特化の加護
刀を構えたシンさんの表情は、馬車で会ったあの時より数段、殺意に満ちていた。油断をすれば、本当に殺されてしまいそうな程に。
「……ふっ!」
その瞬間、シンさんは一瞬で俺の近くへと間合いを詰めてくる。他の盗賊団とのスピードの違いに俺は反応が遅れ、すんでのところで下から切り上げるようなシンさんの刀をかわした。
「……っ!」
「避けるか、目は多少良いらしいな。それがずっと持てばいいけどな」
速度特化 ー20%ー
シンさんの目が青く光ったかと思うと、一撃目とは段違いのスピードで、振り上げられた刀は俺の首元を正確に狙ってきた。
(……速い!)
俺は声に出すまもなく、なんとか後ろへと飛んでそれをかわす。シンさんはその隙を見逃さず、そのまま間合いを詰めてくる。
闇纏 ー 黒剣ー
俺は手に痣を集めてそれを放出し、シンさんの刀を受けることができる形へと変化させた。シンさんの刀と黒剣がぶつかり合い、黒い火花を散らす。
「便利な能力だな」
シンさんは俺の腹に足で一撃入れ、その反動で後ろへと下がる。腹部を蹴られた俺は、苦痛の表情を浮かべる。
「黒い何かを体の一部、もしくは体外に放出する力ってとこか?俺の特化の加護と似たようなもんだな」
シンさんは俺から目をそらさないまま、俺の力について分析していた。特化の加護……。それがシンさんの力。先程シンさんのスピードが大幅に速くなったのは、加護の持つ力か……。
「同時はちょっときついんだがな。加護持ち相手に出し惜しみしてる場合じゃねえか」
攻撃特化 ー20%ー
速度特化 ー20%ー
シンさんは先程と同じように俺に向かって斬りかかってくる。スピードは先程と大差ないようにも見えるが、目の色が先程までと違うことに俺は刀同士が触れ合う寸前で気がついた。
「同じようには、受けさせねえよ」
シンさんのその言葉通り、黒剣でシンさんの攻撃を受けた俺は、近くに合った岩の方まで吹き飛ばされた。
「かはっ……!」
背中を強打し、息が上手く吸えない。受け身についてはゴーシュさんからよく習っていたが、体の反応が追いつかなかった。
「お前がいつ、その力を受け取ったかは知らねえ。ただ、加護の使い方や剣の振り方、盗賊団の奴らを撃退した時の動きを見れば、お前がまだ未熟だってことはよく分かる」
シンさんは、もう刀を鞘にしまっていた。俺は、シンさんに勝つことが出来なかった。それを、理解した。
「ジジイと何を考えてるが知らないが、俺はあそこには戻らねえ。これは俺の問題だ」
シンさんはそう言って、盗賊団に何やら指示を出し、倒れ込んでいた盗賊団の仲間を廃墟へと運ばせていた。戦いの後でさえ、俺には余裕がなく、シンさんには余裕があった。それが、俺たちの間にある差だった。
「帰りな。そしてジジイに伝えろ。革命は俺一人でやる。そして今度こそあの化け物を倒し、この国を平和にするってな。……そのための、2年だ」
シンさんは俺に背中を向けていたためその表情を見えることは出来なかったが、きっと、決意に溢れた顔をしているのだろう。
「キーンさん、一旦帰りましょう」
「……あ、ああ、そうだな!」
近くにいたキーンさんにそう呼びかけ、俺は盗賊団のアジトを後にした。俺の初めてのミッションは、失敗に終わったのだった。
ーザバン王城内ー
「まずいっ!何だこの飯は!」
そこに鎮座する巨漢の王は、今晩の食事がお気に召さなかったらしい。近くにいるウエイトレスに当たり散らしている。
「世は国王だぞ!なぜ国王に出す飯が美味くない!貴様ら全員、処刑にするぞ!」
王の激昂はもはや誰にも止められないかと思ったが、近くに控えていた家臣がその場をなだめる。
「サルノー王よ、これは近々ある祭りのためなのです。祭りの方に物資を割いておりますため、
しばしの質素な食事にご容赦ください」
その家臣は、この国に富をもたらしたサルノー結晶の発見人の子孫、ミル・バンドレイであった。彼は非常に頭が回る家臣として、サルノー家を支えてきた家系の子孫である。
「祭りのためか……ならば仕方ない。人間は少しの飴があれば鞭にも耐える。この国の民は祭りの日だけは王宮から配られる豪勢な飯にありつけるというのだからな。その飴のためなら、奴らは日々の暮らしに文句さえ言わない。ブヒュヒュッ!」
王は気色の悪い笑い声を発した。
「それに、世には心強い用心棒がおる。2年前はあの褐色のガキのせいでヒヤッとさせられたが、それでもアゴンには敵わぬよのお」
アゴン、それは世界連邦からザバン王家に配属された元騎士団の人間。腕は立つものの、その気性の荒さと加護を使った時の反動から、騎士団だけでは管理できないとされ、ザバン王家に引き渡されたのである。
2年前にシンがザバン王家に攻め入った際、サルノー王まであと一歩というところでアゴンと対峙し、シンは敗北を喫したのだった。
アゴンの力は、「暴獣の加護」であり、力を使うと一定時間知能が下がり、その分強力な獣の力を我がものにするというものだった。
人間離れしたスピードと攻撃の力強さにシンは次第に疲弊していき、撤退をやむなくされたのだった。それが、シンが攻撃力と速度に取り憑かれている要因でもあった。
「それに王よ、今年の祭りでは最近見つかった遺跡について発表する計画です。あの遺跡は現在厳重に管理し、他の誰に見られることも無いよう手配しております」
「今年の祭りは楽しくなる……。楽しみで仕方がないな……」
サルノー王は不敵に笑った。
作者のぜいろです!
砂の王国編、ダリアとシンがついに戦いましたが、結果はシンの勝利という結果になりました。
これは、ダリアが成長するきっかけにもなるので、必要な負けだったのです……泣。
さて、サルノー王家が抱える遺跡の謎については、砂の王国編の後半で出てくることになりますので、それまでご期待ください!
ぜいろでした。