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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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34.パーティーはこれからなので、

子爵になったサヴァランを祝うパーティーのため、ショコラはファリヌと共にヴァンロゼ伯爵家へとやって来ていた。

「ふふっびっくりしたわ。ファリヌにはファンがいたのね。」

「…やめてください。わたくしは存じ上げません。」


到着して早々ひと騒ぎ起きてしまったが、この日の主役・サヴァランに挨拶を済ませたショコラは、お供として付いて来たファリヌと一緒に飲み物を手に、パーティー会場であるヴァンロゼ伯爵家の庭にいた。


「とにかく、わたくしはあくまで付き添いですから、今日の社交はショコラ様自身にかかっているのです。()()()()()をご覧になったでしょう。発言にはよくよくお気を付けください。よろしいですね。」

「分かったわ。」

「…しかし、ヴァンロゼ伯爵家は大丈夫なのでしょうかね。あの方が次代の執事で。まあ、公爵家には関わりございませんが。」

「私のお友達なのに…。」


どうやらファリヌは、さっきの事を未だに腹に据えかねているらしい。


「悪目立ちしてしまったかしら?」


ショコラは辺りを見回してみた。自分たちの周囲は避けられているのだろうか、心なしか他の招待客たちが寄り付かないようだ。ここだけスポットライトを当てられているように空白地帯になっている。さらには、遠巻きにして見られている気もする。


「注目されないよりはいい…と言いたいところですが、そうもいきませんね。()()()()()()()()()。――ですがショコラ様、ご自分の失態ではない事を挽回することも重要となります。ご健闘ください。」

「そうね…。」


結局、収拾はショコラに投げられたのだった。



しばらくすると、ヴァンロゼ伯爵がサヴァランたちを連れ、杯を手に会場の中心へとやって来た。


「皆様、本日は我が息子サヴァランの子爵位取得を祝してお集まり頂き、大変感謝申し上げます。――それでは、乾杯‼」

「 乾杯!! 」


いよいよパーティーが始まった。


「歓談って、何をしたらいいのかしら?」

「ですから、お話しをなさるんですよ。」

「そうは言っても、私、知り合いなんてあまりいないのだけれど…。ミルフォイユ様たちのところへ行ってもいいかしら?」

「ミルフォイユ様はともかく、サヴァラン様は主催ですからね。招待客とは万遍なくお話しされるでしょうから…」


ショコラたちは二人の方を見てみた。サヴァランはヴァンロゼ伯爵と共に、順に招待客のところを巡っているようだ。そしてミルフォイユも、許嫁ということでそれに付き合わされていた。


「回って来てくださるのを待つしかなさそうね…。そういえば、ファリヌはこういう社交の場はどのくらい経験があるの?」

「ほとんどありません。幼少の頃に数回でしょうか。両親がそういう場にわたくしを連れて行くことはあまりありませんでしたから。」


ショコラはファリヌを手本にしようと思ったが、どうやらあまり役立ちそうにはない。ミルフォイユたちが自分のところへやって来てくれるまでどうしようか、と考えあぐねていると、声を掛けられた。


「――おや、もしや君はキール男爵のご子息かい?」


…のは、まさかの()()()()()()だった。


「はい…そうですが…。」

「やはりそうか!お父上に似ていたからねえ。私の事は覚えていないかな?まあ仕方ない、前に会ったのは君がこんなに小さい頃だ。いや、ずいぶんと立派になって…。お嬢さん、少し彼をお借りしてもよろしいかな?」

「⁉いえ、私は…!」


声を掛けてきたのは、ガナシュよりも少しばかり年上と思われる紳士だった。彼はファリヌと話をしたいらしい。だが、“ショコラの付き添い”として来たに過ぎない自分が声を掛けられ、ファリヌは戸惑っていた。主人を差し置いた挙句、この場に一人残して席を外すなど――…


「ええ、どうぞ。」


しかし、そんな様子に気付きながらもショコラは笑顔で承諾し、手を振って彼らを見送ろうとしていた。…そうされてしまうと、ファリヌは後ろ髪を引かれながらも紳士について行かざるを得ないのだった。



