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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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84.そこにいるので、

「――…彼、馬なしでどうやって行くのかと思ったら…きゃっ!」

「気を付けて!」


走る馬に乗せられ、建物の屋根を見上げながら喋っていたミエルは一瞬バランスを崩した。後ろで手綱を握るファリヌは注意すると、自分もちらりと上を見た。…たしかに、ミエルが言うようにファリヌもそれについては少し気になっていた。


ショコラのところまで案内すると言った少年は、何階もある建物の屋根まで登ると跳んだり走ったり、屋根から屋根へと移動している。まさに縦横無尽だ。平原ではそうもいかないのだろうが、こんな街中では、道など無視してそうやって移動した方が早いのかもしれない…。

そうしている内に高い建物は段々と少なくなり、風景は寂れてきた。少年は今度は民家の屋根や高い木に飛び移って移動している。何だか動物のようだ、と一同は思った。



「…そうだわ!」


何かを思い出したミエルが口を開いた。


「あの子、ショコラ様の事を“あの女”だの、ば…“ばか”……だの!何て言い方を‼後でお説教しなくちゃ…」


ミエルが興奮気味に喋ったその時、また少し体勢が崩れた。


「舌を噛みますよ!」

「ハイ……」


ファリヌに叱られ、ミエルは大人しく口を閉じた。






「―――馬はここで降りろ。もう近い。なるべく物音立てるなよ。」


木々が立ち並ぶとある場所までやって来た時、少年は地上に降りて来ると声を潜めた。いよいよ、ショコラたちと誘拐犯のいる所へと辿り着くのだ。いやが上にも緊張感が高まっていく…。


「…気を付けろよ?あいつら、とにかく人数が多いんだ。出入りもあるぞ。外だからって油断するな。」


少年を先頭に、ファリヌ、ミエル、パットの順に周りを警戒しながらゆっくりと進んで行く。林のような所を、生い茂る草をかき分けながら……

少し進むと、少年は木の陰に隠れ様子を窺う。三人もそれに倣って木の陰に身を隠す。合図が出て、また少し進む……それを何度も繰り返した。


慎重に進んで来た先で、ついに建物が姿を現した。木造の建物が二棟。それよりもっと向こうの方には他にも別の建物があるようだが、木々が邪魔でここからはよく見えない。


「――それで、どうするんです?」


それぞれが木や草の陰に身を潜め建物の方を見ている中、ファリヌが少年に尋ねた。


「さあ。まだ考え中。」

「まだって…!」

「俺はじっくり観察してから作戦を練る派なんだよ!」


ファリヌは呆れて溜息を吐いた。


「さっきも言ったろ?ヤツら人数が多いんだって。あん中に一体何人いるんだか…。」

「カイエたちがどこにいるのかは、分かってるのか?」


横からパットが口を出した。


「まあ…大体な。けど、正確な女の人数と場所までは分かんねー。俺が入ったのはショコラがいた部屋だけだし。そういや、そこにはあいつ一人しかいなかったな…」

「正確な人数って、二人の他にもまだいるって事なの⁇」

「らしい。あいつが言ってた話によればな。」


“全員連れて”とはそういう意味だったのか、とミエルは理解した。


「俺は少し探って来る。お前ら、とにかく見付かるなよ!」


そう言い残し、少年は慣れた様子で建物へと向かって行った。


「…歯痒いな…。あそこにいるって分かってるのに…!」

「落ち着いてください、パットさん。焦っては上手くいきませんよ。」

「ああ…そうだな…。」


少年の偵察はどのくらいかかるのだろうか…。それをここでただ待っているのは、パットが言うように歯痒い。三人とも早く動きたくてうずうずしてくる。


「――誰かが囮になって、彼らを引き付けるのはどうでしょう?」


ミエルが、思い付いた案を二人に話した。


「ああ、いいかもしれない!」

「ちょっと、待ってください。彼はやつらが何人いるか分からないと言っていたんですよ?それにどんな装備を持っているのかも分かりません。危険過ぎます。冷静に!」


ミエルの無謀な案にパットが乗りかけ、ファリヌは焦った。

囮うんぬん以前に、三人とも丸腰だった。とにかく急ごうと、全員着の身着のまま出て来てしまった…。さっき少年の無策を非難するような事をしたものの、考えなしにいたのは三人も同じ事で、彼の事をとやかく言える立場ではなかったのである。

…それはいいとして、訓練を受けたわけでもない素人が囮など、自殺行為に等しい。


「…とりあえず、彼が戻って来るのを待ちましょう。ここで見張っている事にも意味はありますよ。…多分。」

「…はい…。」


珍しく弱気な発言をするファリヌに、自分は()()()()()()に来てしまったのだと、ミエルは悟った。


すると、建物のすぐ側に男が一人出て来たのが見えた。


「!!!」


三人は身を固くして、物陰に隠れた。ここは建物から少し離れた場所だというのに、ドクンドクンと、鼓動がうるさい。誰もが冷や汗を垂らし、ある者は自分の口を押え、三人は決して音を立てないようにと努めた。



