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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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85/539

83.慌ただしくなってきたので、

“私は元気よ”

それは間違いなく、ショコラからの伝言だ。

――しかし、それを持って来たこの少年に見覚えは無い。一体誰で、なぜそんなものを託されたのか?ファリヌとミエルは近況を知ることが出来て喜ぶと共に、警戒をした。二人とも身構えると立ち上がり、彼に尋ねた。


「――…それをどこで入手したんです?」

「どこって、本人から聞いたに決まってんだろ。バカか。」

「本人から⁉」


少年は不機嫌そうに答えている。


「ショコラ様に会ったんですか⁉どうやって…。貴方、もしかして脅迫に…!?」


ミエルは青くなって叫んだ。すると、少年は益々面倒臭そうな顔をして溜息を吐いた。


「…だったら、一人でこんなとこに突っ込むわけないだろ⁉もっと考えてもの言えよ!」

「では……。‼もしや…君が警護の…?」

「他に何だと思うんだよ?」


少年は、見たところショコラと同じか…いや、下の年齢だろうと思われた。ガナシュの付けた警護が、まさかこんな子供だったとは…。ファリヌもミエルも、とても信じられないという顔をしたまま言葉を失った。

少し考えれば出てきそうな答えだったが、彼の見た目と言動がそれを邪魔していた。


「…っていうか、何で騎士団のやつらこんなに少ないんだ?チッ!」


少年がビストロ内を見回し悪態を吐いていると、急に肩を強く掴まれた。見ると、激昂したファリヌがそこにいた。


「痛って…」

「…………これまで、何をしていた…?」

「は⁉」

「どうしてこんな事になった⁉警護なら、こうなる前にお守りするのが仕事だろう!!」


ファリヌの言葉に、少年も苛立った。掴んできた手を無理やり振り払うと反発した。


「放せッ!お前らにだけは言われたくないね‼俺はちゃんとやってたよ!夜遅くに出歩かせたのはそっちの責任だろ。あのバカに勝手な行動させたのもな‼」


そう言われて、二人の後方にいたミエルはびくっとたじろいだ。――…やはり、今回はそういう事に帰結するのだ。そして、その直接的な責任は自分にある…。

一度は落ち着いた気持ちが、またざわつき始めた。両手を、血が滲みそうなほど固く握りしめた。

――その時「バン!!」と思い切り音を立て、ファリヌがテーブルを打った。それでミエルはハッとした。


「…俺たちだけに責任があるなら、君は用無しだ!そういう事を言っているんだな⁉」

「――…用無し…⁉…違う、俺は役立たずじゃない‼」


“用無し”という言葉に、少年は酷く反応した。鋭く睨み合う二人の間に、険悪な空気が立ち込めた。


「―――ストップ!!そこまでにしましょう‼」


ファリヌと少年の間に割って入ったのは、ソルベだった。


「今はそんな事を言い合っている場合ではないでしょう?で、君は伝言をしに来ただけなのかい⁇」


深い事情までは分からないが、どうやら内輪揉めであることは見当が付いた。


「あっ…そうだ!お前んとこの残念侯爵はどこ行った⁉」


…反論はしないが、この少年は一々嫌味を言わないと済まない性質(たち)なのだろうか、とソルベは思った。口の端を引きつらせながら、冷静さを保つように努力して話を続けた。


「…兄上たちは今さっき、怪しい廃村へ片っ端から回って調べるために出たところだよ…。」

「ハア?タイミング悪いな…。仕方ない。おい、ファリヌ、ミエル!あの女、俺だけじゃ手に負えない。付いて来い!」

「えっ…???」


その場にいた全員が驚いたような顔をした。


「…何してんだよ?急げ!会いたいんだろ⁉あいつに。」

「ちょ…ちょっと、待って…。君は――…ショコラ様たちがいる場所を、知っているのか…⁉」


特に動揺したのはソルベだ。半信半疑でたどたどしく少年に尋ねた。


「あんたも要領を得ないヤツだなあ…。やっとのことで居所つかんで助け出そうとしてやったのに、あのアホは“全員連れて行かなきゃ帰らない”とか言いやがって、俺の事追い返したんだよ‼」


