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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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82.近付いているので、

騎士団員を引き連れたグラスは、このイザラ領ヴェールにある大通りの終点アントルメ川までやって来た。


『…特に変わった場所ではないな…。』


馬から降りたグラスは辺りを見渡した。

河原へ降りる直前のちょっとした広場前には、まばらではあるが大きな建物もあるし、中心地に比べれば賑やかさは劣るものの人通りは少なくない。たぶん、すぐそこに船着き場があるためだろう。


「――では、この周辺の捜索を開始する。付近の建物で住人の確認と、空き家の調査は念入りに。始め‼」

「御意!!」


そうして団員たちは散って行き、グラスは広場に残ってそれを見届けた。自分はここで、各自が報告しに来るのを待たねばならない…。

しかしじっとはしていられず、河原を見下ろせる所まで歩いた。


このすぐ下に見える河原の幅は広く、川上である右手側には船着き場がある。

ここの船着き場は運搬と渡しをしているが、それほど規模の大きなものではなかった。河原も、それの周囲だけは整備されているのだが、川下にあたる左手側はあまり手入れがされていないようだ。そこには、土や石がむき出しで草が生い茂った場所まである。


「――…」


夕暮れから朝にかけて、船着き場は閉鎖される。加えて未整備の所にも、長期間隠れられそうな場所は見当たらない…。ここは調査してもあまり意味が無さそうだ。


『……。だが念のため、降りてみるか…』


グラスは近くを通りかかった団員を呼び止めると下へ行く旨を伝え、一人河原へ降り立った。そして考え事をしながらあてもなく探し、歩き回った。


『……ほぼ直感のようなものを頼りにここまで来てしまったが、上にある建物にやつらがいるようには思えなかった。第一、ここで踏み込まれてしまったら逃げ場がない。そんな所を潜伏先に選ぶ確率は低いな。決断を早まってしまっただろうか…』


溜息を吐くグラスに、焦りの色が滲んだ。


ふと、立ち止まり懐を探った。そこから…綺麗に洗い折り畳まれたリボンを取り出した。以前、ショコラが傷の手当てをしてくれた時に腕に巻いてくれた物だ。返さなくていいと言われたそれを、グラスはずっと大事に持っていた。

――それを見詰めると、胸元でギュッと強く握り締めた。


「…………っ今、どこに…」


するとその時、落とした視線の先で土がむき出しの地面に何かがある事に気付いた。グラスは急いでしゃがむと、地面に這いつくばるようにして見た。


「これは……まだ新しい。」


そこには、わずかな場所にではあったが、馬の蹄が残されていた。

グラスは急いで船着き場へ行くと、そこで仕事をしていた者に話を聞いた。


「――今日、ここへ馬は来たか⁉」

「騎士様⁉…ええ、まあ、荷物を運んだのがいくつか来ましたが…。」

「では向こうには⁉」


グラスはさっきまでいた未整備の河原を指差した。


「向こうに行った馬はいるか⁉」

「向こう…ですか?さあ……。でも、向こうに行っても意味は無いですし、今日どころかまず行かないと思いますけど…。」

「そうか、仕事中邪魔をした‼」


そう言うと、急いでまた同じ場所へと戻った。

するとそこに、何人か建物の調査を終えた団員たちが報告のためにやって来ていた。


「いいところに来た‼特段収穫がなければ報告は後でいい、この辺りを調べてくれ!」

「は、はい!分かりました‼」


そして団員だけでなくグラスも加わり、川辺を調べ始める。

――馬がここへ来ていた!それも、普段荷物を運ぶ者が立ち寄らない場所に痕跡を残して…。ではその後、どこへ……?


