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虐げられた追放王女は、転生した伝説の魔女でした ~迎えに来られても困ります。従僕とのお昼寝を邪魔しないでください~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部4章〜

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212 最初の


(ここに感じる仄かな熱は、ノアの魔力だと思っていた)


 目覚めたときと、先ほど微量な魔力を取り戻したとき。

 そのどちらも感じた温かさの正体に、クラウディアは気が付く。


(だけど、違うわ。……これは、私とノアの魔力が混ざったもの……)


 自分の温度を、自分自身では感じ取れないように。

 クラウディアにとって当たり前のものは、そこにあることを汲み取れない。そのため、ノアだけの魔力だと錯覚してしまったのだ。


(――ああ、なるほど)


 クラウディアは、六歳だった子供の頃に、ノアと結んだ契約の性質を思い出す。


(あの子のところに、私の魔力を置いてきたからだわ。すっかり混ざって、こんな温かさに変わったのね)


 くすくすと笑うクラウディアを、ジークハルトが不思議そうに見詰めていた。


「どうした? クラウディア」

「……恐らくは、私の記憶に鍵が掛けられていたのだと気が付いたの」

「鍵……」

「私が忘れていたことを思い出したり、知らなかったことを知ってゆくにつれて、元の世界でも何かが起きているのかもしれないわ――たとえば、私に連動して父さまやノアが、少しずつ記憶を取り戻しているのかも」


 ジークハルトにしてみれば、まったく関係のない話だろう。それでも彼は真摯な表情で、クラウディアに答えてくれる。


「それは、君の母君の魔法か?」

「きっとね。私を守るため、仕掛けてくれたのだわ」


 クラウディアは、暖炉で燃え盛る炎を眺めながらこう続けた。


「レオンハルトを陰で操る、筆頭魔術師という存在から」

「――!」


 ジークハルトが息を呑み、言葉を選びながら口を開く。


「……やはり君も、そう考えるか?」

「私の居た元の世界では、レオンハルトでなくあなたが駒だったわ。ジークハルト」

「……そいつは、また……」


 僅かに引き攣った笑みを浮かべ、ジークハルトが額を押さえる。


「レミルシア国は、あの筆頭魔術師に利用されたということか。下手をすれば、俺の父……レオンハルトにとっての叔父も」

「あなたとレオンハルト、それぞれのお父さまであるご兄弟は、とても仲が悪かったそうね。その苛烈なまでの歪み合いも、仕組まれたものなのかもしれないわ」

「くそ……っ」


 ジークハルトにしては粗暴な舌打ちが、彼の心情を思わせた。


「どうしてわざわざ、この国の王族を利用することに執着するんだ……!!」


 その言葉に、クラウディアはそっと目を伏せる。


「執着では、ないのでしょう」

「……?」


 クラウディアの中で、ひとつの推測が育っていた。


「きっと、それしか選べなかったのではないかしら」

「……クラウディア?」

「レミルシア国の王族は、とても強い力を持つ傾向にある。その理由は何故だと思う?」


 幼子でも知っていることを問い掛けるクラウディアに、ジークハルトが目を細めた。


「……魔術師の持つ力、すなわち魔力には、血筋が大きく影響するからだろ? 僕たちレミルシアの王族は、初代国王ライナルトの血を引いている」

「――ライナルト」


 クラウディアにとっては、懐かしい名前だ。


「五百年前に生きた魔女、アーデルハイトの最初の弟子。人を惹き付ける、太陽のような眩しい統率力と、とても強い魔法の力……そして、黒曜石の色をした瞳を持っていた」


 瞳の色は、魔力の性質を表す。

 吸い込まれるような漆黒の瞳は、闇魔法を象徴するものだ。


「どちらかというと、ライナルトはノアよりも、あなたの方に似ているわ」

「……まさか」

「あの子はきっと、シーウェルのように待っていた。私がまた、この世界に生まれ変わってくることを」


 八歳のころ、クラウディアはかつての弟子に再会した。

 五百年の時を、必死に生きて待ち続け、アーデルハイトに再び出会おうとしたシーウェルだ。


 彼はルイスと名前を変え、一国の王子として潜り込み、生まれ変わったクラウディアを探し続けていたのである。


「けれども何らかの理由によって、あの子が直接動くことは出来ないのだわ。だからあの子は、自分の血を引く子供たちを支配することによって、手足のように動かしている」

「……レオンハルトの、筆頭魔術師を名乗る男は……」


 何処かさびしい気持ちになって、クラウディアはぽつりと呟いた。


「ライナルト。――私の弟子、あなたたちの先祖であるレミルシア初代国王が、正体なのだと仮定するわ」

「…………っ」


 今はまだ、推測の域を出ない想像だ。

 けれどもクラウディアは、それが事実と遠くないのではないかという感覚を、何処となく肌で感じていた。


(とはいえ、まだ嫌な予感がする。だってライナルトが相手なら、レオンハルトは……)


 その瞬間、ぴりっと張り詰めた魔力を感じる。


「クラウディア、下がっていてくれ」

「いいえ。平気よ、ジークハルト」


 彼がすぐさま辿り着くことは、分かっていた。

 雲の中で聞く雷鳴のような、ばちばちと弾ける音がする。人影が現れたと思った直後、クラウディアは強く肩を掴まれ、引き寄せられた。


「……アーデルハイト……!!」

「ふふ。もう来たの? レオンハルト」


 殺気に近い冷たさを纏い、レオンハルトがクラウディアを睨む。


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