謎の女と従属の石
「行きます……!」
「おう、いつでも来い!」
俺は自身の腕と足の両方に黒い痣を集中させていく。この行為自体、試したことがない訳ではない。ではなぜ使わないのか。俺の体が強すぎる力に耐えられないからだ。
闇纏 ー黒腕&黒脚ー
なんとか痣を広げることは出来たものの、体の内部から暴走するような力を抑えることが出来ない。
「……キーンさん……お願いします!」
「おう!」
そして、キーンさんにみぞおちを殴られ、俺はその場に能力を解いて倒れ込んだ。俺の力は、外部からの強い衝撃によって集中が途切れると、その瞬間に解かれてしまうものらしい。
だがこのマイナスの部分は、2箇所同時の能力発動という俺の課題をこなす上で、とても便利に働いた。俺の体へのダメージと引き換えに……。
「1回休憩しよう、ダリア」
「……はい」
キーンさんはそう言って、倒れた俺を楽な姿勢に変えてくれる。
「あんまり無理しすぎるなよ、ダリア。お前の体がの壊れちまったら元も子もないんだからな」
キーンさんは優しく言ってくれるが、俺は、自分に与えられた試練を乗り越えなければならない。ここで諦めたら、この国は、俺のような悲劇を繰り返してしまうかもしれないのだ。
「大丈夫です……。もう、誰も死なせません……」
そこまで言って、俺は気を失った。叫んでいるキーンさんの声が遠くの方で聞こえるが、何を言っているか分からない。
(……?)
「顔を合わせるのは初めましてかね、我が主よ」
目の前にいたのは、黒い装束を身にまとった謎の女だった。しかし、声は女のようだが、体つきはまるで男である。顔は、布のようなものによって遮られているため見ることが出来ない。
「どうしたのです、そのようなお顔をなされて」
その、何者か分からない人物は俺の方へと近づいてくる。俺は動こうとするが、手や足を動かすことが出来ないのはおろか、口から言葉を発することも出来ない。
(……なんだよ、これ!)
「あぁ、ここは貴方様の中ですので、わざわざお口に出して頂かなくっても結構」
俺の考えていることが、まるで通じているようだった。
(……お前は誰だ?)
「私ですか?……はて、なんとお答えすれば良いでしょうか」
目の前の人間は俺を嘲笑うかのようにその場をクルクル回り始める。やがて、思いついたかのように手を叩く。
「私は貴方。貴方は私。主が望む力ならば、私はいくらでもお貸ししますよ」
(答えになってないだろ……)
「あははっ。確かにそうかもしれません。では、言い方を変えましょうか」
そして身動きの取れない俺に対してそいつは近づいてくる。そして、顔を隠している黒い布をめくりあげて、その素顔を晒した。
「欲望のままに。思いは力ですよ、我が主よ」
そして、その人物は俺の唇に自身の唇を重ねる。
(……女なのか)
「冷たい男は嫌われますよ?それに、私人間じゃありませんもの」
そして再び顔を隠したその女は、猛烈な圧を放ちながら言った。
「……2体も抱えるなんて、強欲だこと」
俺には最後の言葉の意味が分からなかったが、その世界でも意識が段々と薄れていく。
思いは、力……。
俺にとって足りなかったピースがハマった気がした。
「……邪魔するぜ、ジジイ」
カルマの家を訪れたのは、シンだった。
「お前……。戻ってくる気になったのか」
「一旦話を聞いてくれ」
シンはテーブルの上にとある物を置いた。それは美しい宝石がはめ込まれた、首飾りだった。
「……こ、これは……!?」
「今日ザバンから出ようとしてた貴族を襲った時に持ってたものだ。俺は昔、その鉱石を見たことがある」
シンのいう宝石は、紫色の妖しい光を放っていた。だが、次の瞬間、シンは拳でそれを粉々に砕く。
「……あんたも知ってるだろ、この宝石のこと」
「……まさか、ネオン鉱石か?」
「そのまさかだよ。かつて大国をも滅ぼしたとされる危険な鉱物、従属の石だ。古い文献で見た事があるが、まさか本物を目にするとは思わなかった」
シンは思い詰めた表情をし、カルマも同じように動揺を隠しきれていなかった。それほどまでに、目の前の砕け散った鉱物は2人にとって影響のあるものだった。
「サルノー家が、関わっているのか」
「可能性は十分にある。だからここに来た」
シンはカルマと目を合わせる。かつてここを訪れた、泣きじゃくる少年の姿はそこにはなかった。
「今まで、あんたを避けてすまなかった。でも今は、この国の一大事だ。俺のつまらない感情で意地を張る時じゃねえ」
シンは、カルマに向かって土下座した。カルマの中には、込み上げてくる思いがあった。
「何日か前に、あんたが俺のところに送ったであろうガキが来た。俺の攻撃で伸びちまったが、あいつはまだ全力を出してる感じがしなかった。あいつとなら、この国を止められる……!」
シンの言葉には思いが乗っていた。自分一人でアゴンに対して、サルノー家に勝ちたいというプライドを捨てた男の姿が、そこにはあった。
「頼む……」
シンは、振り絞るように声を出した。その頭をカルマは優しく撫でる。
「……儂の方こそ、つまらない意地を張っていた。あの日助けてくれたのはお前の方だったのにな……。今まで心配をかけた」
そして二人は、抱擁を交わした。シンがカルマの元を離れて、3年半もの月日が流れていた。
ピカアアアンッ!
その時、カルマのブレスレットが光り始めた。
「あいつら、ようやく終わったか」
「終わった?」
シンの問に対してカルマは答える。
「儂の加護の中で訓練していた奴らが、戻ってくる合図だよ」
そして、眩い光に部屋が包まれ、シンとカルマは目を瞑る。光が収まり目を開けると、そこにはダリアとキーン、そして他の元王国軍の兵士たちが立っていた。
「遅くなりました!カルマさん!……ってええっ!?」
俺は目の前にカルマさんがいると思ってそう言ったのだが、実際目の前にいたのはシンさんだった。
「……よう、久しぶりだな」
「……なんで、ここにいるんですか…?」
俺の問いにシンさんは答えてくれなかった。そのせいで俺は事情を理解出来なかった。
「注目ぅっ!」
ザバンに来て初めの方にも聞いた、カルマさんの声が部屋内に響く。
「訳あって、儂達とシンのところの蜃気楼は、打倒サルノー王家に向けて手を組むことになった。それに伴って新たな作戦を伝えることとする!」
カルマさんの目は、みなぎっていた。
作者のぜいろです!
ついにシンがカルマのところに帰ってきました。国のためならプライドを捨てるシンの姿、見ていただけたでしょうか?
砂の王国編は、次話よりついに最終決戦の話になります。利益を求めた鉱石業と怪しい石を背景としたサルノー王家と、カルマ・シンが率いる反乱軍の話になっていきますので、是非ご期待ください!
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ぜいろでした。