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記憶障害

 ゆっくり瞼を上げ校庭を眺める。賑やかに行われている体育の授業はまるで自分の日常を否定するようで、そっと黒板へ顔を向ける。

 現実なんてそんなもので青春なんて愚か者がすることだと鼻で笑いっていると、こつんと頭部こつかれた。


「大空よ~ 私の授業はそこまで退屈かね」


 教科書を丸める主は一言だけいい教卓へ足を向けた。明美という女性教員でなにかといえばつかかってくる人だ。ただ独身ってところを除けば人気のある教員とも言える。担任というだけあって口をうるさいと思うこともしばしば。


 大空 裕樹。自分の名前であり他人の名前でもあるこの名前があまり好きではない。単刀直入にいうのであれば大空 裕樹は記憶障害を持っている。現在、高校二年生を迎えているが実のところ記憶喪失からの緊急入院によりダブリを経験していた。

 それっきりというわけではないがあまり人付き合いが得意とはいえない。いいようによっては避けているレベルで他人と関わろうとしていない。

 記憶喪失を経験した際、人前で奇声を上げたと聞かされ転校まで決意するほどだった。


 軽快に授業終了のチャイムがなり裕樹はバックを肩にかけ重たい腰を起こす。

「大空よ。どこへ行くつもりだ? この後、生活指導だ」

 裕樹は首を傾げ「予定に入れてませんが何か」先生から顔をそむけた。

「屁理屈をこねるな~」

先生は指を立て「朝の遅刻、男子生徒とのいざこざ、宿題、ノートの提出忘れ」指を折り数えたところで裕樹は観念したのかバックを椅子に置いた。

「よろしい。もう留年はこりごりだろ」


 そのセリフに顔を歪め明美先生に従うことにした。明美先生が教室を出て向かった先は職員室とは真逆の階段だった。階段を上がっていくなり出口付近で先生はポケットに手を入れた。ガチャと音を奏で見えてきたのは何もない屋上だった。

 すたすたと歩く先生は口にたばこを加え裕樹へ手招きする。


「どうだ? 私専用の隠れ家の感想は」と得意げな顔にため息がでる。

 歩み寄り「屋上なんて子供じみてますね」と返すも先生は腕を組み部活動へ励んでいる生徒たちへ目をくれた。コーラス部か、くぐもった合唱が聞き取れ、また馬鹿らしいと思ってしまった。

「今馬鹿らしいと感じただろ」となにか言いたげな顔を見せる先生の隣についた。

「大空よ~このままじゃまたダブるな」呑気に先生から視線を逸らす。

「そうですね。テストでは中の上をキープしているはずなんですけどね。出席日数も加味するなら本来なら……」


 語句を遮るようにたばこが吹かれる。


「君が言う本来ならというのは記憶障害がなかったらの話のことかね」

 ばつが悪そうに頷くと先生は笑みをこぼす。

「君は一つ勘違いをしてるのではないか。転校してくる前の君のことは知らないが君自身が頑張らない理由にはならないと思うのがね」

「他人である先生にはわかりませんよ。今の俺は俺じゃない。親が望む大空 裕樹はみんなが望む大空 裕樹はたぶん自分じゃない」

 食いしばった歯が今にも軋みそうだった。

「だから他人と関わろうとしないってわけか。周りと横並びである必要がないから同じ課題に手を付けないってわけね」


 先生はそこまで話すとポケット灰皿に吸殻を入れ、入り口にへ向かっていく。


「本題は? 留年がかかっているんですよね」

 振り返ることなく「そんな話もあったね。話の続きは柊 琴乃から聞くといい」手を挙げて去っていく。


(柊 琴乃)


 学内でも有名な彼女からの話とは? なんて思いながら夕暮れに染まる空を眺めた。


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