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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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89/539

87.諦められないので、

階段を降り、そのまま真っ直ぐに出口へ向かって行った少年の後は追わず、ショコラはリーダー格の男の姿が見えた一階の廊下を奥へと進んで行った。


そこはもう、かなりの燃え方になっていた。床も壁も天井も、ありとあらゆるところに火が付いて、まさにオーブンの中にいるのと同じ。息をするだけで身体の中から焼けそうだ。


「…っ」


あまりの熱風に足を止める事もあったが、何とか進むとリーダー格の男の許まで辿り着いた。

彼はすでに火傷を負っている。…それなのにも関わらず、ぼんやりとしたままそこに立っていた。熱そうでも、痛そうでもなく…。


「…リ…リーダーさん…!なにして…るんですか…⁉」


まともに目を開けていられない程の熱気の中、ショコラは彼の腕を引きながら尋ねた。


「……燃えるのを……待ってる…」


彼は虚ろな目で答えた。それを見たショコラはその男とそんなに多く会ったわけではなかったが、明らかにおかしい、普通ではない、と思った。


「――燃えてます!行きましょ…」


そう言って腕を引っ張り、外へ連れ出そうとするが、男はその場から全く動こうとしない。


「……俺がまだ…燃えてない……」

「⁉それは燃えては駄目!!」


ショコラは全力で男の腕を引っ張った。…しかし、相手は体格のいい男だ。か細い身では、どんなに頑張ってもなかなか彼を動かす事が出来ない…。一歩、わずかに足を動かすことがせいぜいだ。先が長すぎる…。それでもここまで来た以上、諦めるわけにはいかない。

もう一度腕を掴み直し、体重を掛けて引く――


「ごほごほっ」


両手で引っ張ると、口元を塞げない…。ショコラは煙を吸い込み、咳き込んだ。

――こうしている間にも、火の勢いはどんどん増していく…。急がなければ‼







「―――ぷはッ!」


燃える建物から抜け出した少年は、それまで顔に巻き付けていたストールを全て外した。その瞬間汗だくの全身に涼しい風を感じ、思い切り新鮮な空気を吸い込んだ。…生き返るようだ…。そのまま地面に両手と両膝を突き、荒い息を落ち着かせようとした。

――これで、やっと大仕事も終わった…。このままひっくり返って休みたい。少年はそう思いながら、後ろにいたショコラの方を振り返った。


「…!?」


少年は自分の目を疑って、周りをキョロキョロと見回した。――いない。

ショコラが、どこにもいない⁉


「う…嘘だろおい、何でだよ⁉」


さっきまで、確かに自分の後ろを付いて走っていたはずだ。それなのに、なぜそこに姿が無いのか…。少年は取り乱した。


「…こんな時にふざけてんなよ!どこだよ…出て来いよ!おいっ‼」


青くなりながら立ち上がって、少年は叫んだ。






「――手の空いている者は、消火活動に入って‼」


同じ頃、外ではすでに建物の付近から人は退避させられ、ソルベの指揮で消火が始まろうとしていた。

騎士たちは近くの井戸を探し水を汲んで来るが、燃えているのは二棟ある上、少々の水では消火には程遠い…。延焼を防ぐのが精一杯だろう。


「…やっぱり、崩してしまった方が早いかな…。」


燃える建物を見上げながら、ソルベは険しい表情で考えていた。



一方、ショコラを探して回っていたグラスは、その姿が見付からないことに焦りを感じていた。


『なぜどこにもいないんだ⁉』


そんな時、彼女を呼ぶ声に気付いた。


「ショコラ――!!」

「⁉」


声の主は、見知らぬ少年だ。彼は気を動転させ、叫びながらその辺りをうろうろキョロキョロとしている。


『…こんなところに、どうしてあんな少年が⁇…まさか、あいつらの仲間というわけでは…』


グラスは小走りで少年に近付いた。そしてその肩を掴んだ。


「君は何だ?ここで何をしている⁉」


こちらを向いた少年は、顔面蒼白だった。


「…侯爵……。さっきまで、一緒だったんだ…なのに…。いないんだよ!ショコラが!!」


少年は酷く狼狽えた様子で、泣きそうになりながらグラスの服にしがみ付き、訴えた。


「…一緒だった?」

「あそこから!一緒に出て来たはずだったんだよ‼なのにいないんだ‼」


その少年の指差す方には、赤々と燃え盛る建物の入り口があった。







「…っぐ!――熱っ…」


ショコラは尚も虚ろな男の腕を引き続けていた。そうしていると火の粉が飛んできて、服を、肌を焼いた。

さっきよりも少しだけ、男を動かすことは出来た。だが出口まではまだまだ距離がある。男からは相変わらず、自ら動こうという意思が感じられない。――…このままでは二人とも火傷では済まなくなってしまう…


