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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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37/529

35.挽回が目下の使命なので、

ショコラの周りに差し入れを持った令息たちが(たか)っているのを、もちろんサヴァランも気付いていた。


「あ…あいつら…!」

『ずるいぞ羨ましい‼僕も()()やりたいよ〰〰‼』


招待客巡りをしているため遠くからそれを眺めなければならないサヴァランは、今にも血の涙を流しそうな表情だ。


「…何て顔してますの、今日の主役が。あんな連中に混ざろうとしてどうしますの?」


サヴァランの考えなどお見通しのミルフォイユは、溜息交じりに戒めた。


「“あんな連中”って…あそこにいるの、ほとんど僕の友人なんだけど…。」

「そんな事はどうだっていいですわ。貴方、その他大勢でいいのか、と聞いていますのよ。」


ミルフォイユの言葉に、サヴァランはショコラのいる輪を見つめた。


「――…嫌だ。」

「ふふっそれでいいのよ。大丈夫、この後の舞踏会でわたくしが機会を作って差し上げる。それからは貴方の仕事よ。」

「ミル…うん。ありがとう。」




―――一方、ショコラは大勢の令息たちの内の一人から受けた質問に、どう答えるかで悩んでいた。


『…そういえば、さっきサヴァラン様たちも、私が“結婚しない”と言ったら驚いていらっしゃったわ。皆さん、オードゥヴィ家の将来を心配してくださっているのね…。きちんと説明をしたいところだけれど、ファリヌには詳しく話すなと言われてしまったし…。そうだわ!それじゃあ、嘘とも言い切れない答え方をすればいいのではないかしら⁉』


「ショ、ショコラ様…?」


しばらく黙り込んでしまったショコラに、質問者が恐る恐る声を掛けた。


「あっ、ごめんなさい!その事でしたら、わたくしには()そういう相手がいませんので、結婚しません、という意味ですわ。今日連れてきた執事も、もちろんそういう相手では無いと言いたかったのです。」


ショコラは、にっこりと笑って答えた。以前王宮の夜会へ行った時、ガナシュから言われたことを思い出しながら――…


『背筋を伸ばして、堂々と…。これで乗り切りましょう‼』


すると、それまで固唾を呑んでいた令息たちの張りつめていた空気が少し、緩んだように感じた。


「そ、そうだったんですか…!」

「よかったぁ―…‼」


何とか上手くごまかせたようだ。ショコラはほっとした。


『やったわ、ファリヌ!私、ちゃんと挽回(?)出来たわ‼』


心の中でショコラは握りこぶしを掲げ、やり遂げた充実感を味わった。

…のだが、緩んだはずの空気にまだ少しばかり、わだかまりが残っていたらしい。質問してきたのとはまた別の令息が、ショコラに尋ねてきた。


「ですがショコラ様、あの執事はどう考えているか分かりませんよ?貴女がそうでも、もしかしたらそのつもりでいるのかも…。たしか彼は、男爵家の出身でしたよね?野心があってもおかしくはありません!」

「たしかに、そのためにオードゥヴィ家へ入り込んだとも考えられる。」

『えっ…⁇』


そういう方向から意見が飛んでくるとは思っていなかったショコラは、その内容に驚いた。そして、他の令息たちもそれに同調し始め、その場はざわついた。


『皆さんにはファリヌって、そう見えるのね…。』


また、ショコラは返答を考えなければならなくなった。が…


「…それはないと思います。そうだとすると不自然ですもの。もしファリヌがオードゥヴィ家に婿に入るつもりだったのなら、もっと早い時期にそうしていたはずですわ。」

「しかし、貴女を上手く丸め込むつもりでいるのかも…!」

「ですから、わたくしが次期公爵候補になることになったのは、つい最近のことです。それだと辻褄が合いません。それに――…」


ここで、ショコラは最強の一言を放った。


()()()と結婚しようとするのが、自然です。そうせずに他の方々とのお見合いをさせ、更には嫁いで行ってしまうのを黙って見ていただなんて、おかしいと思われませんか?」


それを聞いた令息たちは静まり返り、考え直してみた。


「――…そうだな、たしかに…。」

「オードゥヴィ家に入り込むなら、フィナンシェ様との結婚…その方が本意とも言える…!」

「ああ、普通はフィナンシェ様と結婚したいと思うはずだ‼」


そして彼らは納得した。絶世の美女・フィナンシェの存在は、これ以上になく説得力があった。


――本当は、元々ファリヌとフィナンシェに縁談が出た事があったにも拘わらず、早々(はやばや)と彼が断わってしまったのだと言えば、もっと話が早いだろうとショコラは思ったのだが、何せ「家の事情を詳しく話さない」と言われた手前、回りくどく説明する羽目になったのだった。



