王国奪還作戦 -1 スラムの生き方
ー記念祭当日ー
「ザバン国民よ、君らが王のサルノー7世、バビクス・サルノーである!今日は年に一度の記念祭、軍人も市民も関係なく、大いに盛り上がるとしよう」
サルノー王は、王城の城下町が一望できる高台からそのように話していた。
俺とシンさんは、その様子を街のはずれの方で一緒に確認していた。
「そう肩に力を入れるな。俺達の出番は夜だ。今から気を張ってたら持たないぞ」
「……はい。でもシンさんは緊張してるように見えませんね」
俺の一言にシンさんは一瞬理解ができていないような顔をした。
「緊張してないわけないだろ。王政の改善は、この国の悲願だ。今まで誰も成しえなかった難行を俺達の手で果たそうとしている。しかもその中心にいるって考えたら、震えが止まらねえよ」
確かに、シンさんは気丈に振舞っているものの、言われてみれば表情は強ばっているようにも見える。
「でもな、お前が来てから流れが変わったのは確かだ。今までやる気を出してなかったジジイがお前に触発され、その熱があの筋肉達に伝染した。俺も意地を張ってないで折れる時だと思っただけだ」
シンさんはやはり、俺と2つしか歳が変わらないのに考え方が大人じみている。どんな過去があったのか、時間がある時に聞いてみたいものだ。ちなみに、筋肉達というのは元王国軍の兵士さんたちのことだと思う。
「それとな」
シンさんは俺の首元を掴んで顔を近づける。
「俺の事はシンって呼べ。いちいち『さん』付けされてたら鬱陶しいんだよ」
少し場が和んだと思ったら、全然そんなことは無かった。
「……ほら、早く」
「え、えっと……。作戦頑張ろうな、シン!」
俺は振り絞った声で震えながらそう言った。シンさんはそれで納得してくれたようで、首元を掴んだ手を離してくれた。
「俺達は命をかけてんだ。いつまでも他人行儀でいるんじゃねえよ」
「そうで……そうだな!」
そうですね、と言おうとしたらシンさんに睨まれそうになったので慌てて訂正する。今まで家族以外には敬語しか使って来ない人生だったから、いきなり話し方を帰るというのも難しい。
「それと……。蜃気楼のアジトでお前を投げ飛ばした件についても、すまなかった。あの時の俺は色んなことが起こっていて、焦ってたんだ」
シンの顔は、俺の許しを求めているように思えた。でもそもそも、アジトに勝手に入ったのは俺達の方なのでその抵抗は当たり前だと、シンには説明した。
「……ならいい」
「はい」
シンとの無言の時間は少し辛いものがあったが、仲間になるとこれだけ頼りがいのある人もいないだろう。
「ザバン名産、オアシスメロンはいかがー!」
店の主人の快活な声が響く。俺とシンは、王城に近い城下町の方まで歩いてきていた。なんでも、シンは俺に見せたいものがあるらしい。
「……ダリア、今ここで起きている光景を覚えとけよ」
シンは俺よりも先を歩いているため、顔は見えない。でも、初めて俺に向けたような敵意をその背中から感じる。
城下町を抜けて15分ほど歩くと、段々と家の数も減り始め、その建物自体も汚れが目立つようになってくる。
「ジジイから聞いたか。この国にはスラムがあるって話」
「聞いた。シンがそこに盗賊団として盗んだ物を配ってるって……」
シンについて行くとそこには、家とも呼べない布と木々で作られた家々が並んでいた。そこら辺を走り回っている子供は、来ている服もボロボロで、そもそも服を着ることが出来ていない子供もいた。
大人達の姿はあまり見えないが、見える範囲の大人は酒に溺れているか、家の前でしゃがみ込んだまま動かないような人達ばかりだった。
俺は、絶望とはこういうことを言うのかと思ったが、シンの顔を見ると、そのようなことを考えている雰囲気ではなかった。
「あ、シンにいちゃんだ!」
走り回っていた子供の一人がシンの姿に気がついてそう言うと、近くにいた子供たちはみな、シンの方へと走り寄って来た。
「元気か、お前ら」
シンはその場にしゃがんで、子供たちと目を合わせる。そのシンの表情はとても穏やかで、俺が見てきた殺意を放つシンの姿とはかけ離れていた。
「あのね、このまえくれたキャンディ、とってもおいしかったんだ!」
「そうか、あんなもので良ければまた持ってきてやるよ」
「うん!おれ、おっきくなったらシンにいちゃんみたいになるんだ!それで、おうこくぐん(?)にはいって、スラムのみんなをたすけるんだ!」
シンに自分の夢を語るその子供の目は、この国の闇の部分は映っていないと言わんばかりの綺麗さだった。
「そうかそうか、叶うといいな」
そう言ってシンは、その子供の頭をなで、背中に背負っていた荷物を開く。その中には、新鮮な果物や食べ物、お菓子のようなものが入っていた。
「一人一個だ。お父さんとお母さんがいるなら、そいつらの分も持ってってやれ」
「ありがとう!!」
子供たちはキラキラとした目をシンが持ってきた物に向けて、はしゃいでいた。
「俺が守りたいのは、あいつらみたいななんの罪もねえガキの未来だ。お前がまだ甘い感情でここに立ってるなら、今この瞬間に入れ替えろ」
シンは俺とすれ違うタイミングでそう言った。そしてスラムの大人達にも、同じように物やお金を配って回っていた。感涙をこぼす者もいれば、シンを崇めているような姿勢をとる者もいた。
何の罪もない子供。
俺は、あの子達と同じだと言い張れるのだろうか。
あまりに多くの命を奪った。
あまりに身勝手な行為だった。
そんな俺に、人を救う資格はあるのか……。
「ダリア、あなたなら大丈夫。だって私たちの子供なんだから」
俺の脳内には、俺が命を奪った、母親のマイン、父親のロイド、義兄のシュラウドの姿が映っていた。
「でも、俺、自信が無いんだ……」
「お前は俺の子だろ?だったら勇敢な戦士だ」
ロイドは優しく笑いかける。
「そうだぞ。お前の素質は俺よりもある!」
シュラウドはまるで自分のことのように自身げに語る。
「でも、でも……」
「大丈夫」
マインの声が、優しく胸に溶けた。
「あなたにはいつも、私たちがついてる。その事を忘れないで」
「気持ちの整理はついたか?」
スラムの入口で、シンは俺の事を待っていた。
「ああ、バッチリだ」
「そろそろ行くぞ。日没が近い」
歩き出すシンの背中を俺は追いかける。
そして俺達の、長い長いザバン王国奪還作戦の夜が、幕を開けた。
作者のぜいろです!
ついに始まりました、砂の王国編のクライマックス、王国奪還作戦です!
ここまでようやく辿り着きました……。
ここから先は、ザバン王家対ダリア達の構図で話が進んでいきます!ただ、皆さんも予想出来ない要素が絡んできますので……。
是非ご期待ください!
評価、いいね、ブックマーク等お待ちしております!
ぜいろでした。