表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな世界を知らなくて

どうして、知りたがるんだろう?

作者: 春乃 凪那

どうしよう。いつまでもトイレにこもっているわけにもいかない。時間が長くなればなるほど、気持ちが重くなることはわかっている。だけど、もうどうしたらいいのかわからない。


「メール?」


ジャケットのポケットに入れたままの携帯電話が鳴った。いつもなら鞄にしまったままなのに。何故だか、諒太さんかもしれないと思って、携帯電話を開けた。



<もしも、君がよかったら、千佳ちゃんのこと聞かせてくれないかな。嫌ならいいんだ。入り込まれたくないことって

あるもんね。だけど、一人で抱え込んでほしくないんだ。怖いこと、君が不安に思っていること、全部吐き出してほしい。こんなこと言って、信じてくれるかわからない。だけど、俺は千佳ちゃんの過去を受け止められる自信がある。ともかく、一度戻ってきてくれないかな?>


淡々と綴られた文字。いつもは顔文字が入っていることが多いのに。あたしが逃げてから、必死に文章考えてくれたんだ。


せっかく止まった涙が溢れて止まない。これじゃあ、本当に出れないよ。


冷たい水で顔を洗った。まだ少し目が赤いけれど、もう仕方ない。涙は綺麗な水と共に流し終えた。


「すみません、ずいぶん、お待たせして」


「うん、ありがとう。本当に」


諒太さんは戻って来たあたしを見てから、一度も目を合わせようとしない。泣いている女なんて、面倒だもんね。


「それだけ飲んで、移動しよっか」


一度も口をつけていないアイスティーを見つめたまま、首だけを縦に動かした。からからになった喉には、少しまとわりついて気持ち悪かったけれど、一息に全部飲み乾してしまった。


「それじゃあ、いこうか」


諒太さんは静かに言った。あたしがまだアイスティーに視線を向けたままでも、お構いなしだ。


諒太さんは先に立ち上がって、グラスを片づけてくれた。


「ありがとうございます」


なんだろう。今から悪いことをしに行くような気分だ。胸がもやもやとして、気持ち悪い。


諒太さんは無言で一歩前を歩いている。時折、あたしが逃げ出していないか確認するためか、何度か振り返っている。だけど、決して目を合わせようとはしない。


どうして諒太さんは、あたしの話なんて聞きたがるんだろう。何が面白くて、あたしの嫌な過去を聞きたいのだろう。


「ここでいいかな」


誰もいない公園、静かな空間で諒太さんの声が響いた。


「よし、ここなら感情全部吐き出しても大丈夫だよ」


久しぶりな気がした。あたしが一週間会っていなかったからとか、そんな理由じゃない。


目を見て笑ってくれた諒太さんの顔。優しい表情が、あたしを迎えに来てくれた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