――少しだけ、その状態にも慣れ鼓動が落ち着いてきた頃、片目だけを僅かに出し、ファリヌは男の様子を確認した。

男はまだそこにいた。そして、彼は辺りをキョロキョロと落ち着かない。何か、異常に神経質に警戒をしているように見える。よく見ると…その手には刃物のような武具を携帯しているようだ。

やはり、不用意に動くのは危険だ。


『…どうする…。あの少年は、警護というからには何か心得があるのだろうが、ミエルさんとブールさんには期待出来ない…。これでは、見付かれば良くて人質、最悪命を取られるかもしれない…!』


今の状況では、ショコラたちを助け出すどころか自分たちの身の安全を確保するのも難しい。なぜ自分はそこまで考えられなくなっていたのだろうか…。いや、考えたとしても、ここへやって来たのだろうとファリヌは思った。


空は、だいぶ日が傾いてきた。もう夕方になる頃だ。

木々が立ち並ぶここは、さっきよりもだいぶ暗くなった。これから日が沈めば辺りはもっと暗くなる。その闇に乗じて行動を起こすのが、最適だろう…。


「…見て来たぞ。」

「!?!」


すぐ側でしたぼそりと言う声に、三人は思わず大きな声を出しそうになった。が、必死で堪えた。

声の方を向くと、いつの間にかそこには少年が戻って来ていた。「驚かさないで‼」という顔をして、ミエルは少年を無言で睨みつけた。


「あいつら、何かすげー焦ってる…。今動くのは危ない。」

「こちらでも確認しました。さっき人が出て来ていたので…。」


近くへ寄って来た少年は、草陰に潜みながら指を差した。


「――いいか?説明だけ、しとく。あの右側。窓が無い方の棟が、ショコラたちがいる所だ。よく確認は出来なかったが、他の女たちもそうだと思う。問題はそれが何人いるか、なんだよな…」


少年は唇を噛んだ。そんな彼に、ファリヌが尋ねた。


「…“囮作戦”は、どう思います?」


彼が乗ってくる事は無いだろうと思いつつも、確認だけはしてみた。


「囮ね…。命が惜しくないなら、いいんじゃねえ?まあ丸腰だし、全滅ってところだろうな。とにかく今、あいつら気が立ってんだ。

――っていう、冗談は置いといて!ちょっと時間くれ。策を考える。」


そう言うと少年は仰向けになり、木々の葉の隙間から少しだけ見える空をじっと見詰め、考えを巡らせ始めた。

残りの三人は、またしばらく身を隠しながら見張りをして待つことにした。…すると、パットが小さな声で言った。


「……もし、()()()が来たら、俺の事は放っておいてくれていい。囮としてどうにかなる覚悟は…した。」

「…じゃあ、私も…。二人も囮がいて、別の方向に逃げれば彼らをもっと釣れるかもしれませんし。」

「二人とも、話を聞いて無かったんですか⁉」


パットに続いてミエルまで名乗りを上げると、ファリヌはまたも焦った。…しかし、二人とも真剣だ。


「…あー分かった。頼んだぞ。期待してる。」


少年が、気のない返事をした。人の命が掛かっているというのに、あまりにも軽いのではないだろうか。


「君!」

「“もし”だろ。その時、突っ込むのは俺ら二人だな、ファリヌ。一番危ないぞ。お前も覚悟しとけよ。」

「……分かっている…!」


少年に言われ、ファリヌは拳を強く握った。自分の身がどうなろうと構わないというのは、同じ意見だ。しかし、無駄に犠牲ばかり出すのなら、ここに何をしに来たのか分からない。不甲斐なさに、苛立ちを覚えた。

