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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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14.ショコラ始動!なので、

突然やって来たミルフォイユたちは、嵐のように去って行った。


「……ええと…何の話だったか…。あぁ、()()についてはとりあえず置いておこう…。そうだ!ショコラ、この先はどうして行く予定になっているんだい?」


クレムは彼女らがやって来る前にしていた話の内容を思い出したが、それに戻す事はやめて別の話題を振った。

するとショコラは考え込んだ。


「この先の予定、ですか?うーん……お父様からは特に何も指示は出されていないので……。どうしましょうかね。」


言われてみれば確かに……。ショコラも気になって来た。

後継者候補としてのお披露目をしたはいいが、その次どうするかがまだ何も決まっていない。これでは、今までと何も変わらなくはないだろうか?……。


「今のところ指示は無い、という事は、ショコラの自主性に任せるという事かな……。」

「それなら、やりたい事は沢山あるんです!ですが正直、何から始めたらいいのか…。」


やるべき事も、やりたい事も山のようにあって選べない……。そのため、義兄もショコラも「うーん」と唸ったまま黙り込んでしまった。


「――それではショコラ様。まずは“サロン”など、なさってみてはいかがでしょうか。」


後ろで静かに控えていた執事のファリヌが、一歩前に出ると口を挟んだ。クレムはなるほどと膝を打った。


「サロンか!悪くないな。」

「“サロン”…」


耳慣れない言葉に、ショコラは首を傾げた。それも無理はない。この家では社交嫌いの母やこれまでのショコラの事情もあって、公爵家としては異例中の異例、屋敷に大勢の人を呼ばないという方針を掲げていたのだから……。“サロン”など、当然縁の無いものだった。

その事を察した執事は簡潔に答えた。


「…要は、先生やお客様をお招きしての勉強会のようなものですね。」


……『勉強会』……。何て新鮮な響き!!

ショコラはすぐに目を輝かせた。


「まあ!それは面白そうね。やってみたいわ!」

「私も良い機会だと思うよ、ショコラ。今は自習をしているそうだけど、君の場合は特に、外の人間に交じって学ぶ事も必要だからね。」


クレムもファリヌの提案に前向きだ。そんな彼の袖を、フィナンシェが引っ張った。そして小さな声で訴えた。


「サロンだなんて……どんな方がいらっしゃるか分からないのに…。」

「大丈夫、招待客はきちんと選んでおけばいい。それに、僕も出来る限り参加して付き添うから。側にはファリヌやミエルもいるんだ、心配はないよ。」

「………。」


そんな姉夫妻の話し合いをよそに、ショコラたちの方ではすでに開催の方向で話が進んでいた。


「ではショコラ様。サロンで何をなさるのか、お考えください。それに相応しい先生などの手配はわたくしがいたします。」

「分かったわ、ファリヌ。ああ、何にしようかしら……迷うわねえ。少し時間をちょうだい。色々考えてみるわ!」


フィナンシェはまだ不服そうな顔をしている。しかし、それに向けてすでに心を高揚させているショコラを見ると、とても駄目とは言えないようだった。






数日後。この日もまた、ショコラはガナシュの書斎にいた。

いつものように本を手に取るが、今日は少し「心ここにあらず」といった雰囲気だ。サロンで何をしようか、それがなかなか決まらない……。そのせいか上手く想像が出来なくて、サロン自体があまり現実味の無いもののように感じてしまっている。何だかこう、雲を掴むような話、みたいな……


『主題……主題……何がいいのかしら…。一度だけでなく何度も開く事になるでしょうから、その都度色々と変えればいいのだし、迷う事はないのかもしれないけれど……。一回目となると、足掛かりがないのよね。…うちで開くなら、外交関連?うーん……。』


