ワンダールーム
「お前達がそこまで言うなら、儂が直々に手を貸そう!」
元王国軍のマッチョたちの、自分の身を顧みない行動に胸を打たれたのか、カルマさんは感慨深い表情をして立ち上がっていた。
「戦闘には不向きだが、儂も加護を持っている。この加護なら、ダリア、君をもっと強くできるはずだ」
カルマさんは年甲斐なくピースをしてニコニコしている。俺は隣のキーンさんに目をやったが、キーンさんの表情はカルマさんとは対照的に絶望しているようだった。血の気が引いて、心做しか青ざめているようにも見える。
「ダ、ダリア……。悪いことは言わねえ、カルマさんに加護を使わせるな!」
キーンさんの表情は真剣そのものだった。まるで過去に実体験をしたかのような。
「それじゃあ行くぞ、ダリア。そしてお前達!戦いの日に向けて強くなるんだ!」
「やめてくれぇぇぇぇ!」
キーンさんの情けない声を最後に、俺の視界は暗くなった。周りに何かある気配がしない。空中をさまよっているような感覚が続いた。
そして、視界が開ける。そこは、何も無い空間だった。本当に、何もない。周囲に続いているのは、無限とも思える地平線だけの、白い空間。
辺りを見渡すと、カルマさんの部屋にいた人達はもれなく全員同じ場所へと移っていたようだった。
「聞こえるかー、お前達!儂の収納の加護の能力、異次元空間の中に、お前達は今入っている。そこで何かを得た者は、こちらの世界に戻れるように設定してある。早く戻ってくるんだぞ」
どこからともなくカルマさんの声が聞こえてきたが、その言葉を最後に俺たちは取り残されたようだ。
「もう、お終いだ……」
声のするほうを見ると、キーンさんがその場にしゃがみこんでいた。顔は見えないが、声から察するだけでも陰鬱な表情をしているのが想像出来る。
「カルマさんの加護に捕まったんだよ、俺達は。この場所では腹が減ることも、眠たくなることも無い。それが一番苦痛だけどな……」
やはりキーンさんは経験者だったようだ。しかし、食欲も眠気もない空間というのは、自信を鍛えるのにうってつけなのではないだろうか。
今、俺が1番望んでいた環境かもしれない。キーンさん以外の元王国軍のマッチョたちも、やる気に満ち溢れているようだ。
「それで、君の加護の力はどんなものなんだい?」
俺は、マッチョたちから質問攻めになっていた。特に皆さんが気になっているのは俺の加護の事のようで、自分達の中で一番腕がたつキーンさんが一瞬でやられたことから、その理由を気にしているようだ。
「えっと、俺も自分でよく分かってないんですけど、 ……。あ、腕相撲しませんか?」
そう言って俺は、地面に寝転び、肘をついた。マッチョたちは戸惑いながらも、一人のマッチョが俺と手を握り合う。
「レディ、ゴー!」
俺は、呆気なくやられた。
「これが、俺の普通なんですよね。今は加護を使ってません。俺の加護は、自分の体の強化したい部分に黒い痣を動かすことで、その部位を強化できる、というものです」
そう言って俺は、右腕に黒い痣を集中させる。そして先程と同じようにマッチョと手を握り、掛け声に合わせて腕相撲を始める。
しかし、先程とは違って余裕そうな俺に対し、マッチョは顔面を真っ赤にしていても、俺達の手はビクともしなかった。
「す、すごい……」
マッチョ達は酷く感心したようで、黒い痣の力を一通り全員体験するという謎の行動をとっていた。
「真面目な話になるんですけど、俺はこの力を使ってもシンさんには勝てませんでした。だから、この能力をもっと上手く使えるようになりたいんです。それが、カルマさんの言っていた何かを得るってことに繋がると思うんです」
それから俺は、マッチョ達に向かって能力を使う練習を繰り返した。普段彼らは鍛えているだけあって、盗賊団に対して行った蹴りだけでは、簡単には倒れてくれなかった。
それに、闇雲に能力を使うだけでは、自分が成長している気がしない。
「……一回、休憩しましょう」
2時間程自分の感覚の中で時間が過ぎた時には、俺もマッチョ達も疲弊しきっていた。お腹は減らないが、疲れないということでは無いらしい。
俺はその場に倒れ込んだ。恐らく天井に当たるであろう方を向いて考え事をしていると、キーンさんが近くに寄ってきた。
「シンは、どうして強いと思う?」
キーンさんの、真面目な時の雰囲気だった。俺はそれを察して、真面目に答える。
「覚悟、いや決意が違うからですかね」
「馬鹿、加護の話だよ。今のあいつの加護と、お前の加護を見てて、俺は思ったことがあった」
キーンさんは、一呼吸おいて話した。
「なぜ、同時に使わない?」
俺には、キーンさんの言っていることの意味が分かっていた。何故、手にも足にも同時に痣を広げないのか、という意味だ。
「いくつか、理由があるんです……。単純に、複数の痣を広げるのに俺の体が追いつかないことと、俺の中の闇の部分が暴走するような感覚に陥るんです……。だから、ゴーシュさんと決めたんです、むやみやたらに痣を広げないって」
キーンさんは俺のほうを見ずに真っ直ぐ向いていたが、少し間を置いて答えた。
「それを試すのが、今この場所じゃないのか?疲れ切っても食欲・睡魔には勝てる。暴走しそうになっても、止めてくれる奴らがいる」
俺は、そこまで言われてようやく気がついた。カルマさんの意図にも同時に、だ。
「俺は加護を持ってない。精霊の神殿にも昔行ったことがあるが、俺は『選ばれなかった』人間だ。だから、お前達が羨ましい……」
キーンさんの言葉は、俺の胸に深く刺さった。そうだ、キーンさん達だって加護が無いからって弱い人間じゃない。
俺は、心のどこかで見下していたのかもしれない。加護の悩みは、加護を持つものにしか分からない、と。
「お前一人で成長するなら、カルマさんも俺たちごとここへ送ってねえよ」
キーンさんは、覚悟を決めたかのような表情で立ち上がった。
「来い、ダリア。お前の加護、絶対に俺達が成長させてやる」
作者のぜいろです!
絶賛隔離中のため、1日3本投稿というハイペースで進んでおります!
砂の王国編は、今日で半分が過ぎたくらいです。残りの話もどんどん佳境に迫っていくので、是非楽しんでください!
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ぜいろでした。