『あんな風にお話しが始まるのね。』


参考にはなった。が、やはりこちらから声を掛けるような、また、声を掛けられるような知人のいないショコラにはそれはあまり意味のないことだった。


――そうなると、ショコラにとって気になってくるのは…そう、会場に用意された食事たちだ。少し前にファリヌから「社交を頑張れ」と言われたばかりにも拘わらず、それはすでにどこかにいってしまいそうになっている。


『今はどうせ他にすることもないのだもの。いいわよね⁇』


そわそわとしながら、ショコラはテーブルを回り始めた。


「まあー可愛らしい!まだ晩餐前だからかしら?ケーキや軽めのものがお皿に少しずつ出ているのね。でも美味しそうなものが沢山で、お腹いっぱいになってしまいそうだわ。」


ファリヌがいれば確実に咎められているところだが、今はそのブレーキが不在だ。もはやショコラを止めるものはなかった。

あれやこれやと機嫌よく手に取る。“しっかりとした振る舞い”はどこへ行ったのやら…。そして、いそいそと空いているテーブルに持って行くと、それらを幸せそうに食べ始めた。



「――美味しそうに召し上がっていらっしゃいますね。こちらはいかがです?」


ショコラの前に、皿が差し出された。


「まあ!このお皿は見ていませんわ。どちらのテーブルに⁇」

「もっと向こうの方にありましたよ。」

「そうなのですか、ありがとうございます。行ってみますわ。」

「いえっ、これは()()()差し上げたのですよ!」


歩き出そうとしたショコラだったが、皿の主に引き留められた。


「よろしいのですか?ご親切に、ありがとうございます!」


…それまで、実は皿しか見ていなかったショコラだったのだが、その時にやっと相手の顔を見た。知らない人間だったが、好青年といった感じの人物だ。

そして彼から受け取った皿の品を口にしようとすると――…


「…っずるいぞ!ショコラ様、こちらも美味しそうですよ‼」

「それならこれも、召し上がってくださいっ!」

「いや、私の見付けたこの皿の方が――…」


一斉に、令息たちがショコラのところへ様々な皿を手に押し寄せた。彼らは皆、ファリヌがいなくなったこの機会を狙っていたのだ。

ショコラは周りから避けられていると思っていたが、実情は違った。誰が、いつ、どのタイミングでショコラに声を掛けるか、という事で互いを牽制しあっていたのだ。


『み、皆さんそんなに人に薦めたくなるほどお料理が美味しかったのね⁉たしかに、今頂いたものはどれも素晴らしかったわ!』


…だがやはり残念ながらショコラは、それを彼らの思惑とは違う解釈をしていたのだった。


「ありがとうございます。お皿がいっぱいだわ…どれから頂こうかしら…。」

「もちろん、私の/僕の から!!!」


あまりの皿の多さに、二、三人が余裕で使えるはずのテーブルは埋め尽くされてしまった。そして受け取ってしまった手前、ショコラは一生懸命にそれを食べなければならなくなった。

…しかし、さすがに多過ぎる…。ショコラは食べ物に目が無かったが、大食いという訳ではない。


「…沢山ありますから、皆さんもご一緒にいかがですか?」

「いえ、是非ショコラ様に‼」

「………。」


これも社交の内…と、ショコラは腹を括ることにした。一つずつ手に取り、口に運んだ。




「――…あの、ショコラ様…一つ、伺ってもよろしいですか?」


大勢いた中の一人が、遠慮がちに尋ねてきた。


「?何でしょう。」

「その…先程の…パーティーが始まる直前の事なのですが…。…結婚なさらない、というのは…本当なのですか⁇」


質問者は周りの令息たちを見ながらおずおずと言葉を出した。それは、そこにいた誰もが聞きたいと思っていた事だった。


「ええと…」


ショコラの脳裏に、到着時の挨拶の事が浮かんだ。


『「……お(いえ)の事は外ではあまり詳しくお話しにならない方が……」』


ファリヌが、ショコラの口を手で押さえてでも最後まで言わせなかった。


『――…詳しく話してはいけなかったのよね…。“発言には気を付けて”…。う――ん…何て答えたらいいかしら…』


皆、固唾を呑んでショコラの返答を待っていた。

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