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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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87/539

85.異常が起きたので、

「そこにいるのは誰だ!?」


その声に気付いた時は、もう遅かった。

建物の裏側で待機していたファリヌとミエル、パットの三人は、意識がすっかり助け出されるであろう女性たちの方へと向いていた。待機を始めた頃は、もっと周りを警戒していたのに…。時間が経つにつれ気持ちが(はや)り、身の安全への注意が疎かになっていた。

そんな時、運悪く建物の裏側を見回りに来た男に見付かってしまったのだった。



「騎士団か⁉」


男が松明を三人の方へ向けた。双方の間には少し距離があり、男に三人の姿はぼんやりとしか見えない。ただ剣などは持っていないようだし、その三人以外、他に仲間がいるような気配が無い。どうやら騎士団ではなさそうな…。だが、とにかくそれらは自分たちの仲間でないことだけは確かだ。


「侵入者だ―――!!!」


男は大声で表の方にいる仲間を呼んだ。


「テメェらなんでここに来た⁉偶然か⁉偶然だとしても関係ねえ!来ちまったからには生きて帰れると思うなよ!!」


男が凄んでいる間に、彼の声を聞きつけた仲間たちが建物のあちらとこちら、両端から三人を挟み込むように集まって来た。


「…どうしま……。!?」

「逃げますよ!!」


ファリヌとパットが走り出し、ミエルは腕を引っ張られてその場から逃げ出した。左右が駄目なら建物とは逆の方向へ…林の中に逃げるのが賢明だ。


「…捕まえる必要は無え!全員消せ―――!!」


後ろから、怒声と共に何人もの男が追いかけてくる気配を感じた。





「…何かしら…。」


恐らく“外”が騒がしくなったことに、ショコラは気付いた。

――きっと助けが来たのだ‼そう、思った。しかし確認しようにもこの部屋には窓が無い。仕方なく、壁に耳を当てて音を探した。


言葉の一つ一つは判然としないものの、ガヤガヤとする中で聞こえてくるイントネーションはガトラル語のものだ。やはり救出に沢山の人が来てくれたのだ、とショコラは思った。だが……少しだけ引っ掛かるのは、その声調があまりに剣吞としている事だ。


『…何だかおかしいわ…。大勢来てくれたなら、それはきっと騎士団の方々だと思うけれど…。そういう方の声の感じに聞こえない……。それとも、現場ではこうなのかしら…?』


ショコラは何か胸騒ぎを覚えた。ここへ来てから初めてのことだ。“よく分からない”という事が、これほど不安な事だったとは…。


一度、深呼吸をした。

とりあえずこの部屋にいる間は巻き込まれるなど、自分に危険は無いだろう。

ここへ、誰かしら彼らにとって都合の良くないものが来たことも確かだろう。

――とにかく、もう少し情報が欲しい。今度は他の方向の壁に耳を当て、目を閉じて音を聞く。


…遠くで、「向こうに行ったぞ」と言ったのが聞こえた。

“誰”が?“どこ”へ⁇……


外で、大捕り物が行われているのだろうか。


「…せめて、誰が来たのか分かればいいのだけど…」


あの少年がこの部屋を出入りしたのと同じ所から天井裏へ出てみようか…。いや、手足の枷が邪魔だ。

やはり、もうしばらく待ってみた方がいい。

ショコラは周囲の音に気を配りながら床に座り直した。




――誘拐犯の男たちは騒然としていた。ヴェールの街に騎士団が大挙しているという情報によって元からピリピリしていたのが、この侵入者騒ぎによって全体がより殺気立ったのだ。