兎にも角にも、ファリヌが婿に入る気が無いことが分かり盛り上がった令息たちだったが、はっとして取り繕い始めた。


「あっ…いえ、決してショコラ様では不足と言っているわけではなくてですね…もちろん、貴女もとても魅力的なのですよ⁉」


この流れでは、フィナンシェに対してショコラが劣っていると言っているようにもとれる…。彼らは、ショコラの機嫌を損なったのではないか、と危惧した。フィナンシェと比べられることを、他の令嬢たちは皆、激しく嫌がる。びくびくとショコラの反応を見ると――…


「?魅力的なのはお姉様、ですよね⁇本当にいつも素敵で…わたくし、あの方の妹でとても幸せですわ!」


彼らが一体何に焦っているのか分からないショコラは不思議そうな顔をした後、にこにことしながら他意無くそう言った。機嫌を損なうどころか、むしろ上機嫌だ。

その様子に、令息たちは一様に安堵したのだった。




「――ショコラ様!こんなにお召し上がりになるのですか⁉この後の舞踏会はどうなさいます、ダンスの途中で気分を悪くなさいますよ‼」


席を外していたファリヌが、人だかりの中心にショコラがいる事に気付いて急いで戻って来た。そしてテーブルの上を見ると大体の事情を察知し、周りの令息たちによく聞こえるように言いながらショコラの側へと寄った。

すると、彼らは慌ててテーブルの上の皿を引っ込め始めた。


「そうですね!体調が悪くなってはいけません‼」

「これは私が引き受けましょう!」


舞踏会でショコラとダンスが出来なくなるというのは不本意だ。令息たちは、差し入れたもののまだまだ残っていた料理を自分たちで片付けると、退散していった。

おかげでショコラは満腹にまではなることなく、この場を乗り切ることが出来たのだった。


「助かったわあー、さすがね。」

「恐れ入ります。が、願わくはこういった場合の対処も覚えて頂きたいところですね。」

「分かったわ…。あっ、でも、到着時の挽回は出来たのよ。安心してね!」


そして、得意気にファリヌに顛末を話して聞かせ始めたのだった…。





―――暗くなり、パーティーは屋敷内のホールへと場所を移す。そして、舞踏会が始まった。


この日の主役であるサヴァランが“許嫁”のミルフォイユと共に会場の中心で踊り始める。すると、それを取り巻くようにして周囲の招待客たちもダンスを始めた。大体がまずは同伴者をその相手にしているようだ。


「ショコラ様、大変恐縮ではございますが、ダンスのお相手を願えますか?」

「ええ、構わないわ。」


ショコラも周りに倣って、まずはファリヌを相手に踊り始めた。そしてダンスをしながら思った。


『さっき、みんなの誤解を解くことが出来てよかったわ。あのままだったら今、余計にファリヌが誤解されてしまったところね…。』


曲が終わると、誰もが予想していた通り、ショコラのところにはダンスの誘いが殺到した。


ショコラは舞踏会の前、満腹になることはファリヌによって阻止されたものの、それまでの間にそれなりの量を口にしていたようだ。そのためファリヌは山のようなダンスの誘いを心配した。しかし、今それらを断るわけにもいかず、彼は様子を壁際で見守ることにして一旦その場を離れたのだった。




「ああっ、出遅れた…!」


サヴァランが声を掛けようとした時にはもうすでに遅かった。ショコラは次のダンスパートナーが決まってしまっていた。


「お待ちなさい。舞踏会は始まったばかりよ。まだ早いわ。」

「でも、ミル…!」


サヴァランは焦るあまり、泣きそうになっている。


「しっかりなさい!急いては事を仕損じると言いますのよ。貴方は今日、ダンスが出来れば満足なんですの?」

「…違う…けど…。」

「それなら、もう少しお待ちなさい。わたくしが機会を作って差し上げると言ったでしょう?良い頃合いで合図をしますわ。」

「…分かった。」


ミルフォイユに諭され、やむを得ずサヴァランは一先ず引き下がることにした。


――…二曲目、三曲目…なかなかミルフォイユからの合図は出ない。サヴァランは悪いと思いつつも、「仕方なく」他の招待客のダンスの相手をした。


次も…その次も、動きがない。


『まだなの⁇ミル…疑う訳じゃないけど、忘れてないよね…⁉』


そろそろサヴァランは待つことに限界を感じていた。

焦燥感に駆られながらも、それを感じさせないようにとするダンスの時間は辛かった。



「――…サヴァラン、次の曲が終わったら、すぐにショコラ様のところへ行く用意をしておきなさい。」


ミルフォイユはサヴァランの側を通る一瞬、そう囁いて離れて行った。

ついに、合図が出た。

サヴァランは次のダンスの間、ショコラの位置を確認すると、その近くから離れないようにと努めた。短いはずの曲は、今のサヴァランにとっては長く長く感じられた。…これが終われば、ミルフォイユが機会を作ってくれる…それを逃すわけにはいかない。緊張の時が流れて行った。



――曲が、終わった。


ミルフォイユは、ある人物のもとへと向かった。


「次のダンスのお相手、お願いできるかしら?」

「――え?」


突然ミルフォイユからダンスの誘いを受け、壁際にいたファリヌは驚いたのだった。

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