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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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77/540

75.長い夜なので、

「私も連れて行って。」


自分たちを誘拐犯と分かっていながらそう言うショコラに驚いた男は、一瞬放心した。


「……何、言ってんだ⁇」

「だから、私も連れて行って欲しいの。」


ショコラの顔は真剣そのものだ。


「ハハ…何だ、お前、家出希望か?」

「違うわ。でも、カイエと一緒にいたいの。」

「正気かよ…」


男は考えた。

そしてショコラの顎を掴むと、その顔をじろじろと見始めた。


「ふ~ん…。こりゃあなかなか…いや、かなりの上玉じゃねえか。」


彼はショコラを“品定め”し、値踏みしていた。


「――…おい、まさかこのガキも連れて行く気か?」

「ああ。ホラ、見てみろよ。良い土産になるぜ。」


仲間の一人が、いつもより時間が掛かっていることに痺れを切らせ口出しをすると、リーダー格の男はショコラの顔をその声の方にグイっと向けた。


「…たしかにそうは思うけどよ、勝手していいのか⁉」

「上玉が増えるんだぜ?いいに決まってんだろ!(かしら)も喜ぶだろうさ‼」


“頭”…。どうやら、この他にも仲間がいるらしい。ショコラは少し身構えた。


「殺しは足が付く…。こうなりゃどの道、連れてくしかねぇだろ。こいつにもアレ、やっとけ。チッ、時間掛かっちまったな…さっさとずらかるぞ‼」


すると、別の仲間がショコラの顔に布を押し当てた。――妙な臭いがする……

くらりとして、すぐに分かった。


『これは……くす…り………』


体に疲れがあったせいもあるのだろうか…“薬”はよく効いた。ショコラはすぐに、深い眠りに落ちていった……。


それから誘拐犯たちは、手早くショコラとカイエをそれぞれ麻袋に詰め込んだ。






――ミエルとブールは、()()を探していた。

さっきから、二人でビストロの近くをウロウロと見回っている。ばらけたかと思うと、少しして落ち合い、何か話している。


「…ここじゃ、何言ってんのか聞こえねえ…。」


高い屋根の上から様子を見ていた少年は苛立った。――とにかく、ビストロにショコラはいなかったらしい。それに、ブールが一緒に探しているのにカイエの姿はない…。詳細ははっきりしないが、何かおかしい事だけは分かった。

とりあえず、自分は上から探すことにした。


『建物に入られたらお手上げだけどな…。あー、メンドくせ…』


頭を掻いてそんな事を考えながらも、少年はすぐに行動を開始した。

ここまでに、ショコラはいなかった。…と、いうことは…


『この先か?いや、別の道に行ってる可能性もあるな…』


屋根伝いに進み、下を確認しては走った。

ショコラどころか、人影さえろくにない…と、思ったが――…。


『何だ?あいつら…。こんな時間に集まって。』


裏通りに、男の集団がいるのを見付けた。ただ距離がある上に薄暗くてよくは見えない。少年は、向こうから見えはしないものの屋根の陰に伏せると、その様子を観察し始めた。


この時間だ。大方は仲間と酒場からの帰りなのだろうが…

集団に足元のふらついている者はいない。いや、むしろ機敏な動きをしている。それに、何頭か馬の姿も確認できる。


『馬を使うってことは、距離がある場所に移動するのか…。飲みに行くなら近場のはずだ。これは違う…。』


では、こんな夜遅くに馬を使って移動するということは――…


『…早馬か?なんか急ぎの荷物があるとか――…』


馬のうち、二頭には何か大きめの袋が一つずつ載せられた。やはりそうか……。


彼らは馬の背に荷物を載せ終わると、馬に乗った者と乗っていない者はそれぞれ別の行動を取り始めた。馬がない者は一人一人ばらばらに、四方八方へと消えて行った。…荷物を預け、各々の家に帰って行ったという事だろうか…。

