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虐げられた追放王女は、転生した伝説の魔女でした ~迎えに来られても困ります。従僕とのお昼寝を邪魔しないでください~  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第5部4章〜

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209 娘


 国王フォルクハルトの話した通りだ。

 ドロテアは、クラウディアの母であると同時に、五百年前の魔女アーデルハイトを産んだ母でもあると名乗ったらしい。


 クラウディアと同じミルクティー色の髪を美しく結い、透き通った生地を幾重にも重ねたドレスを身に纏ったドロテアは、真っ暗な空間に椅子を出現させた。

 そこへゆったりと腰を下ろし、柔らかく微笑む。


「五百年前、アーデルハイトと引き離された私は、なにひとつ母親らしいことをしてあげられなかったわ」

「…………」


 クラウディアの語る『前世』の中に、血縁者の話が出てきたことは、ほとんど無い。

 懐かしそうに紡がれたのは、弟子だった者たちのことばかりだ。それはつまり、クラウディア自身にも、家族の思い出がなかったからだろう。


「アーデルハイトは世界のために、自らの命を引き換えにして死んでしまった。私の偉大な、けれど可愛い、たったひとりの娘」


 自らの胸元に手を当てて、慈しむように目を眇める表情は、つくづくクラウディアに瓜二つだ。


「生まれ変わって、またあの子を産むことが出来るのだと分かったときは、心に誓ったわ。今度こそ、娘を守るのだと」

(……本当に、よく似ていらっしゃる)


 優雅でありながら、敵対し得るものを射竦めて離さない、そのまなざしも。


「――この子はあなたたちに渡さない。レオンハルト」

「…………」


 クラウディアと同じオパールの瞳は、真っ直ぐにノアを見据えていた。


「十年前、俺は何者かの手助けによって牢から転移しました」

「そうね。その『手助け』がなければ、あなたは嬲られて死んでいたわ」


 まるで見てきたことのように、はっきりとドロテアが断言する。


「恐らく、俺を牢から転移させたのは、レミルシア国の筆頭魔術師を名乗る者でしょう。……しかし、俺の落ちた先が姫殿下の住まわれる塔の傍だったことまでが、その筆頭魔術師によるものだったとは考えにくい」

「ふふ。それはなぜ?」

「何も知らないただの子供を送り込んだところで、何の使い道も無いからです。姫殿下を手に入れるために俺を利用するとしても、十分に力を付けさせた上で、『教育』をしてからでなければ意味がない」


 それはたとえば、いまのジークハルトのようにだ。


「俺の転移先は、恐らくあなたが遺した魔法によって、あの森に歪められたのでは?」

「…………」

「俺が結界に干渉することを鍵として、姫殿下と国王陛下の記憶が戻る。その合図に使われただけではなく……」


 あのとき、呪いが巻き付いていた首元へ、ノアは自身の手で触れた。


「姫殿下が、俺を救うためにご自身の魔力を分け与えると、予想なさっていたのでしょう」

「…………」


 クラウディアが壊そうとしたノアへの呪いは、排除されることに逆らった。


(だから姫殿下は、呪いを破却するのではなく、ご自身との契約で上書きなさることを選んだ)


 だが、あの叔父が使った呪いの魔法道具が、クラウディアを凌駕することなど有り得ただろうか。

 いくら六歳の幼い頃といえど、クラウディアは伝説の魔女アーデルハイトの記憶を取り戻し、

自身の魔法を熟知していたのだ。


「……クラウディアを狙うあの男の、魔法はね」


 ドロテアは、くすっと小さな笑みを零した。


「アーデルハイトの魂を、奪ってしまえるの」

「……魂を、奪う」

「だけどそれは、アーデルハイトとまったく同じ魔力を持つ者にしか、使えない魔法」


 どうしてそんな確証があるのかと思えるほどに、ドロテアの言葉には迷いが無い。


「だからあなたは、姫殿下の魔力を欠けさせたのですか? そのために、わざわざ俺という存在を、姫殿下に巡り合わせた」

「奴隷契約を結ばれた子供が現れれば、あの子は絶対にそれを助けるわ。五百年前に存在した、眷属契約の魔法を使ってでも」


 アーデルハイトにどんな魔法の知識があったのか、この母親は知っているのだ。

 そして、自らの娘がどういう性質を持ち、どんな選択をするのかも。


「そういう子だから、世界のために死んでしまった」

「…………」


 魔法で出来た真っ暗な空間に、クラウディアの眠る棺が浮かび上がる。


「もう一度、アーデルハイトを……クラウディアを奪われて、死なせてしまうくらいなら」


 ドロテアは、その棺の傍へぺたんと座り込み、ノアには触れられないクラウディアの頬に触れた。


「こうして誰にも害されず、棺の中で『お昼寝』をさせてあげている方が、ずうっと良いと思わない?」

「そのお言葉には、同意できません」


 ノアがはっきりと否定すれば、ドロテアは不満そうに目を細めた。


「我が子が危ない男に狙われているのに、無防備に過ごさせるはずもないわ。子供を危険から守ることが、親の役割というものでしょう」

「それは、姫殿下が選ばれた生き方ではない」


 その先に、どれほどの危険があろうともだ。


「取るべき手段は理解しました。俺はこれから姫殿下に、いただいた魔力をお返しする」

「いいえ、それは駄目。言ったでしょう? アーデルハイトと同じ形に戻しては、敵の魔法に奪われるわ」

「聞き入れることは出来ません。姫殿下の器を魔力で満たさなくては、このお方は目覚めてくださらない」

「それよりも先に、レミルシア国を排除して。絶対に、この子を奪わせないように」


 強いまなざしが、ノアを射抜く。


「この世界が安全にならなければ、この子を目覚めさせることを許さないわ」

「……姫殿下は」


 娘を守る母の強さに、ノアは真っ向から対峙した。


「そのようなことを、お望みになられません」

「……なんですって?」

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