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カラスの恩返し  作者: 緒仲庵次
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買い物

 アパートから駅に向かって15分ほど歩くと、ショッピングモールがあった。


 それにしても坂が多い。

 さんざん、上り坂を昇ったあとに、今度は下り坂を下ってようやく駅前のショッピングモールが見えてきた。


 義弘は好きな音楽をスマートフォンに入れてイヤホンで聞きながら、自分の世界に浸りながら歩くのが好きだ。

 音楽を聴いていれば何にでもなれる気がするからだ。


 空も飛べるし、魔法も使える。剣と魔法を使ってどこまでも旅に出ることができるのだ。

 そんなふうに自分の世界に浸りながらずっと歩く。


 だから多少歩くことは苦痛ではない。


 駅前にはお洒落なショッピングモールがある割に、そんなに混んでいるという感じではなかった。

 平日の午前中ということもあるかもしれないが、なんとなく間延びしたような午前中ののんびりした雰囲気は嫌いではない。


 音楽を聴きながら店をのぞくと自分がファンタジーの世界の住民になって、武器屋や道具屋を物色しているような気分になる。


 朝ごはんはふらりと入った喫茶店で軽く済ました。

 いい喫茶店だった。

 ガラス張りになっていて外が良く見える。

 人の行きかう様子を見ながら食事をするのはいいものだ。

 生活の息遣いを感じる。

 食事をゆっくり済ました後、ショッピングモールに行き、必要なものはすべて購入した。


 ただ……肝心の本屋がない

 大きな本屋がないと困る。それかもしくは図書館でもかまわない。

 ライトノベルでなくてもいいから何か読みたい。


 夜寝る前に何かを読んで物語の世界に浸らないと……どうしようもなくストレスに飲み込まれてしまいそうになる。現実世界では何もいいこともないし、うまくいかないしやりたいこともない。

 だから、物語の世界に浸るのが義弘にとって、一番のストレス解消なのだ。


 気がつけば時計はすでに12時を回っている。


 一度……家に帰るか……。


 それにしても困った。

 本屋がないとは……。


 義弘がアパートに戻ると誰かがアパートに引っ越してきていた。

 隣人は面接のときに見た顔だった。

『こ……こんにちは』

 アパートの住民には顔を合わせたら挨拶をしようと思う。

 同じ会社で働く仲間になるわけだから、こんなところで変な関係にはなりたくない。

 よく考えてみればそういうところは少しめんどくさいかもしれない。


 でもまあ……そういう人間関係はどうあれ避けては通れないのだから仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれない。義弘は深く考えるのはやめることにした。


『こにんちは……。隣に住むことになりました堀本と申します』

『あ……植竹です。よろしくお願いします』

 堀本と名乗った男のことは覚えている。

 面接で一緒だった3人のうちの一人だ。

 合格したのか……と思うと少し嬉しかった。

『植竹さん……確か面接のとき……』

『ですよね……ボクもすぐに思い出しましたよ。これから、よろしくお願いします』

『お買い物ですか?』

『そうなんです。ボクも昨日引っ越してきたばかりで』

『自分も作業が終わったらすぐに買い物行かないと……』

『駅前にショッピングモールがありますよ』

『そうですよね。便利です。ああ、でも戸塚まで出るともっと便利ですよ』

 堀本はやたら詳しい。会社のアパートに入るぐらいなのだから地元の人間ではないとは思うのだが……。

『詳しいですね。地元ですか?』

『ええ。自分は横須賀です。通勤時間がもったいなくて引っ越してきちゃいました』


 なるほど。

 考えることはみな一緒なのかもしれない。

 満員電車に揺られるぐらいなら、会社が用意してくれているアパートの方が良いと言うところか……。


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