表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五大英雄と殺戮の少年  作者: ぜいろ
第1章 砂の王国編 ー国の夜明けを待つ者達ー
10/138

企み

「俺には、何が出来ますか?」


ダリアの言葉を待っていたかのように、元王国軍の兵士たちは沸き立った。俺の目を見つめていたカルマさんも彼らに混ざって喜んでいる。


「君の話はゴーシュから聞いた。随分と成長が早いことにあいつも驚いてたな」


カルマさんは俺の肩に腕を組んで聞いてくる。確かに俺はゴーシュさんに散々しごかれた記憶はあるが、これといって褒められた記憶はあまり無い。


「そう、ですかね……。ゴーシュさんはあまり褒めて伸ばすというよりかは、できていない所をとことん叩き込む感じだったので……」


「はっはっは!昔から変わってないな、あいつは。儂が戦場であいつと出会った時も、修羅のような目をした男だった。生き急いでいるような、何かに取り憑かれているような……。今では随分と大人しくなっているように見える」


あれで大人しかったのか、とダリアは心の中で震える。それでも、ゴーシュさんは俺に対して妥協することを許さなかった。いい意味での厳しさは、俺を確かに強くしてくれただろう。


「あいつは昔()()()()()と呼ばれていてな。色んな国があいつの力を欲したもんさ。まああいつはどこかに留まる(たち)じゃねえのは知ってるからな。尚更あの森に居座ってるのは不思議でならねえ」


カルマさんは、ゴーシュさんがアラポネラの神林に留まっていることを不思議に思っているようだが、それは神獣の世話のためではないだろうか?


「カルマさんは、アラポネラについて知ってることはありますか?」


「ん?それは()()()()()()()()()


カルマさんはそう言って、俺の顔を覗き込む。



神獣の存在はもしかしたら、極秘なのか?


俺の頭にその考えがよぎり、俺はそれ以上口に出すことをやめた。ゴーシュさんから特に言いふらすなとも言われていなかったが、友人にすら言っていない話を俺の口から言うべきではないだろう。



「そうなんですね、俺もあの森に一年居たのにそこの部分だけはゴーシュさんが教えてくれなくて」


「薄情なやつだな」


俺はカルマさんとゴーシュさんのために、少しだけ優しい嘘をついた。




元王国軍の兵士たちは、カルマさんの家以外に自分の家があるらしく、一人一人俺に対して一言投げかけてから、地下室を後にして行った。ここはあくまでも、彼らがボスと崇めるカルマさんへ会うためのたまり場のようだった。



彼らの期待に応えるためにも、俺はもっとこの国のこと、そして彼らのことについて知らなければならない。


カルマさんは兵士たちが居なくなったあと、舞台がある場所のさらに奥に案内してくれた。そこには人が一人住むには十分な広さの部屋があった。



「ここは元々シンが住み込みで働いてた時に使ってた部屋だ。3年ほど前にあいつがここを出て行ってから、もう誰も使ってないけどな」


カルマさんは悲しそうな目で、部屋を眺めていた。部屋の状態は3年間も放置されていたとは思えないほど綺麗で、カルマさんによって保たれていたのがよく分かる。



いつ、彼が帰ってきてもいいように。


「今日はもう遅い。これからの事は明日また詳しく話すとしよう。とりあえず長旅の疲れを癒すんだ。風呂なら奥の扉を進んだ先にある。服はまあ、シンが置いてったやつしかないが、多分綺麗なはずだ」