……自分は、知らない事ばかりだ。父の跡を継ぐための勉強だけでなく、世の中の事ももっと教えて貰わなければならないはず。それも踏まえると……


「う――――――〰〰〰〰〰゛ん……」


ショコラは大いに悩んでいた。今にも頭から煙が出て来そうなほどに……。それは冗談としても、知恵熱くらいは出してもおかしくはない様子だ。

見かねたミエルが声を掛けようとした、その時。


「はっっそうだわ!!ねえミエル、ヴァンブラン家に連絡は取れるかしら??」


突然大きな声を出すものだから、ミエルは驚いた。しかしショコラの意図を読み取ると、すぐに返事をした。


「もしかして……ミルフォイユ様とお会いになりたいのですか?」

「ええ、彼女とお話しがしたいの!」

「分かりましたわ、ファリヌさんに伝えて参ります!」


そう答えるなり、ミエルは急いで書斎を出ると、この場にいないファリヌの元へと向かった。


『ミルフォイユ様なら、きっと色々ご存知のはずだわ。相談に乗ってくださったらいいのだけれど……。』


――そして後日、ショコラは無事ミルフォイユの屋敷へと招待されたのだった。




「……勢いで連絡を取ってしまったはいいけれど……。他所のお家へお呼ばれしたのは、初めてなのよね。何だかドキドキする!」

「まあ、珍しいですわね。ショコラ様。」


ヴァンブラン公爵家に着くなりそう言うショコラに、ミエルはくすくすと笑って声を掛けた。するとファリヌが、「パン!」と一つ手を鳴らして引き締める。


「さあお二人とも、お行儀良く!――参りましょう。」


ヴァンブラン家の使用人に案内され邸宅の中へ入ると、そのまま応接間へと通された。そこにはすでに、ソファに座るミルフォイユの姿がある。……そしてなぜか、ガチガチに緊張しているサヴァランの姿も……。

恥ずかしがってこの日はここへ来ないつもりでいた彼を、ミルフォイユが無理やり引っ張り出して来たのだ。


「まあ!サヴァラン様もいらっしゃったのですね。ごきげんよう。ミルフォイユ様、本日はお招きくださりありがとうございます。」


にこりと笑うと、ショコラはスカートを少しつまんでお辞儀をした。ミルフォイユもそれに笑顔で返す。


「まさか貴女からご連絡を頂けるなんて、思ってもみませんでしたわ。どうぞ、お掛けになって。…ほら、貴方も何かおっしゃい!」


小さな声でそう言うと、彼女は隣に座っていたサヴァランを肘でつついた。


「あっ……。ショコラ様…またお会い出来て、光栄、です……」


顔を真っ赤にして、サヴァランの目線は斜め下の方を彷徨っている。そんな彼に、ミルフォイユは『情けないわね』と一つ溜息を吐いた。

二人のその様子を見たショコラは誤解した。


『あら…私、あまり歓迎されていないのかしら…?でも、仕方ないわよね。』


つい先日知り合ったばかりの人間に会いたいと言われても、困るのだろう。正式に連絡したばかりに、断り辛かったとか……。そう思ったショコラは、ならば出来るだけ早く済ませて帰ろうと早速本題へ入った。


「お忙しいところ、お時間を頂戴して申し訳ありません。――実は、ミルフォイユ様に相談に乗って頂きたい事があるのです。」


ミルフォイユは、“相談したい事がある”という言葉にピクリと反応した。

頼られるだなんて、気分が良い……。嬉しさでソワソワするのを悟られないよう、彼女は平静を装った。


「……まあ、何かしら?わたくしに答えられる事なら、何でもよろしくてよ。」

「本当ですか⁉嬉しいです‼わたくし、とても困っておりましたの!」


ぱっと表情を明るくし、キラキラとした目で喜ぶショコラを見たミルフォイユは、更に気を良くした。


「――今度、我が家でサロンを開こうと思っているのですが、一回目の内容がなかなか決められないのです。わたくしは外の事には疎いので……。そこで、ミルフォイユ様ならば色々とお知恵を持っていらっしゃるのではないかと思い、助言を頂けないかと参りました。」


その話を聞くと、ミルフォイユは少し考え込んでしまった。


「サロンをなさるのね。それは結構な事ですわ。…ただ、申し訳ないけれどわたくしにもその経験はありませんの。良い助言は出来ないかもしれないわ。サロンといえば、女主人のなさる事という印象ですもの。若いご令嬢が主催なさるというのは、あまり聞かないような……。もちろん、全く無いわけではないけれど。」

「そうなのですか……。」


道が開けると思っていたショコラは、彼女の話に思わずしゅんとしてしまった。ミルフォイユは慌てた。


「――あぁでも、わたくしの母が昔、サロンを開いていたと聞いた事がありましてよ!」

「まあ!ミルフォイユ様のお母様が?わたくしの母はあまりそういう事が得意ではないので、経験がないと申しておりました。もう少し、伺えますか⁇」

「ええ、よろしくてよ!母が居れば呼んで来るのですけれど、今日はあいにく外出していて。わたくしが知っている範囲でならばいくらでも。」


いつの間にか、ミルフォイユはショコラのくるくると変わる表情にすっかり巻き込まれてしまっていた。しかし、嫌ではない、と彼女は感じていた。




「…――母は演劇が趣味で、兄が生まれた後も、わたくしが生まれる前くらいまでは劇作家を呼んだりしていたそうですわ。他にも文学だとか……。とにかく、自分の興味のある事を追求するのもなのではないかしら。」