「侯爵様!これを‼」


その中の一人が、水際で何かを発見した。急いで行ってみると、草むらに擦ったような跡がある。これもやはり、新しい…


「何かを引きずった跡でしょうか…ずいぶん重そうですね。」

「跡の向きからして“押した”が正しいな。何かって、この場所なんだ舟に決まって……」


グラスは自分で口にしておきながらハッとした。


「舟…舟か‼――場所が船着き場である必要はない。ここにあらかじめ用意しておき、ここから逃げた…。」

「舟…。ですが侯爵様、馬はどうするんでしょう⁇」

「馬も乗せたのではないか?重さはそのせいだろう。」

「大人しく乗るものでしょうか…。」

「舟に入れた後、駄目なら眠らせてしまえばいい。」

「た、たしかに…」「それなら…!」


その場が沸き立つ中、グラスはそこを離れて歩き出しこれまでの事件に照らし合わせて考えた。…何か、思い出しそうだ…。


『“舟”……。事件の起きた場所に共通するのは…比較的人通りの多い街で、大きな街道が通っている場所だった…。』


そして開けた所まで戻って来ると、今度は広域の地図を広げた。そこに印を付けていく……これまでの事件箇所だ。

それが済むと、全体を見直して息を呑んだ。


『――そうか、大きな街道は他の街への逃走経路ではなかったんだ!』


全ての現場の街道を、街方面の逆へ辿って行くと…その先は必ずアントルメ川に行き当たる。それも、遠くはないところ所に――!


『以前行った現地調査でも近くをアントルメ川が流れていた…。あの時は何も思わなかったが、そういう事だったのか!』


「…川だ!川を止めろ‼」


グラスは大声で団員たちを呼んだ。


「――侯爵様⁉」

「やつらの移動手段は水路だ!アントルメ川の舟運を止める!!まだ上にいる者がいれば呼んで来い!手分けをして各地に通達を‼」


駆け付けた団員たちへ手短に説明をすると、グラスは指示を飛ばした。


『大きな街道に気を取られて気付かなかった…。そこまで計算しての事か⁉…だとすれば、これを立案した人物とは…。相当厄介だ。』


そこにいた団員たちは、グラスの指示に動揺した。


「で、ですが、さすがに海上師団が黙って我々の言う事を聞くとは思えません…。イザラ(ここ)へ集まるにも、一部の班が水路を使う時に手間取ったと…。」

「私の名を使ってもか⁉」

「それで何とか出来た事は確かですが、信用していない海師団員が多かったのも事実です。今回の件はそれ以上ですから…」


グラスは髪を掻きむしり、苦渋の色を浮かべた。


「海師め…。くっ…面倒な…。分かった、ではここにいる二、三人で組みを作れ!今から署名を書いて渡す。それを以て私の命令の証左とする!強く出て構わん‼邪魔をさせるな!従わなければ罪を問うと言え。文句なら全て、後で私の所へ持って来いとな!!」


ガリガリと物凄い勢いで署名を書きながら、グラスは早口でまくし立てるように喋った。署名は、書いたそばから捨てるように渡していく――


「ひと組は王宮へ伝令!受け取った組から走れ‼」

「ハイッッ!!!」


グラスの署名を受け取った団員たちは、弾かれるように飛び出して行った。



「――あと何人残っている⁉」

「ハイ、三組七人です!」

「分かった、残りは一度共に中心地へ戻る!付いて来い‼」


グラスたちは急いで馬を飛ばし、ビストロへと戻って行った。


『…移動手段は分かったが…やつらの居所がまだ掴めない…!』






街の中心地、そこに位置するカイエの実家であるビストロは今や、騎士団の簡易拠点となっていた。幾人かの待機中の騎士たちの横ではブールとパット、ミエルとファリヌが重い空気の中、それぞれテーブルを前に席に座り、捜査の行方を固唾を呑んで見守っていた。


「………ブールさん、俺たちも探しに行こう!ここでじっとなんてしていられない…。こうしている間にも、カイエがどんな目に遭わされているか…‼」

「…そうだな、パット!」


ビストロの中で、居ても立っても居られなくなったパットがブールに声を掛けて立ち上がった。


「ちょっと待ってください!お気持ちは分かりますが、落ち着いてください。今我々が動いているところですから…」


グラスの代理としてそこに残されていたソルベは弱ったように、二人をなだめようとしていた。

それを見ていたミエルも、堪らなくなってファリヌに声を掛ける。


「…私も彼らに同感です!ファリヌさん、私たちも行きましょう?」

「………っ」


ミエルの言葉に、ファリヌは苦痛の表情を浮かべた。

彼女が言うように、今すぐ飛び出したいのは山々だ。だが、土地勘の無い自分たちが闇雲に探し回ったところで成果があるとは思えない。しかしやはり、ここでただ待っていることにも限界がある…。

