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姉が絶世の美女なので、  作者: ウメバラサクラ
一章 候補

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11.「候補」になったので、

現公爵である父・ガナシュの決定により、ショコラは次期公爵「候補」となる事になった。

その父は、続いて家令へ向かって指示を出した。


「――あと…オルジュ、ミエルを呼んで来てくれ。」

「かしこまりました、旦那様。」


家令は速やかにダイニングを出て行くと、この場にはいなかった侍女のミエルを連れてすぐに戻って来た。


「……旦那様、わたくしに何のご用でしょうか……?」


おずおずとしながら、ミエルはガナシュに尋ねた。自分がなぜここに呼ばれたのか、その理由を聞かされていない彼女は戸惑っている。


「うむ。この度、ショコラが我がオードゥヴィ家の後継候補となる事が決まった。」

「まあ‼それは…おめでとうございます……っ!」


その報告を聞くやいなや、ミエルは両手で口を覆い目を潤ませた。当主からの呼び出しという事で、実は悪い想像までしていたのだが……そんな嬉しい報告を聞く事になるなんて。安堵した事もあって、彼女の喜びは倍に溢れた。しかし……

どうして、いち侍女でしかない自分がわざわざこの場に呼ばれたのだろうか――。その疑問は残った。


「それでもう一つ。ここで、人員の配置換えを伝えようと思う。」


そんなミエルの小さな疑問に答えるかのように、ガナシュがまた話を始めた。


「前々からフィナンシェが結婚した時に行うつもりでいたのだが、色々と状況が変わったからな。以前の予定からは変更する点がいくつかある。 すでに別館に移動させたのだが、娘たち付きの侍女の中から数名、フィナンシェに同行したいという申し出があった。そのためヴェネディクティン家とも話し合って、二人が領地へ帰る際、彼女たちをそのままあちらの家の使用人とする事になった。」


その話に、『そういえば』とショコラは思い出した。最近、顔を見なくなった侍女が何人かいたのだ。辞めたという話は聞いていないので、そういう事だったのかと合点が行った。


「それならお姉様も、いずれあちらに行かれた時にはお寂しくないですね!」

「……私はショコラがいないと寂しいのだけど……」


ぼそりと呟いたフィナンシェの言葉は、無かった事にされていた。


「――で、残った者は今後“ショコラ付き”と改めるのだが――…。ファリヌ!ミエル!前へ。」


ガナシュが突然、二人の名を呼んだ。ファリヌとミエルは、言われた通りに彼の前へ並び立った。


「今から、ファリヌをショコラの執事に任命する。」

「えっ……。」


ファリヌは思わず動揺してしまった。さっきまで舌戦を繰り広げていた自分が、その対象だったショコラの執事に任命された……?


「何を驚く。おかしな事ではないだろう。元々はフィナンシェの“婿”が来た際に、お前をその執事として付ける予定だったんだ。それがショコラに変わっただけの事。ショコラの適性を見極めるためにも、傍にいた方が都合がいいはずだ。 そうだろう?」


確かに……。そう言われてみれば、納得しかない。ただ、ショコラの傍にいても、「執事」としての仕事をどれだけさせて貰えるかは――…未知数だ。無礼を承知で言うならば、それは自分にとって『役不足』なのではないか??――と、ファリヌは思った。

そんな、少々不満気な表情を見たガナシュは、彼を諭すように口を開いた。


「――それに、なあファリヌ。人というのは、育てる事も重要なのだよ。」


ファリヌはハッとして目を見張った。

自分の主人になる“オードゥヴィ公爵”には、はじめから完璧な人物である事を望んでいた。しかし、それは間違っているのかもしれない……。

その事に気付くと、彼の抱いていた不満は幾ばくか解消した。


「それから本来、執事は主人の身の回りの世話をする事も仕事の内。――だが、さすがにそれをファリヌにさせるわけにはいかない。そこで、だ。」


話を続けるガナシュは、ファリヌの隣に目線を向けた。


「ミエルをショコラの専属侍女として、ファリヌには任せられない部分の代わりを務めて貰う事にする!お前はショコラと特に親しくしているようだし、この屋敷で生まれ育っているからな。色々と詳しいだろう。適任だと思う。 これから二人で共にショコラを支えてやってくれ。いいな。」


その言葉に、ミエルは顔を紅潮させた。そして任命された二人は返事をした。


「はいっもちろんでございます!!」

「……旦那様の仰せの通りに。」


ミエルとファリヌ、その返事にはそれぞれ若干の温度差があった。が、二人は共に承諾したのだった。

満足そうな顔をしたガナシュは、一同を見回した。


「では他に、これらの決定に何か意見や不服のある者はいるか?」


すると、しばらく黙って成り行きを見守っていたフィナンシェの夫・クレムが手を挙げた。


「お義父様。わたくしも義兄(あに)として、微力ながら尽力いたします。」

「ああ、助かるよ伯爵。よろしく頼む。 よし!これで粗方、話は終わりだ。後の細かい事はこれからだな。さあ、忙しくなるぞ‼」


――こうして、一時は紛糾した家族会議も丸く収まり、無事終了となった。







「良かったなあ、ショコラ!頑張れよ。」


そう言い残し、叔父・ジャンドゥーヤと祖父母である前公爵夫妻は、その日の内に領地にある屋敷へと帰って行った。


ショコラの次期公爵候補就任の報せは、すぐさま他の使用人たちにも伝えられた。すると屋敷内は、フィナンシェの婚約が決まった時と同様に喜びの空気に包まれた。


「……実は、みんなで心配していたんです。」


目の端に溢れる涙を拭いながら、ミエルはショコラに明かした。


「フィナンシェ様が嫁がれてしまったら、このお屋敷はどうなってしまうのだろうかと……。それがまさか、ショコラお嬢様が跡継ぎに名乗り出られるだなんて…。ミエルは嬉しゅうございますわ!」