それを聞いたファリヌとミエルは胸を熱くした。――それこそいつものショコラだ。そう言っている姿が、ありありと目に浮かぶ…。


「――行きます!連れて行ってください‼」


ミエルが進み出た。すると、別の方向からも声が上がった。


「な、なあ、そこにはカイエもいるんだろう⁉それなら俺も行くよ!連れて行ってくれ‼」


そう懇願したのはパットだった。その顔を見ると、意思は固そうだ。


「…付いて来れんならいいぜ。早くしろ!」


少年は出口へと向かって歩き出した。

その後を追いかけようとするパットに、ブールが駆け寄った。


「パット!…俺も付いて行きたいところだが、足手まといにしかならないだろう…。あの子の事を、どうか頼む‼」

「分かってます。ちゃんと、連れ帰りますから…!」


ブールはカイエの事をパットに託し、ビストロに残る事を決めていた。


「――では、すぐに馬を手配しないと…。そういえば!ミエルさん、馬に乗れませんでしたよね?では貴女もここに残って――…」「いいえ!」


ファリヌが言いかけた言葉を、ミエルは遮った。


「行きます!馬には乗れませんが…どうにかして付いて行きますっ!」

「どうにかって…」

「おい!早くしろって‼」


少年に急かされ、ファリヌは困った。ミエルは付いて行く事を簡単には諦めそうもない…。こんなことで時間を使っている場合ではないのに…!


「〰〰二人乗りだと、多少時間が掛かりますよ⁉分かってるんですか⁉」

「分かっています!」

「向こうで何があるかは、分からないんですよ?」

「それも分かっていますっ!」


やはりミエルも引き下がりそうにない。主人譲りなのだろうか…。


「…ハア、仕方ありませんね。」

「いいんですか!?」

「そこの君はどうです?」

「好きにしろ。俺は馬は使わないしな。それより、手配するなら急げ!」


これで救出に向かうメンバーが決まった。しかし、馬の手配をどこへすればいいのかとファリヌは考えあぐねている。ここでそんな事をする予定など無かったため、調べていなかったのだ。そんな彼を見かねたパットは声を掛けた。


「当てならある!ファリヌって言ったよな?来てくれ!」

「!助かります‼」


パットに連れられ、ファリヌは急いでビストロから飛び出した。

…とりあえず馬を用意してくるまでの間、少しの時間が出来てしまった。するとすかさず少年のところにソルベが駆け寄った。


「場所だけ、教えてくれ!今から兄さんたちに伝えに行きたい!」

「侯爵たちは廃村を片っ端から回ってるんだろ?教えても、そいつらを探して終わるだけじゃねーの?」

「こういう時の兄さんが考えそうな事なら大体分かる!君らだけで、本当にどうにかなると思ってる⁉」

「…分かったよ、地図かせ。」


渋々少年は地図に印を付けた。それを持つと、ソルベは慌ただしく出発の準備をした。そして、自分と共に残されていた団員たちに声を掛けた。


「――じゃあ、僕は出るから後を頼んだよ!」

「はい!子爵様、ご武運を‼」


敬礼する団員たちに見送られながら、ソルベはファリヌたちより一足先にビストロから出発して行った。

その後すぐにファリヌとパットが馬を用意して戻って来て、ミエルも乗せると間を置かずに出て行った。


「――…神様、どうか、みんな無事に戻って来ますよう――…!」


ビストロの前で見送りながら、ブールは指を組み空に祈った。








――昼食の場には、思った通りカイエの姿があった。彼女はショコラの顔を見るなり、泣きそうな顔でほっとしていた。もちろんあの、先に捕まっていた女たちも一緒だ。


朝と同じように、“穏やかに”食事が始まる…。今回の見張りには、また見知らぬ男が一人と、例のリーダー格の男という組み合わせが付いていた。


『…何度か顔を見ているからかしら。あの人には、何だか勝手に親近感のようなものが湧いてきたわね…。それに一番おしゃべりな気がするから、いてくれるのは都合が良いわ。』


口をもぐもぐとさせながら、この食事の時間にも彼が何か話をするのではないかと、ショコラは少しワクワクしていた。


「〈…こいつらも、だいぶ人数増えたよなあ。これからどうするんだ?〉」


もう一人の男の方が喋り始めた。ショコラは『来た!』とばかりにドキドキした。リーダー格の男がおしゃべりなのは、恐らくリーダー格ゆえ、周りと重要な話をする確率が高いからだろう。

この昼食はやはり儲けものだ、とショコラは思った。


「〈(かしら)には使いを送ってある。じきに連絡が来るだろうさ。まあ、それによって、だな。〉」

「〈けどよ、また増やすって言われても、もう部屋がねえだろ。その時はどうすんだよ?〉」

「〈それくらい、頭は分かってるよ!凄ぇ人だからなァ。〉」


どうやら、彼らには決定権が無いようだ。“頭”からの指示で、全て動いているらしい…。

それにしても、話振りからするに、近々ここには変化が起きようとしていたように見える。…まあそれも、じきに助けが来る事が決まっている身にとっては関係の無いことだが…。