どうすればいいのか、ファリヌは判断に迷っていた。


「――それは分かってますが、進展がないじゃないですか!もう待てない!俺たちは俺たちで怪しい所を回ってみます‼」

「怪しいところって…当てはあるんですか⁇」


なだめようとするソルベに食ってかかりそうになっていたパットは、ブールと目を合わせた。


「…ありますよ。イザラ(ここ)にはいくつも…。」

「えっ⁉それはどういう…」


ブールが重い口を開いた。


「…イザラは、今の伯爵様に代替わりなさってから大きな街道を中心に発展が進みました。この辺も、昔と比べると驚くほど人が増えましたよ。…でも、領地の人口自体は増えてないそうで…。」


その話で、ソルベは思い出した。


「――!そういえば、イザラは数年前から過疎地域が増えたって聞いたな…。」

「ええ。みんな、元の居住地からここや他の街道沿いに移住してるんです。それで廃村になった所が年々増えてるんですよ。」

「それって、どの辺りですか?」

「どのって…。」


ブールとパットはおかしなものでも見たような顔をして、また顔を見合わせた。


「沢山ですよ。色んな所にあって、言い切れない。」

「そんなにですか⁉」

「――…この辺りの人間なら、みんな知ってることですよ。」


驚くソルベに、二人はさも当然のように答えた。


『…そこまでとは、知らなかった…!僕は何度かここを通っていたのに…。その時旅団から受ける報告はいつも“異常なし”だった。…あいつら、本当にテキトーな仕事してたな!?』


沸々と怒りが湧いてきたソルベは、イザラを管轄している旅団には灸を据えるどころかそれ以上の措置が必要だと思った。


「すみません!沢山とのことで申し訳ないですが、大体の場所を教えてください‼」


そう言ってソルベはペンを持ち、テーブルの上に地図を広げた。するとそこへ、タイミングよくアントルメ川から戻って来たグラスがビストロの中へと入って来た。


「今戻った‼」

「ああ、兄上!新しく分かった事がありますよ!」

「こちらもだ。それで?何が分かった?」

「どうもイザラには廃村が数多くあるようです。今その位置を把握しようとしていた所で…。」


二人は広げていた地図に目を落とした。場所を示すため、ブールとパットもそこへやって来た。


「…そうですね、ここから近い所だとまず…」


ブールたちが地図の中ほどを指し示そうとした時、グラスがそれを遮った。


「――いや、川沿いの地域だけでいい。やつらは舟を使って移動している!」

「舟⁉…ですか⁇」

「分かりました、それだと――…」


考えもしなかった事に驚くソルベを横に、川沿いにはいくつもの印が付けられていく…


「……この辺はまだわずかに住人が残っているらしいですが…こことか、この辺はもう誰もいなくなったとか…」

「こんなにか…!」


――その数は、予想以上だった。これ以上は絞れそうにない…。グラスは唇を噛んだ。


「…仕方がない、これらを片っ端から回ろう。よし、この付近での活動は終了だ!少数は念のためソルベと共にここに待機、残りは全て廃村の捜索へ向かう‼」


グラスの指示により、団員たちは素早く移動を開始した。そしてあっという間にビストロ内は元の状態に戻ったのだった。


少し時間は掛かるだろうが、これできっと二人は見付かるはず…。グラスたちを見送ったソルベは、ホッと小さく息を吐いた。


「――皆さん、もう安心ですよ。お二人とも、じきに帰って来ますからね。」


ソルベはブールやミエルたちに笑いかけたが、四人とも未だ表情は硬いままだ。…まだ発見されたわけではないのだから当然だろう。


「…とにかく、待ちましょう!ねっ‼」


気休めのようにそう言った時、また、ビストロのドアが開けられた。

今さっき出て行ったばかりの兄たちが、何かの理由で戻って来たのだろうか…。ソルベがそんな事を考えながら振り向くと、そこにはドアに手を突き荒く息をしている少年が一人、立っていた。

大汗を掻きながら息も整わないまま、彼は中へと入って来た。


「ああ君、今日ビストロは臨時休業だよ!関係者以外入れな…」

「……うるさい…」


少年は制止しようとするソルベを片手で押し退け進んだ。

その先で、向かい合ってテーブルの席に座っているファリヌとミエルの前まで行くと、立ち止まった。そして二人を上から見下ろすと、口を開いた。


「おい、伝言だ。“私は元気よ”ってさ。」


その瞬間ファリヌとミエルは目を見開き、呼吸をするのも忘れた。

――間違いない。それは、ショコラの言葉(もの)だ‼


二人は少年を見詰めたまま、少しの間言葉を失っていた…。

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