そう言うと、彼女は感極まってワッと泣き出した。今この場には、先ほど現当主からそれぞれ拝命された三人がいる。

ショコラはミエルを宥めた。


「泣かないで、ミエル。ありがとう。」


一方のファリヌは、小さく溜息を吐いた。


「そうですね。まだ“候補様”ですから、泣くのは早過ぎますよ。 フウ、こうなっては私も腹を括らねば…。これから厳しく指導させて頂きます。ショコラ様、わたくしは甘くはありませんからね。」


ピシャリと言い放つファリヌに、ミエルの涙は引っ込んだ。そして彼女は対抗心を燃やした。


「まあ!ショコラお嬢様…いえ、ショコラ様!決して負けてはなりませんよ、ファリヌさんにだけは‼」


そうして、ミエルとファリヌは互いを見てバチバチと火花を散らしていた。


『……お父様から、二人で私を支えるようにと言われたのに。大丈夫かしら……。』


見事に飴と鞭に分かれている。苦笑いをするショコラでさえ、不安を感じる首途(かどで)となった……。




――そんなわけで、ショコラは急遽王宮の夜会へ行く事が決まり、屋敷ではその準備が大忙しで始まった。加えて別館では、目前に迫っているフィナンシェ夫妻の新婚旅行の支度もしなくてはならない……。

それなのにフィナンシェが、


「私もショコラの衣装選びをしたいわ!旅行の荷物なんて、いつもみんなが勝手に詰めてしまうのだから私がいなくても問題ないでしょう?」


などと言い出すので(いさ)めると……


「それなら旅行なんて行くのはやめるわ。()()()()()()もショコラの晴れ姿を見たいもの!」


新婚旅行を「そんな事」呼ばわりとは、可哀想な義兄……。仕方なしに、ショコラの準備に参加させて彼女を大人しくさせる事にしたのだった。

そしてショコラの部屋では、ミエルを筆頭にショコラ付きとなった侍女たち数人とフィナンシェ、母のマドレーヌも集まっての衣装選びが行われている。


「ショコラにはこの色がいいんじゃないかしら?」

「こっちの色の方が可愛いわ、お母様!ミエル、当日は張り切ってショコラの支度をしてあげて頂戴ね。頭の先から足の先までよ⁇」

「もちろんでございますフィナンシェ様!抜かりはいたしません‼」


あれやこれやと持って来られるドレスに次々と着せ替えさせられ、ショコラは少々疲れてしまった。それに屋敷に引き籠っていた自分は衣装の事など気にした事も無く、よく分からない……。

だが、みんながきゃっきゃと楽しそうなので、『まあいいか』と為されるがままにしていたのだった。



そうこうしている内、あっという間にフィナンシェ夫妻が旅行へと出掛ける日になった。玄関先にはショコラとマドレーヌ、それに使用人たちが見送りに来ている。


「まずはヴェネディクティンのお屋敷に立ち寄るのでしょう?」


マドレーヌはクレムに声を掛けた。彼はにこりと答えた。


「はい、お義母様。そこで一泊して、港から船へ乗り込みます。」


彼らの新婚旅行は、海に出て異国へと向かうらしい……。このガトーラルコール王国では珍しい事だそうだ。


「フィナンシェったら粗相をしないかしら。ちゃんとなさいね。あちらのご両親によろしくと伝えて。」

「もうっ分かっていますわ、お母様!」


母のお節介に、フィナンシェはむくれて答えていた。そして最後にショコラが二人へ声を掛ける。


「お姉様、お義兄様もお気を付けていってらっしゃいませ。お土産話を楽しみにしていますね!」

「ええ、もちろんよ。物でも話でも、沢山持って帰って来るわ!貴女も、しっかりね。」


そうして盛大な見送りを受け、フィナンシェとクレムを乗せた馬車は出発して行った。

それを見ながら、母はショコラに言った。


「さあ、次は貴女の番ね。」


――あの、悪夢の(と言っても、本人は何とも思っていないのだが…)社交界デビュー以来の、ショコラの公の場への参加だ。屋敷の者たちは皆、上手く行くかどうか、あの時の事がショコラの心の傷になっていやしないかと気を揉んでいたのだが、当の本人は――…


『王宮の夜会には、どんなお料理が出るのかしら。楽しみだわあ。……あら?という事はこの先、私がお留守番をする事は無くなるという事……?そうなると、お屋敷で内緒の立食パーティーはもう出来なくなってしまうのかも……それはちょっと残念ね。またやりたいと思っていたのに……。』


などと、呑気な事を考えていたのだった……。

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