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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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52/539

50.シュクルは庶民なので、

「駄目です。」

「どうして⁉」

「どうしても、です。」


ショコラは、ミエルと街を散策していた時に思いついた事を実行に移すべく、すぐさま“家”へと帰りファリヌにその許可を貰おうとした。

だが、結果は即答で却下されたのだった。


「ミエルさん、なぜ貴女は止めなかったんですか?戻って来るまでに聞いたのでしょう?」


ショコラとファリヌの諍いは、ミエルの方にまで飛び火した。


「もちろんお止めしましたよ!でもショコラ様が一度お決めになったことを、私が止められると思いますか?」

「ファリヌ!ミエルは関係ないわ。どうして、私があのお店で()()()()()()()()のか、きちんと説明してちょうだい‼」


ショコラは珍しく、挑戦的な態度でファリヌに迫った。




――少し遅めの昼食を取った先で“カイエ”という名の、父親と二人だけで店を切り盛りしている女性と知り合ったショコラは、彼女と話しているうちに少しずつその頭の中にある考えが浮かんでいた。


『…このお店は人手が足りなくて大変そうね…。私はイザラ(ここ)で何をするか、まだ一つも決まっていないのに…。』


「――…だから他人じゃなく、婿でも来てくれたら多少ましになるんでしょうけど…忙しくて探しにも行けないわねー。アハハっ!」


『ずっとというわけにはいかないけれど、私が手を貸したら、カイエは少しだけでも楽になるのかしら…?』


カイエに見送られ、店を出た後もぐるぐるとその事が頭の中を巡っていた。


お屋敷(いえ)にいたら出来ない事………。

これだわ!これしかない‼』


その瞬間、ショコラははっきりとここでの目的が定まった。


「…私、ここでやりたい事を見付けたわ!!

あのお店で働かせてもらうの!いいと思わない⁉」



――…そうして、ショコラの発言に面食らっているミエルを連れ、その勢いのままファリヌの待つ家に帰るとその“思い付き”を話したのだった。

…しかし、ファリヌには「駄目」の一言で片付けられてしまった。ここまでの道中でも、ミエルから考え直すようにと言われていたので予想はついていたが…


「どうしてか、など議論するような問題ではありません。駄目なものは駄目なのです。」

「それでは私は何も納得できないわ。“それならば仕方がない”と思える理由を教えて!」

「…そんなご報告を、旦那様に出来るわけがないでしょう!」

「ではお父様には内緒にしていればいいわ。」

「そういうわけには参りません!」


両者は睨み合ったまま、ショコラもファリヌもお互い引こうとしなかった。ミエルはどちらか、と言えば当然ファリヌと同じ意見だ。ショコラに給仕などさせられるわけがない。ただ、それに加勢してショコラに反対するのも忍びなく、黙って成り行きを見守っていたのだった。


「貴女は次期公爵となられるつもりなのでしょう?ならば下働きなどするべきではありません。これは、矜持の問題なのです!」

「下働きの何がいけないの?そんなことで穢れるようなもの、矜持でも何でもないわ!」


ショコラは一歩前に出て、さらに畳み掛けた。


「…いい?ファリヌ。“ここ”にいる私は、ただの庶民のシュクルなの。ただのシュクルは、お店で給仕をしていても何もおかしくはないのよ。自分たちのお店を出すと言いながら毎日ただふらふらと歩き回っていたら、むしろ私、目立つんじゃないかしら?」

「……っ」


…たしかに、ショコラの言うことにも一理あった。

この旅では少し長めの滞在を予定しているため、宿ではなく集合住宅の一室を借りた。ファリヌの計画では、ここを拠点に近隣の街や領地へと行ったりする事を考えていたのだが、言う通り、三人とも()()()()に住み続けていれば、近所に怪しまれることになってしまうかもしれない…。それではせっかく作った“設定”も意味が無くなる。


「ああ…こんな機会、もうないかもしれないのに。いつか、あの時しておけばよかった、って思うことがあったらどうしましょう?」

「―――……。」


ショコラは「どうだ」と言わんばかりの顔をしている。…どうやら、ファリヌの返答も考えた上で言っているようだ。と、いうことは…

これは、ファリヌに許可を取ろうとしたのではない。いわば、通告だ。初めから、ショコラの中で結論は決まっているのだ。

彼女は、“貴重な体験”が出来そうな機をみすみす逃すような人間ではない。


「〰〰〰〰…………」


ファリヌは悩んだ。悩みに悩んだ。


そして、強く短い息を吐くと大きく吸い込んで、やっと口を開いた。


「では、いくつか条件があります。よろしいですか?一つは、店のご店主が駄目だと言ったら、大人しく引き下がること。一般の方に我儘を言ってはなりません。そして、もし働くことになったらショコラ様には我々のどちらか、もしくは二人ともが必ず同行すること。さらに、勝手な事をして先方にご迷惑を掛けないこと!これらを守れますか?」