ショコラはなるほど、と思った。


「“興味のある事”ですか……。それが沢山あって……どうしましょう!?」

「そ……そうなの、それは大変ね…。」


二人は考え込んでしまった。

するとミルフォイユの方が、あれからずっと黙ったままでいるサヴァランに気付いた。


「サヴァラン。貴方には何か、良い案はないのかしら?」


突然ミルフォイユに話を振られると、サヴァランは赤いのか青いのかよく分からない顔色になった。そして思い詰めたような表情で言った。


「ご…ごめんミル…僕、もう緊張で吐きそう……」

「 は い !?本当に情けない!」


まさかの発言に、呆れたミルフォイユは目と口を大きく開けた。その目の前でサヴァランは急に立ち上がった。


「…少し外の空気を吸って来ます!!」


そう言うなり猛然と駆け出し、彼は部屋の外へと出て行ってしまった。ミルフォイユはそんな状況に呆然として、サヴァランをただただ見送るしかない……。

ショコラは心配そうに言った。


「まあ……。サヴァラン様、具合がよろしくなかったのですね。大丈夫でしょうか?」

「大丈夫…よ……()()、ね……。」


ミルフォイユは遠い目をして答えた。


……だが、そこでふと、ショコラはある事が気になった。


「あのう。お二人は、ご兄妹ではないのですよね?どういった間柄なのですか⁇」


その言葉に、ミルフォイユはまた少し驚いてしまった。


『この方、本当に世間の事に疎いのね…。』


そして、サヴァランとの関係をどう説明したものかと思案した。しかし、許嫁同士である事は隠すべきものではなく、また隠し通せるものでもない。だから彼女は、表面上の事だけを教える事にした。


「わたくしたち、“一応”許嫁同士ですの。もしかして、ヴァンブラン家とヴァンロゼ家が遠縁、という事もご存知ない?」

「すみません……。」


ショコラは恐縮していた。


「はぁ。…まあ、そういう関係で勝手に決められたのですわ。わたくしたちとしては、幼馴染と言った方がしっくりきますわね。」

「そうなのですか。道理で仲がよろしいと思いました!」


にこにことそう言うショコラは、嫉妬でやきもきしている感じでは無い。それを見たミルフォイユは、先は長そうだと溜息交じりに思っていた。


「……その様子だと貴女、歴史にも疎そうですわよね。聞きましたわ。次期公爵候補になられたのですってね。外交をなさろうという方が、国の歴史をきちんと理解なさっていないのは問題なのではないかしら。良い事であれ、悪い事であれ――…」

「それですわ!!」


ミルフォイユの話の途中で食い気味に大きな声を出すと、ショコラは勢いよく立ち上がった。そしてその勢いのまま、彼女の手を握った。


「サロンの主題は、まず“歴史”から始めようと思います!わたくし、確かに歴史のお勉強はあまりしていなかったのですよ。それをこんなに簡単に見抜かれるなんて…!凄いわ、さすがはミルフォイユ様ですね‼今日こちらに伺って、本当に良かったです。ありがとうございます!!」


興奮してはしゃぐショコラは、ミルフォイユの手を握ったままブンブンと振った。その様子に圧倒され、ミルフォイユはポカンとしてしまった。


「まっまあ……。それは、良かったですわ……。」


さて、これでショコラの用は済んだ。時間が許すなら、もう少し長居しても良いところなのだが――…


「それでは、今日はこの辺りでお暇いたしますね。サヴァラン様も体調が思わしくないようですし…。今度のサロンにはお二人もご招待いたしますので、よろしければ是非いらしてくださいね!サヴァラン様にも、よろしくお伝えください!!」


そう言い残すと馬車に乗り、ショコラは帰って行った。それを見送りながら、ミルフォイユはぼうっと考えていた。


『…この間はまともに会話をしていなかったから、分からなかったけれど……。何と言うか、本当に変わった方だわ……。』


あんな令嬢は、見た事が無い。少なくとも、自分の周りにはいなかった。


「!それにしてもサヴァランたらまた‼」


その時ミルフォイユはハッと思い出した。逃走した後、サヴァランは結局戻って来なかったのだ。

帰り際、ショコラはサロンに招待してくれると言っていた。それまでにはどうにかしてあの根性、叩き直しておかなければ……!

ミルフォイユは一人、心の中でそう誓っていたのだった。



一方、オードゥヴィ公爵家に帰る馬車の中では、ショコラが早速ファリヌに考えを伝えていた。


「――分かりました。それでは至急、歴史にまつわる学者を選出いたします。それと、ご招待するお客様の一覧もお作りいたしましょう。」

「お願いね、ファリヌ。」


ようやく内容も決まり、サロンの開催はいよいよ現実味を帯びて来た。そうとなれば、ショコラがそれにわくわくしないわけが無いのだった。

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