カルマさんはそう言い残し、部屋を後にした。一人残された俺は、早々に汗を流すべく風呂へと向かった。







「おはようございます」


翌朝、体内時計で起きた俺は、舞台がある部屋へと戻った。そこにはもうカルマさんが起きてきていて、随分寝坊したのかと心配になった。


「さすがに時間感覚がはっきりしてるな。ここは光が届かないからもう少し寝てるかと思ったが」


カルマさんは小さな食卓を準備して、俺を待っていてくれた。テーブルの上には雑に切られたパンと熟成されたチーズ、脂の乗ったハムが添えられていた。


「朝飯にしよう。食事は大事だからな」


「はい」



俺はカルマさんと、ゴーシュさんとの訓練の日々について語っていた。懐かしい友人の話を聞けたようで、カルマさんは満足気だった。


「この国でのほとぼりが冷めたら、久しぶりに会いに行こうか。あいつは強めのブランデーが好きなんだ」


カルマさんは食器を片付けながら懐かしそうに話す。きっとカルマさんにとっても、ゴーシュさんにとっても良い友人なのだろう。



食事を終え、俺は食卓の前でカルマさんと向かい合っていた。先程までの和やかな雰囲気とは変わって、真面目な空気が漂う。


「さて、本題に入ろう。この国で起きていることは昨日も説明した通りだが、儂達には大きく2つの物が足りていない。これを手に入れなければ、この国を立て直すことは出来ない」


「はい」


俺は固唾を飲んでカルマさんの話を聞く。もう既に俺は他人事では無いのだ。


「1つ目は、王国軍と戦えるだけの武力、そして武器だ。だが、これに関しては儂に考えがある」


「シンさんが率いる蜃気楼(ミラージュ)、ですか?」


「早い話そういうことだ。あいつらは金目の物を奪う盗賊団として悪さをしているが、護衛の者たちから奪った武器なども蓄えているはずだ。それに、盗賊団の面々はゴロツキとはいえ、腕が立つやつが多い。もちろんシンが戻ってきてくれるのが一番早いがな」


その話だけで、カルマさんが心からシンさんを信頼しているのが分かる。


「2つ目は、サルノー家が独占しているサルノー結晶の採掘場を抑えること。王家にとっては結晶の採掘場は何より大事なものだからな。そこをつかない手はない」


カルマさんによれば、サルノー結晶の採掘場は厳重な警備によって守られており、採掘場内だけでなく採掘場に行くまでの道も、厳しく見張られているらしい。


サルノー家にとっての弱みともなり得る採掘場は、確かに交渉の道具としてはうってつけだ。


「そっちについてもある程度の目処は立っている。だが、それまでにシンを説得できるかが、儂の中での不安要素だ。あいつは儂に心配をかけまいとここを出ていったからな。儂が危険を犯そうとしていることに対して良くは思わんだろう」


カルマさんの言うことは確かに正論だ。しかし、カルマさんのためを思ってここを出ていったシンさんなら、交渉の余地はまだあると思った。


「シンさんの件、俺に任せて貰えませんか?カルマさんならきっと、今の蜃気楼(ミラージュ)のアジトについても知ってますよね?」


「それはもちろん、知ってはいるが……。君がいくら腕が立つとはいえ、シンは恐らく君に容赦はしない。それに、シン以外の奴らに話が通じるとも思えんが……」


カルマさんは明らかに葛藤している様だった。カルマさんを信頼しているシンさんだからこそ、俺のような奴だけで行かせるのは不安だと感じたのだろう。



「俺の事を信じてもらうには、これが一番早いんです。元王国軍の人達も、シンさんを呼び戻せば、きっと俺の事を心から認めてくれる。蜃気楼の人達が俺を認めてくれれば、この国の虐げられている国民も、カルマさんや皆さんに協力する理由になると思うんです」


俺はカルマさんの目を見て訴えた。こうでもしないと、彼は動いてくれそうになかったからだ。


「……分かった。君に任せよう。ただ、もしもの事があったら大変だ。キーンと他に何人かを近くまで行かせよう。それが妥協点だ」


「ありがとうございます……!」



俺の贖罪は、ここから始まるのだ。

作者のぜいろです!


次話から、シンとダリアの話が少しだけあります。育った環境は違っても、今いる環境は似ている2人。


ザバンの実態を知ったダリアは今、シンに何を思うのか。そしてシンは戻ってくるのか。


今後の展開にご期待ください!



評価、ブックマーク、感想等あったら作者は泣いて喜びます。是非是非応援お願いします!



ぜいろでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