ハンガー
笑えるレベルではないけれど見たけりゃ見ても良いのでは。
ある日ハンガーは呟きました。
「どうして僕らは服を着せられるのだろう?」
その声を逃さなかったもう一つのハンガーは、同じく小さな声で答えました。
「ペットに服を着せるのと同じだろ? エゴだよエゴ」
【エゴ】という批判じみた言葉は六畳一間に重い空気を作り出しました。しかしその空気は、ハンガーたちにとっては決して悪く感じない空気でした。自虐による快感があったのでしょう。
「エゴか……そうかもしれないな。でも、仕方無いよな……俺、所詮高級ハンガーだし」
「おい!」
先ほどから黙り続けていた第三のハンガーがようやく口を開きました。口なんか無いですけれど……一言確かに【おい!】と怒鳴りました。口なんか無いですけれど。
「あっ……悪い、悪気はなかったんだ」
そうです。第三のハンガーは第二のハンガー(ボンクラハンガー)に気を使ったのです。今まで気付きませんでしたが、確かに第二のハンガーは、オンボロの流木のような腐りかけでした。そして次の瞬間第二のハンガーが怒りにまかせて身体を軋ませました。
「悪気はなかっただと……このハンガー野郎! お前みたいなハンガーはよぉ…………鎌首部分ぶっ壊してやるよ!!」
『嘘だな』
しかし、第三のハンガーは冷静でした。第二のハンガーの戯言を虚勢だと見破ったのです。そして、第三のハンガーは自身が震えるほどの大声で言いました。
「さっきから、俺に噛みついてきやがるこの犬なんとかしてくれよおぉ!」
気づきませんでした。否、第三のハンガーは気づかせてくれなかったのです。その冷静さを霧と化し、主人である私の目を覆い、心配をかけさせまいとしたのでしょう。そうして心打たれた私はハンガーの観察を止め彼らに一言、言霊をぶつけました。
「俺、最近独り言ヤバいな。ハンガーで人形劇ってなにやってんだろ?」