一方、馬に乗った者は大通りへと出ると、すぐさま走り出した。


フゥ、無駄な時間を過ごしてしまった…。

少年はそう思ったが、ハッとした。振り返って、馬の去って行った方向を確認した。


『おかしい…。早馬なら、目指すのは隣町方面のはずだ…。』


だが、馬が向かったのはこの時間には行き止まりになっている……


『あっちにはアントルメ川しかない!』


少年はさっきの光景をよく思い出してみた。やつらが馬に載せていた袋は、ちょうど人ひとりが入っているような細長い麻袋だった…。


「まさか…アレに…⁉」


その瞬間、少年は馬を追って屋根の上をアントルメ川へ向けて走り出した。


「クッソ!馬に追いつけなんて、無茶なんだよ…‼」


一人悪態を吐きながら、少年は疾走した。






「…どこにも、いないわ…!」

「ああ…これだけ探して、カイエもシュクルも見付からないなんて…。」


ミエルだけでなく、ブールまでもが焦り始めていた。汗が滴り落ちる…。


「!そうだ、フォユテの所へ行ってみよう!彼ならきっと何か知ってるさ‼」


今のところ、唯一の手掛かりと思われるのはカイエを呼び出したフォユテの存在だ。二人は急いで彼のもとへ向かった。

そしてフォユテの家に辿り着くと、ドアを叩いた。


「夜分すまない!出て来てくれないかー⁉」


待ち切れないブールは大きな声を出した。


「……ちょっと、何?こんな時間に…。」


迷惑そうに、フォユテがドアを開けた。


「フォユテ、カイエは⁇カイエはどうした⁉」

「…カイエ??何で僕にそんな事聞くのさ⁇」

「貴方がカイエを呼び出したんでしょう⁉」


ブールの横からミエルが顔を出し、口を挟んできた。変わった組み合わせを、フォユテは不思議に思った。


「は⁇僕がカイエを呼び出した⁇何で僕がカイエを呼び出さないといけないの??」


フォユテは首を傾げ、要領を得ない顔をしている…。

ミエルとブールは目を見合わせた。


「カイエがそう言ってたんだ!君が相談があるって…。それで遅くに出て行って、帰って来ないんだよ‼」

「“相談”?そんなのないけど…。」

「あるでしょう⁉どうせ、シュクルの事とか…!カイエは貴方に協力的だったもの‼」


フォユテは二人に責め立てられ、戸惑った。


「ちょ、ちょっと待ってよ!たしかに、シュクルの事で悩むことはあるけど…相談なんて今は考えてないし!だいたいそれ、本当にカイエは“僕だ”って言ったの⁇聞き間違いじゃない⁉」

「…それは………」


そう言われると…ブールは自信が無くなってくる。あの時の事を、一生懸命に思い返した。


「――いや、やっぱりそうだ!“フォユテが”と確かに言っていたよ‼」


その結果、ブールは自分の記憶を信じた。

しかし、フォユテは懐疑的な目で彼を見ている。


「でも、僕は呼び出してないよ?…っていうかさあ…じゃあカイエは、相手が“僕”だって嘘を吐いたんじゃない?嘘吐いて、ブールさんの知らない男の所にでも行ってるんだよ。きっと。」