「もちろんよ!!」

「…分かりました。それでは、ご店主に相談に参りましょう。」


――屈するしかなかったファリヌだが、最後の最後に条件を付けることで何とか折り合いをつけたのだった。

成り行きを見守っていたミエルも、やはり結局はこうなるのだなと思うと少し安心する気がして、その決定に黙って従うことにした。



そうと決まったからには、善は急げ、三人は早速カイエのいるビストロまで足を運ぶことにした。





「――えぇ?ウチで働きたい??」


このビストロの店主であるカイエの父親は、この後、夜の営業のための仕込みの最中だった。その合間を縫って、ショコラたち三人からの相談を受けてくれていた。


「そうは言ってもねえ…三人とは…。ウチは一人雇うにも十分な給金を出せないような店なんだ。他に行ってみたら、どうだい?」

「ここがいいんです!ここのお料理にとても感動しました!」

「それは嬉しいんだけど…。」


店主は見るからに困っていた。やはり、カイエも言っていたように、“給金”の事がよほど壁になっているようだ。


「…さっきも言いましたが、俺たちは自分たちの店を出すつもりでいるので、あまり長くはここで働けないんです。それに、急に休みを貰うこともありそうで…。

無理な所を、勝手ばかり言って申し訳ない。ですから、給金は結構です。店を出す前に、給仕をしたことのない下の妹に経験を積ませてやりたいんです。手伝い、という事で、どうかお願いできませんか?」


それならばと、ファリヌは無償で働く事を掛け合ってみた。…元々、三人は金に困っているわけではない。ただショコラがこの店で「働いてみたい」というだけの理由なのだ。他には何も要求など無い。こちらにはいくらでも交渉の余地があった。


「う――ん…。給金無しっていうのはなあ…」


すると、それまで口を挟まずに父親の隣で黙って聞いていたカイエが、我慢できずに言葉を発した。


「じゃあ、ここでの食事は全て賄いってことでどう⁇それに父さん、気持ち程度になら給金も出せるでしょ?それでお互いに良しとしない⁉少しでも手伝って貰えるなら、私は有難いわ‼」


タダでもいいと言う言葉を聞き、父親と違って娘の方はかなり乗り気のようだ。


「わあ!私はそれで構いません‼」


カイエの提案に、ショコラは喜んで賛同した。

――これで、あとは店主だけだ。


「――…………本当に、それでいいのかい?」


店主は腕を組みながら、ショコラたち三人の顔をそれぞれ見た。


「はいっ!!!」


ショコラとファリヌとミエルは、同時に返事をした。


「分かった!それじゃあ、来て貰う事にしよう‼」


渋っていたが、ついに店主は決断した。

娘と二人きりでやっていくのは、やはり苦労が絶えなかった。自分も娘も、どのくらいゆっくりと休んでいないだろう…。短い間だというが、それでも人手が増えることは有難い。おまけにタダでもいいなどと言う。…それはさすがに気が引けたが…娘の言う提案ならば、何とか出来そうだ。こんな好機はそうそうない、と店主は思ったのだった。


「やったあ!ありがとうございますっ頑張りますね‼」



――こうしてショコラは無事、思いを通すことに成功したのだった。





「良かったですわね、ショコラ様。ご店主が受けてくださって。」


店主との交渉が終わり、三人は家へと戻って来ていた。あれからまた話し合い、翌日からショコラたちはビストロで働き始めることになっていた。


「ええ、二人ともありがとう!」


ショコラは希望が叶ってご満悦だ。


「それにしても…あんなに反対していたのに、ずいぶん熱心に掛け合ってくれたのね。ファリヌ?」


店主がすぐに首を縦に振らなかった時点で、あっさりと引き下がると思っていた。それが、食い下がってくれるとは…ショコラは意外に思っていた。


「…主人の望みを叶える事に尽力するのが、執事としての務めですから。」

「そう、ありがとう!さすがね。」



――今日の家事の担当はファリヌだ。話が終わると、彼はさっさと夕食作りに取り掛かってしまった。


「ショコラ様、明日からのお仕事に着て行くお召し物、今のうちに見ておきましょう。適当な物が無ければ、また探しに行きませんとね!」

「分かったわ。」


そうしてショコラは、ミエルと共に寝室へ行って昨日買い揃えたばかりの服を漁り始めた。


“働く”というのは、ショコラの人生で初めての事だ。どんな事なのか、何が起こるのか、ショコラには想像がつかなかった。

自分で言い出したものの、楽しみと少しの不安とが胸の中を交錯していた。



『――そういえば、賄いでお食事させてくださるのだったわね。明日は何を頂こうかしら…?』


…だが目下の悩みは、そんなところのショコラだった。

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