国軍達は突然の事態に驚き、まるで統率が取れていなかった。


「王を安全な場所へ避難させよ!」


動きが取れていなかった王国軍に喝を入れるようにしてミルがその言葉を放つと、数人の王国軍はバビクスを連れてザバン城内へと入っていった。



「見ての通りだ、バンダレイ。この国に未来が無いと賛同してくれた同士がこれだけいる。バンダレイ……国は、誰のためにある?」


カルマはミルを諭すようにして、そう問いかけた。しかし、ミルはもう既に手遅れだったのだ。



「国は、国王のものだ……。貴様ら国民は、黙ってその恩恵に預かればいいのだ!謀反など考えず、この国の政治に口を出さなければ、今の王国軍や貿易商のように、豊かな暮らしができるのだぞ?」


ミルは、半狂乱のようになっていた。その目には最早、かつて王国軍としてカルマと同期だった正義の心をもった青年の面影はなかった。


「もういい、バンダレイ」


カルマは、一人で興奮しているミルをなだめるように呟く。


「終わらせよう、この国を。王政の廃れた国としてのザバンは今日で死ぬ」


「夢物語、だな」


二人の老師は、激しくお互いの剣をぶつけた。その火花は、王国軍と反乱軍の開戦の狼煙となった。

作者のぜいろです!


王国奪還作戦、ついにクライマックスが近づいてきている感じがしましたでしょうか?


カルマとミルの関係性は、王国軍の同期です。これは、王国軍に入ったタイミングが同じという訳ではなく、同じ位(兵士長)になったタイミングが同じという意味の同期です。


彼らの若い頃の話は、番外編で書こうと思っていますので、そちらの方を是非ご覧ください!



評価、ブックマーク、いいねなどお待ちしております!


ぜいろでした。

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