フォユテのその言葉は、ブールには聞き捨てならなかった。烈火の如く、憤慨した。


「…あの子はそんな子じゃないッ!!父親の俺には分かる‼そんな事は絶対にしない!!!」

「…っ」


ブールの勢いに、フォユテは圧倒された。


「わ…悪かったよ、冗談だって…」

「冗談じゃすまない!!」


ブールは肩で荒く息をし、血走らせた目に涙を滲ませた。


「と、とにかく、呼び出したのは僕じゃないよ!――それで?何で、シュクルのお姉さんが一緒に来てるわけ⁇」

「シュクルがカイエの所に一人で行くって出て行ったまま、いなくなってしまったのよ‼」

「ええっ⁉シュクルが!?大変じゃないか!!」

「だから探してるんじゃない‼」


ミエルの話を聞いたフォユテは動揺した。


「僕も探すよ‼」


部屋着のまま、フォユテも慌てて家を飛び出した。


――手掛かりになるはずだったフォユテも、何も知らないとは…。様子からして、嘘を吐いているようには見えなかった。余程の演技派でもなければ――…。

姿を消したカイエとショコラを探す手立ては、振り出しに戻ってしまった。不穏な空気は、いよいよ本物になってきたようだ…。ミエルは体が冷えていくように感じた。


『お願い…お願いよ…どうか、無事に見付かって――!!』




ビストロ付近まで戻って来たミエルとブール、それにフォユテは範囲を広げて探すことにした。


「カイエ―――!!」


「シュクル―――!!」


真っ暗な夜道に、二人の名がこだまする。


「…ショコラさま――!」


ミエルは両手を震わせ、ショコラの本当の名を呼び始めた。その方が、出て来てくれるような気がしたのだ。


「お願い…出て来て…‼」


脚がガクガクと震える…。立っているのがやっとだ。家である集合住宅の辺りを、ミエルは徘徊するように探して歩いた。



「――ミエル⁇何をしてる⁉」


その時、聞き覚えのある声がした。声の方をミエルが振り返ると、そこには帰って来たファリヌの姿があった。

立ち尽くしているミエルのところへ、ファリヌが駆け寄って来た。


「シュクルはどうした、何で一人置いて外にいるんだ…」

「ふ…()()()()()()…」


詰問しようとするファリヌの前でミエルは崩れ落ちかけ、彼はとっさに腕を出して支えた。その腕にもたれかかり、ミエルは辛うじて立っていた。


…外にいるにも関わらず、ミエルは自分を「ファリヌさん」と呼んだ…。それに、この憔悴したような状態は…。――何事か起こったに違いない。ファリヌは嫌な予感がした。


「――どうしたんです、何があったんですか⁉」

「…私が…湯浴みの支度をしている間に…」


ミエルは震える手で、ずっと握り締めていたショコラのメモを渡した。


〈――ミエルへ。カイエの所に、借りたままの髪留めを返しに行って来ます。すぐに戻るから、心配しないで。〉


そこに書いてあったのは、紛れもなくショコラの字だった。それも、何事も感じさせないような…むしろ、心躍らせたような字だった。


「気付いてすぐに、ビストロへ走りました…でも、いないんです…。ショコラ様だけでなく、カイエさんまで…!」

「――…っ⁉」


ミエルの話を聞いたファリヌは焦った。そして、来た道の方を振り返った。


『――しまった!今し方、使者を帰してしまったところだ‼』


――…このところ、書状のやり取りでは飽き足りなくなったファリヌは王都の屋敷と綿密な連絡を取るために、数人の使者を使って毎日のように直接意見交換をするようになっていた。それは時に白熱し、深夜にまで及ぶこともあった。

一人とやり取りし、その使者が一つ話を持ち帰ると次の日には別の使者がやって来て、新しい議題やそれ以前にやり取りした内容の返答を持って来る…。そんな日々が続いていたのだった。

それはもちろんミエルも知るところで、だからこそ出掛けて行くのを文句もなく見送っていたのだった。


『すぐに追ってお屋敷に報告を――…』

「ど、どうしましょう………⁉」


動揺しかけたファリヌを、狼狽したミエルの様子が正気に戻した。

使者は明日もまた来る、報告などその時でいい。今はそんな事をしている場合ではない‼


「わたしの…わたしのせいで……」


か細い声がした。

気付くと、ミエルはどんどん色を失くしていっている…。


「ミエルさん!」

「どうしよう…ショコラさまが……」

「ミエルさん⁉」


もう、ミエルに周りの音は聞こえなくなっていた。








屋根伝いに走り、馬を追いかけた少年はアントルメ川までやって来た。当然ながら馬には追いつけず、着いた時には最早、不審なものは影も形も無かった。


「ハァッ、ハァッ…。他に行くところはない…どこかに、いるはず…」


息を切らせ、流れ落ちる汗を拭きながら少年は辺りを見回した。

だが、通りならばまだしも、河原に明かりなど一切ない。夜目を利かせても、見えるものは限られている。今痕跡を探そうなんて、無理な話だ。

手詰まりになり、少年は歯噛みした。


「クソッ…‼」


すると、前を向いた少年はあるものに気付いた。そして目を見張った。


『あれは………』


……川の半ばを、ふらふらと揺れながら、火の玉が飛んでいる――…


見てしまった…。少年は、我が目を疑った。


「―――“アントルメ川の幽霊”――…!?」

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