しかし、もしも自分がここに来ていなかったら、と考えると恐ろしい。ショコラは身震いした。

もう部屋が無く、変化が起きるとすればそれはどう考えても、ここから移動させられるという事だ。それも「商品」であるのだから、最悪すぐに売り飛ばされる可能性がある…。


この場所へ連れられて来て、探し当てる人が現れて、助けを呼びに行って貰えた。ここまではショコラの計画通りだ。もう少し、もう少し―――……



その時、慌ただしくこの部屋へと走って来る足音が聞こえてきた。そして物凄い勢いと音で、扉が開けられた。


「――…っハアッ…〈おい、ヤバいぞ…〉」


血相を変えた男が一人、息を切らし駆け込んで来た。


「〈⁉何だ、どうした!?〉」

「〈…っそれが…っヴェールから帰って来たヤツが言うには…街中に騎士団の連中が、大勢いるって…‼〉」

「〈騎士団が⁉〉」

「〈大勢⁉〉」


男たちは慌て、食事を中断して立ち上がった。その、見たことのない様子に女たちは動揺した。

――相変わらずのピアト語。彼らが何に慌てているのか分からないことが、彼女たちをさらに不安にさせた。


「〈なあおい、どうすんだよ⁉すぐここを出ようぜ!〉」

「〈ああ、その方がいい!そうだ、ここの前にいたアジトなら…〉」

「〈落ち着け!勝手は出来ねえよ‼頭の指示を待て!〉」

「〈いつ来るんだよ⁉待ってられるか!〉」

「〈他の仲間もみんなパニクってんだよ!!〉」

「〈だから落ち着けって!ヴェールの話だ、まだここが割れたわけじゃねえだろ⁉〉」


…彼らの狼狽ぶりは相当だ。女たちも食事どころではない。身を寄せ合って震え出した。


「シュ、シュクル…!」


カイエがショコラの服をギュッと掴んだ。彼女たちと同じように、カイエも震えている。


「大丈夫よ、カイエ。…私たちにとっては、きっと()()()()()だわ…。」

「…?」


彼らが慌てるという事は、“彼らにとって”都合の悪いことが起こっている証だ。それは、包囲網が迫っているという事を意味する…。ショコラに言われて、カイエもそれに気が付いた。


「〈――とにかくだ!ヘタに動く方が危ねえだろ‼連中がここに気付かないようにやり過ごす!そうして頭からの指示を待つ!いいな⁉〉」

「〈わ…分かったよ!けど、赤の旦那んとこに新しい使いは出さねえと…!〉」

「〈そうだな…オイ、誰か行かせておけ!〉」


『“赤の旦那”…。また、別の呼び方が増えたわ…。一体どんな人なのだろう――…。』


バタバタとし騒然となっている男たちに、怯え震える女たち…。そんな中でショコラは一人、会話を聞き、ぼうっと考え事をしていた。


「〈食事は終わりだ!女どもは早く部屋に戻しとけ‼〉」


リーダー格の男の指示で他の部屋にいた男たちもやって来た。そしてショコラたちに目隠しをさせると多少強引に、それぞれの部屋へと戻していったのだった。


――ついに、助けがすぐそこまで来ている‼

彼らから解放されるまで、どんなことがあるかは最早ショコラの計画にはない。恐らく彼らは激しく抵抗するだろう。…もしかして、盾にされたりするのだろうか…?

だがこれでやっと本当に安心出来るのだと、ショコラは思った。果報は寝て待てと、またごろりと寝転がった。











「―――お客様に、ご連絡です!これより、アントルメ川の運航は一時停止いたします!!」


アントルメ川の終点、カルヴァドス領の港では、船会社の船員が声を張り上げていた。


「おい、運航停止って、どういうことだよ⁉」

「いつ動くんだ?こっちは急いでんだ‼」

「…申し訳ございません、お客様…。騎士団からの要請なんですが、詳細は私どももよく分からなくて…ハイ。」


あちらこちら先を急ぐ客たちと船員とで、小競り合いが起こっているのが聞こえてくる…。

それを横目に、一人の男が船員に声を掛けた。


「――すみません、これからピアトに行きたいのですが、海運も止まっているのですか?」

「海運ですか、少々お待ちください………。あ!大丈夫です。止まっているのはアントルメ川だけですね。ピアト行きは出ていますよ!」

「そうですか…。ありがとう。」


船員に軽く会釈をし、男はその場を立ち去った。


「……危なかったな。ちょうど港に着いたタイミングで川が止まるとは…。まあ、海は問題ないから良しとしよう。それにしても…」


海上交通の発着場までやって来た男は、そこで時間まで待つことにした。そして眉間に皺をよせ、考え事を始めた。


『騎士団の動きが早過ぎる。これまでには無かった事だ…。まさか中に裏切り者がいたのか?――いや、それは無い。確認済みだ。…全く、どれだけ使えない奴らなんだ。もしくは――…』


ふと、言葉が男の口を衝いて出た。


「…何か“想定外”が起きた、か………」

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