半数が血眼になって林の中に逃げ込んだそれを追いかけ、残りは武装して建物の外で警戒を強めた。


「どうだ、やったか⁉」

「いや、まだだ!暗くてうまく追いつけない‼」

「ヤツら騎士団では無いんだな!?」

「分からん…でも、そうなら今頃本隊が突っ込んで来てるだろ!」

「〈おい、どうなってんだ!説明しろ!!〉」

「〈ちょっと待て!今――〉」


言語も入り乱れていた。取り乱した者は“仲間内ではピアト語を使う”という原則も忘れ、母国語でがなっている。その言葉が分からない者は苛立ちを露わにした。

もはや、内紛まで起こりそうな状態だ。これは侵入者を仕留めるまで収まりそうにない…。



ファリヌ、ミエル、パットを追う男たちは林の中に入る時、それまで持っていた松明を手放し、代わりに刃物を握って追いかけた。

初めは目が慣れず、足を木の根などに取られ三人に距離を離されたが、暗さに慣れてくるとそれも段々と縮まっていった。それに、焦って距離を詰めなくてもいい理由があった。


「…⁉危ないッ!」


少し先を行っていたパットがギョッとして声を上げた。その声に反応し、ファリヌはとっさに足を止めた。

暗い地面をよく見ると、自分たちは今、少し高さのある崖のような所でギリギリ立ち止まれた状態だった。そういえば、ここへ走って来るまでは上り坂になっていた。

あのまま気付かずにいたら、三人ともここから落ち、ただでは済まなかっただろう…。足元をパラパラとこぼれ落ちる土音を聞きながら、三人は青ざめた。


しかし、問題は何も解決していない。後ろからは物騒な男たちがどんどん迫って来ている。


「――よし、二手に分かれよう!俺はこっちに行く!あんたたちはそっちに!」

「分かりました!ご無事で‼」


コクリと頷きパットは一人で、ファリヌとミエルは一緒に、崖から左右に分かれてまた走り出した。とにかく、今は追っ手を撒かなければ命が危ない。三人はそれぞれ、もはやどこを走っているのか分からなくなっていたが、走って走って、走った。


…苦しい…。心臓も肺も、はち切れそうだ……。足も何度ももつれそうになった。それは逃げているこちらも、追いかけるあちらも同じだろう。だが、命が掛かっているこちらの方が心情的に切迫している。


