一杯目 忘れん棒の烏天狗
水道水をいきおい良くやかんに入れ、強火で湧かしていく。グツグツと大きな泡が音をたてて弾け、表面が波立ってきたらやかんから火を外し、すぐに茶葉が用意され温めておいたティーポットに勢い良く注いでいく。すると、茶葉が上下に踊っているかのように動き水を吸ったものは下へと沈んでいく。茶葉を蒸らすために━━━━━。
時間をかけて丁寧に淹れた紅茶を、背の高い烏天狗の血を引くと思われるお客さんに出す。
「おまたせ致しました。ダージリンオータムナルのストレートティーになります」
赤みがかったオレンジ色。薔薇を思わせるその色合いから"ロージーナム"とも呼ばれている、穏やかで成熟した深い味わいのティー。
「…あ、ありがとうございます」
烏天狗のお客さんは今にも体からきのこを生やすのでは無いかと心配になるほどテンションが低いのにも関わらず、ちゃんとお礼を言う姿に喫茶店の主、友海は口角を上げた。
「あ、あの。噂を聞いてやってきたんですけど」
「お悩み事ですよね。店が開店するまでの間お聞かせください」
友海はチラリと古時計をみる。同じように烏天狗も古時計に目を向けた。そして、躊躇いながら彼は話し始めた。