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カラスの恩返し  作者: 緒仲庵次
7/25

家事

 次の日。

 義弘は7時に目が覚めた。

 そういえば食事はどうしようか。

 それから洗濯物がたまってきた。


 これは本格的に家事の勉強をしなくてはいけない。

 洗濯物については洗濯機に放り込んでスイッチを入れて洗剤を入れたら洗ってくれるだろうから、そしたら干せばいい。物干しざおとハンガーや洗濯物を干す洗濯ばさみがついた道具…姉の喜久子が言うには『ピンチハンガー』というらしい……は用意してある。

 用意してある……と言ったがこれは喜久子が用意してくれたものである。

 最近では両親よりも姉の方が口うるさい。


 問題は食事だ。

 米は炊ける。

 おかずだ。

 ずっと『こふうそう』のお惣菜というわけにもいかない。


 今日はとりあえずお弁当にするとして……

 何かを作る習慣をつけないと、前の日に買ったお惣菜を朝食べるということになる。別に大丈夫だとは思うが……なんとなく気分的に嫌なものである。

 やはり朝はできたてのものが食べたい。

 こうやって一人暮らしを始めると自分が如何に親に依存していたのかが分かる。

 感謝していないわけではないのだが、遅かれ早かれこうなるのなら、早い段階でこういうことは教えておいてほしいものである。

 口を開けば『卒業したらどうするんだ?』とか言っていたがその前にこういう生きていくのに必要なことをきちんと教えておいてほしい。


 愚痴ったところで仕方ない。

 ネットをみればレシピはいくらでも公開されているのだからそれらを見ながら作るしかないだろう。


 テレビをつけると朝のニュースがやっている。

 隣の堀本はすでにどこかに出かけたようだ。

 ふと時計を見ると7時半をまわったところである。

 こんな朝早くにどこにいくのだろうか。

 まあ……別にどうでもいいが……。


 『こふうそう』が開店するのは8時なので朝ドラを見たら買いに行こう。

 それまで洗濯物を回すことにしよう。


 それにしても仕事が始まったら……洗濯物は朝起きて干して行った方がいいのか?

 いや……途中で雨が降ってきたらどうする?

 このアパートは屋根付きのベランダがないから干しておいて雨が降ってきたらおしまいである。

 洗濯物を回すだけ回して、帰ってきてから干そうか……。

 とりあえずそれで様子を見よう。


 洗濯機を回して本を読んでいるうちに時間はあっという間にすぎた。


 本を読んでいると空腹すら忘れる時がある。

 気が付けば時計は9時を回っている。

 すでに洗濯機は止まっている。

 とりあえず洗濯物を干そうか。

 いい天気だ。


 義弘は洗濯機の中にある脱水が終わった洗濯物をカゴに入れた。

 そして洗濯物ごとにピンチハンガーに挟んだり、ハンガーにかけたりして洗濯物を干した。

 ここまでやっておけばあとは夕方まで待つだけだ。


 確かに雨が降ってきたら洗濯物は台無しになってしまうが、仕事前にここまでやっておいた方がいいような気がする。雨さえ降らなければ夕方には洗濯物を入れるだけだ。

 やはり雨のことは気にせず、ここまではやっておくことにしよう。


 それにしても一人暮らしはやることが多い。

 こう考えてみると家族の存在はありがたい。

 口うるさい母親もこんな面倒な家事をすべてやってくれていたわけだし、姉はそれを率先して手伝っている。父親は社会にでて立派に仕事し家族を養っている。

 今まで感じなかったことだが、これはすごいことだ。

 あらためて何かを言うのは照れるが……何か機会があれば感謝しなければならないな…とふと義弘は思った。


『おはようございます』


 ふと洗濯物から顔を上げると、アパートの前の道が見えた。そこにはすらりと細く、背の高い女性がいた。

 白いTシャツにGパン。足が長いからGパンが良く似合う。

 黒くて長い髪の毛がしっとりと首から肩にかけてかかっている。

 綺麗な髪だ。

 面長な顔だが白い肌で目は一重。

 どちらかといえば美人だ。

 ただ義弘の好きなタイプの美人ではないが…。


『あ……おはようございます』


 義弘は慌てて挨拶をした。

 今日、このアパートに引っ越してきたのだろう。

 アパートの隣にトラックが停まっており、業者と思わしき人間が数人、2階の空き部屋に荷物を搬入している。よく見たら……この女性、面接の時にいた女性だ。

 スーツ姿ではないので分からなかった。


 女性は着る服や化粧で随分と印象が変わる。

 姉の喜久子はあまり化粧をしないので、いつも同じ顔をしているが妹の智美はすっぴんの時と化粧している時ではまったくもって顔が違う。そういうことを見慣れているので特段、女性が第一印象と違うからといってさほどの驚きはない。

『葉山と言います。よろしくお願いします』

『植竹です。よろしくお願いします』

 それ以上は話さなかった。

 初対面の人間とは話しづらい。

 まだそれでも男性である堀本なら少しは気軽に話せるのだが、相手が女性だと何を話していいかも分からないからだ。


 まあ……挨拶はしたんだから良しとしよう。

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