二手に分かれたため、追っ手の数は少なくなったように感じる。しかし、その手が緩められることは無い。双方とも、段々と追い詰められていく……。


「―――あぁっ……‼」


パットの方もファリヌたちの方も、ほぼ同時に男たちに周りを取り囲まれた。


『…なぜ、前からも…⁉』


息が乱れ思考がままならない頭で考えた。


「……ハハッここはな、俺らの庭なんだよ……」


そう思っている事が雰囲気から漏れたのだろう。向こうも息を乱しながら、その中の一人の男がニタリと笑って言った。


この時になって、やっと気付いた。

――逃げる方向を誘導されていたのだ。

場所は違えど、ファリヌとミエルの組もパットも、逃げて来たはずの木造の建物の近くまでまた戻って来てしまっていた…。


「…手間かけさせやがって…!」


男たちはじりじりと迫って来る。こうなってはもう、立ち向かうしかない。唯一の救いは、周りの木々が多少の障害となって立ちはだかってくれている事だ。

ファリヌは近くに落ちていた太めの木の枝を拾った。これでどうにかできるとはとても思えないが、何も無いよりはマシだ。


「…ミエルさん、木を背にして後ろに…」


――さて、これでどこまで持つか……。冷や汗が流れ落ちた。



一方のパットの方も、ファリヌたちと状況は大体同じだ。恐怖で体が小刻みに震える。


『……何を恐れているんだ、俺は‼囮になるって、自分で決めたじゃないか!…どうすれば…どうすれば、役目を果たせるんだ⁉このままでは無駄死にだ…‼』


右も左も、前も後ろも囲まれている…。これでは男らを引き付けて逃げることも出来ない。

正面にいた男が、こちらへ向かってゆっくりと歩いてくる。その手にはもちろん、刃物があった。


『――ブールさん、カイエ……連れて帰る事が出来なくて、すまない…!』


木を背にして、パットは歯を食いしばった。



「―――ッオイ!!!」


暗闇の林に、建物の方にも、大きな声が響き渡った。


「無駄な事はやめとけ!!そこまで騎士団が来てるぞ!!ここの事はもう、バレてんだよ!!!」


響いたのは若い男の声だ。

それに驚き、声が聞こえた男たちは一様にその出所を探してキョロキョロと辺りを見回している。

パットに、ファリヌとミエルに、それぞれの場所で向けられていた殺伐とした集中力が一気に削がれた。


――あの少年の声だ!パットたち三人には分かった。

嘘ではないがハッタリに近い彼の声に助けられ、三人はわずかに命拾いをした。


そして声が消えると、パットの目の前に少年が降ってきた。

どうも近くから声がしていると思っていたら、背にしていたこの木の上で叫んでいたらしい。


「――…あんたは身を護る術が無いんだろ?だったら大人しく、やられないように気を付けて後ろに下がっとけ!」


少年は自分よりもだいぶ体の大きなパットを背にしてその前に立ち、ナイフを構えた。そして男たちを煽った。


「ホラ、来いよ。返り討ちにしてやるからさ‼」

「…この…っガキィ!!」


分かりやすく、その()()が額に青筋を立てて逆上した。


「ガキ一人だ構うことは無え!やっちまえ!!」


男の一人が仲間を扇動し、刃物を振りかざして少年に襲い掛かろうとした。

少年は落ち着いて構えを引き締める。しかし――


「?」『どうしたんだ…?』


何か、おかしい…


「⁉おい、何やってんだよ、お前…ら…!?」


さっきまで威勢のよかった男たちが、異変に狼狽えた。

少年とパットを取り囲んでいた数人の内、何人かの動きが止まっている…。

動きの止まった男たちは皆、その場に立ってはいたが、力が抜けたようにだらりと腕を下ろし、聞こえないほど小さな声で何かをブツブツと呟いている。


それは、ミエルたちの所でも起こっていた。


「な…なんでしょう…??」


その異様な光景に、それまで恐怖していたミエルは戸惑った。さっきまでとは違う気味の悪さを感じる…。


「…分かりません…。」


戸惑っているのは、ミエルを庇って前で構えているファリヌも同じだ。彼らの動きが止まった事はいい。だが、これは一体何が起こっているのか…。


動きの止まっていない男たちの様子は、というと…

二人以上に慌てふためいている。どうも、彼らですらよく分からない事態が起こっているようだ。


「っオイ、どうしたんだよ!?おい!!」


もう、侵入者をどうこうではない…

男らは、動きの止まった仲間を揺すったりするが反応が無い。何を言っても聞こえていない様子で、虚ろな目線を下方に向けたまま、ずっとブツブツと呟き続けている。


「……せ…

……やせ…」


動きを止めていた男たちは一人、二人と、相変わらず力が抜けたようにではあるが、フラリフラリと動き出した。


「ぉぃ…おい!」


仲間のこれまでに見たことのない様子に、残りの男たちは戦慄していた。引き戻そうと思うが、気味の悪さに身がすくんでこれ以上触れることが出来ない…。誰もが青ざめたまま、フラフラとしている仲間をただ見ていた。


――そのフラフラと動き出した男たちは、皆同じ方向を向いた。そして、そこへ向かって歩き出した。

向かっている先にある場所は……アジトにしている木造の建物だ。様子のおかしくなった男たちは、どうやらアジトへと帰ろうとしているようだ。

それを追って、正気の男たちも戻って行く。


そしてミエルたちの前からも、パットたちの前からも、追って来た男たちはいなくなった。


「……ふう―――……」


ひとまず危険は去り、四人はそれぞれの場所で警戒を少し緩めた。脱力し、その場にへたり込んだ。


「良かった……。大丈夫ですか?ミエルさん。」


ミエルはこくこくと頷いた。


「…パットさんは、大丈夫でしょうか…?」

「どうでしょう…。でも、叫び声はしませんでしたし、無事だと思いたいですね…。」


探そうにも、二人とも少しの間動けそうにない。


「彼も、あの少年の声で助かっているといいですが――。」


ファリヌとミエルは、崖の所で別れたままのパットの身を案じた。



その頃、パットも同じ事を考えていた。


「まあ、よほど運が悪くなきゃ生きてはいるんじゃねーの?」


少年はすでに平静を取り戻し、いつも通りの調子でパットからの問いに答えた。


「…あいつら、戻っては来なそうだな…。おい、お前はしばらくここにいろ。まあ、出来るなら隠れとけ。俺はどうなったか追って探って来る。」

「ああ…分かった。」


やり取りが終わると、少年は男たちが去って行った方向へと走った。






フラリフラリとした男たちと、それに付いて来た正気の男たちは建物の所まで戻って来た。

――が、正気の男たちは、そこでの光景に(おのの)いた。


建物の側に残り、警戒していた仲間の一部までもが同じ状態ではないか…!


「――な…何なんだよ、これは!?」


気味が悪いどころの話ではない。これはもう、恐怖を感じる段階だ。

様子のおかしい仲間は皆、なぜか松明を手にして建物の中へと入って行こうとしている。


「おい、しっかりしろよ!何してんだよ!そんなもん持って入ったら…」

「…いいんだ…これで……」


正気の男の一人が、近くにいたおかしくなっている一人を止めようと声を掛けると、やっと反応が返って来た。しかし、それ以外様子は変わらない。


「いいって、何が――⁉」

「…だって……」


返事をした男の脳裏に、一人の人間の口元がずっと映し出されていた。それは、誰にも分からないことだったが、他のおかしくなっている男たちも同じだった。




『「―――いいか?よく、聞くんだ。もし、()()()は――…」』




虚ろなまま、男はポツリと言葉をこぼした。


「……“燃やせ”……」

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