『…どうしましょう…どうやって彼を動かしたらいいの??』


ショコラは必死で考えを巡らせた。


「……………

!!」


その時、ショコラは一つ思い付いた。


『そうだわ!――確か教わった護身術の中に、大男を投げ飛ばすというようなものがあったような…。それを応用したら何とかならないかしら…!』


自分の足で動かないのなら、少々乱暴ではあるが、転がしながらでも運ぶしかない。手段は選んでなどいられないのだ。

善は急げと、ショコラは早速それを思い返しながら男を相手に技を掛けてみた。


『ええと…こう…だったような…?』


…色々と試してみるが、なかなか上手くいかない。


「…ぅぐぐ…っ―――ゴホッ!」


少し長く頑張ると、煙を吸って咳き込む。その繰り返しだ。


『――どうしよう…ちゃんと教わっていたはずなのに…間違っているのかしら…。このままじゃ…!』


あまりの熱さで、思考も朦朧としてくる…。ショコラは焦ってきた。だが、ここで取り乱してしまってはいけないと思い直した。

とにかく今は、この男を出口まで引っ張り出さなければ。その思いだけが突き動かしていた。



それからショコラは何度も何度も試みた。


『…お願いだから、動いて…‼』


――もう何回目か分からなくなるほど繰り返した時、ついに何かが全て噛み合った瞬間が訪れた。今までろくに動かせなかった男を、放り投げることに成功したのだ。

ショコラに投げられた男は、受け身を取ることも無く廊下に叩きつけられ、そのままはずみでゴロゴロと出口方面へと転がっていった。


『やった!!前に進められたわ‼…やっぱり、ちょっと乱暴だけれども…』


ショコラはまた同じ繰り返しをしようと男の方へ近付こうとした。


するとその男は、それまではぼんやりとして動かなかったのが、投げられた衝撃で我に返った。そしてハッとして周りを見回した。


「な…何だこれは…!?」


自分がなぜ、こんな燃え盛る中にいるのか全く理解が出来なかった。熱い、苦しい、痛い!!男は混乱して慌てふためいた。

その様子の変化に、ショコラは気付いた。まごまごとはしているが、男は自力で立ち上がっている。さっきまでとは違う!


「リーダーさん!よかっ…」


安心したショコラの目に、男の頭上にあった天井が入った。

次の瞬間、ガラガラと音を立て、燃えるそれが崩れ落ちてきた。


「…危ない!!」


ショコラは男を思い切り向こう側へと突き飛ばした。これが火事場の馬鹿力というものだろうか。自分のものとは思えない程の力が出て、男はさっきよりももっと前方へと飛ばされ転がっていった。その先はもう、すぐに出口がある。

ショコラは目の前を塞ぐ天井だったものの隙間から男の姿を探した。そして叫んだ。


「早く行って‼はやく!!」

「ひ…ヒイィ!!」


突き飛ばされた後腰を抜かしていた男は、その声で急いで立ち上がると、悲鳴を上げて逃げ出した。

その様子を見届けるか否か、というところで、天井はさらに崩落した。そして完全に、ショコラの出口は塞がれてしまった。

男を火の手から逃がすことに成功しホッとしたのも束の間、その事実に気付いたショコラは愕然とした。


「どう…しよう……」


この建物には窓が無い。出口は一つだけ…。ここから抜け出す術は、もう残っていない。


ショコラはへたり込んだ。――熱い…疲れた…。気力が一気に抜けていった。

そして、その場に倒れ込んだのだった。






グラスと少年が建物の入り口を見ていた時、叫び声を上げながら火傷を負った男がそこから飛び出して来た。


「うわあああああっ」

「!?」


勢いよく出て来た男は外の土を踏むと、何かに躓き転んだ。彼はそのまま立ち上がらずに倒れた状態で、苦しそうに全身で息をしていた。

グラスはすかさず男に駆け寄ると詰問をした。


「お前はやつらの仲間だな⁉今まで中で何をしていた⁉言え!!」

「ハァ…ハァ…わから…ない……しらない…!」


男は火災によって火傷などを負い状態はかなり違うのだが、何か“彼”に似ている。グラスは一瞬そう思った。

似ているというのは上手く説明出来なかったが、空気のようなものが、だ。噓偽りではなく、本心から「分からない、知らない」と言っていると感じた。それが、“フォユテ”に話を聞いた時の感じを思い起こさせたのだ。


「――では、女性を見なかったか⁉お前たちが攫った中で一番若い女性だ‼」


すると男はおもむろに、震える手を持ち上げた。

そして、指差した。


「…天井が…落ちて…俺を…突き飛ばして……」


グラスはその答えに息を呑み、頭が凍り付いた。

彼の指が示したのは、自身が出て来た入り口…ガラガラと崩壊し始めた燃え盛る建物の中だった。それはさっき、少年が指差した所と全く同じ場所だ…。


「そんな……」


側で話を聞いていた少年は崩れ落ちた。

どこかに隠れているのではという僅かな望みを砕き、ショコラはあのまま建物から出ていなかったという事が判明してしまった。

絶望が、全身を襲う……。


「…まだだ…」


そう呟いたグラスはその場に少年と男を置いたまま、どこかへと走って行ってしまった。





――床の上に倒れ込んだショコラは、朦朧としながらもまだ薄っすらと意識を保っていた。


焦げるような熱さはさほど変わらないが、立っていた時よりはわずかに空気が綺麗だ。ショコラは夢うつつの頭で思考した。


『――ああ…これは…さすがにもう、どうにもならないわね……。こんなはずじゃ…なかったのに…。』


こんな所で“終わる”ことになるとは…。さすがのショコラも、そこまでは考えていなかった。


今際の際には走馬灯がよぎるというが、実際、ショコラの頭の中には今、どうでもいいような事が浮かんでいた。


『そうだわ……イザラに来てからは…まだ、一度もお姉様にお手紙を書いていなかった…。お屋敷に戻ることになる前も、後も…。お約束したのに…。』


忙しくしていたとはいえ、どうしてただの一度も書こうとしなかったのだろう…。ショコラは激しく後悔した。

ここへ戻って来る前、姉・フィナンシェは体調が悪いと臥せっていた。それにも関わらず、躊躇した自分にまた旅へ出るよう背中を押してくれた。今はもう、良くなったのだろうか…。


ショコラは堪らない思いが込み上げて、一杯になった。


「…お姉様に…あいたい……!」


溢れる涙もこぼれ落ちる前に蒸発してしまうような中で、ショコラは一つだけ、願ったのだった。

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