……騎士団は、一体いつここへ着くのだろうか…。結局はそれを待たねば何も出来ないということか…。もどかしい思いが募っていく。


気付くと辺りは暗闇に覆われてきている。日は、落ち始めると早い。それでも辺りが見えているのは、徐々に暗くなっていった事で目が慣れたからだろう――…。



「――よし!決めた。全員目は慣れてるな?完全に日が沈んだら、動くぞ。俺が中に入って一人ずつ探して外に出す。これしかなさそうだ。」


それまで寝転がっていた少年が体を低く起こし言った。その内容に、ミエルは驚いた。


「出来るんですか⁉」

「時間掛かるけどな。だから、お前らは建物のすぐ側で隠れて待機して、出て来たやつを安全な所に誘導してやれ。」


少年の指示に、三人はこくりと頷いた。


刻々と、日没時間が近付く。


少年は、時計を確認した。


「そろそろだ。――行くぞ。」


ここまで来た時と同じように、四人は少年を先頭に移動し始めた。建物に向かって右側へ、初めはそれを遠巻きにするように、慎重に位置を変え近付いていく。

やつらの見張りは、あれから少し増えていた。しかし向こうは明るい場所から出て来ているからか、あまり夜目が利いていないようだ。気を抜くわけではないが助かる。


そうして四人は、さっき右側に見ていた窓のない建物の裏側へとやって来た。裏側だからか、この辺りに見張りの姿はない。

木々や草むらが建物の近くまであって、助け出された女性を誘導するために待機するには好都合だ。


少年は身振りで合図を出すと一人建物に近付き、慣れた様子で壁をよじ登って行った。そして、いつの間にか姿が見えなくなっていた。




―――見張りの目をかいくぐって建物の中へと入った少年は、まず出口を確保した。基本は天井裏の移動だが、助けた女を何とかそこへ通したとして、出口が問題なのだ。少年自体はいつどこに出ても壁を伝って下に降りることが出来るが、彼女らにそれは恐らく無理だからだ。

そこで怪我無く飛び降りられるぎりぎりの場所を探し、その壁の板を、持っていたナイフを使って外す。そうやって人ひとり通れる穴を作ると、一度板を戻して捜索を始めた。


位置の分かっているショコラは後回しだ。どうせ初めに出そうとしても、追い返された時と同じやり取りがあるだけだろう。時間の無駄だと少年は思った。

まずは誰か一人探し出し、外に出すと同時に人数を聞き出す。後は聞いた人数を基に同じように地道に探して出す。その繰り返しになるだろう――…。その内に、騎士団が到着でもすれば大成功だ。


そんな事を考えていると、早速見付けたようだ。天井板の隙間から中を覗く。

いた!カイエでもない別の女が、手足にショコラと同じような枷を付けられている。間違いない。


ショコラの時と同じく、板を外すと静かに中へ入った。大声を出されると不味い。そっと近づき、まずは口を押えた。


「――!?」


当然だが、彼女は大声を出そうとした。先手を打って正解だった…。


「静かに。心配するな。助けに来た。」

「…助け⁉」


その部屋にはやはり、一人だけが入れられていた。彼女は()()()()安心したような、嬉しそうな顔をした。


「騎士団の人⁉」


少年の若過ぎる見た目に、わずかに猜疑心を持っているようだ。喜びきれていないのが分かる。


「いや、違う。俺は――…」「じゃあ」


彼女は「違う」という言葉を聞き、少年の話を遮った。


「帰ってよ‼」

「…は、ハア⁉」


嬉しそうだった顔は失せ、怒ったようにこちらを見ている…。訳が分からない。


「…騎士団じゃないなら、確実に助けられる保証なんて無いじゃない!もし、途中で見付かったら……きっと殺される…‼」

「け、けど…」


彼女は怯えだした。


「余計な希望なんか持たせないで…。何とか今、平和にやってるの。危ない橋を渡るより、その方がいいわ…。誰にも見付からない内に、出てって!!」

「な…なんだよ、それ……!?」


少年はその状況にうろたえた。考えのあるショコラは別として、普通なら喜び勇んで助けられようとするだろうと思っていた。…なのに、拒まれるとは…。微かにすら思いもしなかった。


「――大丈夫だ、外に俺の仲間がいる!そいつらが安全な所まで誘導してくれるはずだ!」

「やめて!」


お互いに小さな声で、少年と女は腕を引いたり振り払ったり、押し問答を繰り返した。







「……“時間が掛かる”とは言ってたが、遅くないか⁇」


少年が建物へ入ったと思われる時間から、だいぶ経ったように思う…。いつ来るかと待っているから、長く感じるのだろうか?

痺れを切らしたパットが、ファリヌとミエルに声を掛けた。するとファリヌが困ったように答えた。


「そう…ですね…。ですが、中がどうなっているか分かりませんから、一概には…。」


やはり、このまま待つしかないのか―――。焦燥感で、緊張感が薄れていく……。




一方、押し問答を繰り広げていた少年は『この女は梃子(てこ)でも動きそうにない』と諦め、一時退却を始めていた。

まだ一人にしか会っていないが、この調子では他の所へ行っても同じような気がする…。どうも、個人の見解、という空気を感じなかった。そういう風に仕込まれているのか…それならば一人だけ、ということは無いだろう。

これは一度戻って、作戦を練り直した方が良さそうだ。


そう思いながら、天井裏を戻っていた時――


「そこにいるのは誰だ!?」


壁の向こう、外から男の大声が響いた。

それからよくは聞き取れなかったが、ただならぬ声で男がまくし立てているのが分かった。


初めの言葉だけで十分、状況は飲み込めた。


『あいつら見付かったのか!――不味い!!』


一人も…ショコラすら助け出す前に、こうなるとは…

少年が考えていた中で、最悪のシナリオだった。

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