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第6話


 あの子は今どこにいるのだろうか。実際イジメられている子の心境はそれぞれ違うのだろう。一概に知ったかぶりもできないが。ここが特別棟だからこそ予想のつく場所もあるのだ。


 非常階段。それは普段なかなか使われない。使う機会なんてそれこそこなければいいが使い時はいろいろだ。実際昼食時に使う生徒も少なからず……


 そしてイジメられていたあの子も、そんな一人だったのだ。

 言葉もなく泣いていた。階段に座り身を丸くして泣いていた。

 彼女達三人とは違い声も音もなくただ静かに…… 泣いていた。


 そんな彼女を見つけたリンとユイ。

 リンは過去の自分を思い出す。イジメられたことは一度もないが、泣いていた少女の姿と自分の姿がとても似ていた。


 泣いていた自分を思い出す。リンは生まれた時から施設で育っていた。そこにいる子は多かれ少なかれ事情のある子供たちだ。

 リンは優しい子だが感受性がそれなりに強くたまに施設の隅で泣いていた。理由は覚えていないがとても寂しかった記憶がある。

 そんなリンに手を差し伸べたのが他ならぬ、真一と奏だった。

 彼や彼女は今も同じ高校の三年生だ。クラスは別だが同じ境遇の親友以上の家族のような、兄弟のような特別な関係が今でも続いている。

 リンはわかっている。手を差し伸べてもらえる嬉しさを、安心感を。だからこそユイにもそのことを伝えた。


「ダメかな? この子に手を差し伸べちゃ」

「うん! 今はダメだよ」

 意外な答えだった。さっきはユイに丸投げしてしまった節もあるから今度は自分も役に立てると思ったのだが。


「リンっ! 女の子には時間が必要な時もあるんだよ? 大丈夫だよ心配しなくてもっふふ!」

 ユイは手をかざし少女の後ろへ近付いて魔法を発動した。

「太陽の光の癒しだよっ。この魔法は心身の癒しや状態異常が回復できるの。少しの間、休ませてあげよう」


 彼女はうつむいたままだが確かに背中に暖かい何かを感じていた。心地良い何かを……


「ところでユイは魔法の連続使用してるみたいだけど大丈夫なの?」

「うん! 問題ないよ? 魔力の保有量高いから。街一つ破壊してもへっちゃらだよ! だけど…… 魔法使用の魔力は問題ないんだけど生命維持の魔力はこの世界じゃ回復しないの」


 グーっ!

「あーっはっはっ! 魔力は回復するけどご飯や睡眠は大事なの…… 太陽の光の癒しは上位魔法だから魔力消費しちゃったのかな! あはははは」


「そっか! なら家庭科室へ行こうか。今日は確かお菓子作るって後輩から聞いたよ! 知ってる後輩だから分けてもらおう」

 リンの表情にも笑顔が戻った。

「うん! 行くー!」

 目が輝くユイに安心した。

「またここへ来よう。お菓子を持って」

「はーい!」


 家庭科室へ向かい、近付くにつれ甘い匂いがしてきた。

「いい匂〜い!」

「ドーナツかな?」

「ドーナツ好きー!」

「よかったね。ふふ」

「ん? ドーナツルンルン!」

 はしゃいでいるユイが可愛い。そんな事を思っているうちに到着した。


 ガラーン!

 当然誰も振り向かない。

「わあー! すごーい! 凄いよリン」

「うん! そろそろ授業も終わる時間だから完成してるねっ」

『知り合いの後輩だからと言って無断でもらうわけにもいかないし授業が終わったら分けてもらうか』


「リーン! 先生の机のところにご自由にご試食下さいって書いてあるよ!」

「ん? あぁそういやこの先生は見本見せるタイプだったな…… ってそうだ…… この先生の料理は……」

「食べていいかな?」

『いや待てユイ、オススメはしないと言いたいが目が輝いている…… 止めるのは逆に可哀想か』

「じゃあそこで手を洗ったら食べていいよ……」

 お互いにそれぞれ離れるわけにはいかない為、手を洗う時は相手の肩を掴みそれぞれ手を洗った。

 割とシュールな絵になりそうだ。


「いっただっきま〜す! パクっもぐもぐもぐもぐ…… もぐ…… リン…… このドーナツ甘くないよ?」

 ほんのり涙目だった。そうこの先生のドーナツは決して不味くはない、教師だけあって不味くはない…… だから逆にタチがわるい。不味いなら不味いでいいが中途半端に味がない、それが好きな人もいるだろうがこの甘い匂いと香ばしい匂いがしたら甘いドーナツが食べたい人が多いだろう……


「はは…… だよねごめん。ユイ、ごめん約束守れなくなっちゃうけど透明化から抜けて後輩からドーナツ分けてきてもらっていいかな? 教室出たらまた俺を捕まえてくれる?」

「うん! あっリンもはいっ」

 食べかけのドーナツを口に食べさせてもらった。とっさにユイとの間接キスを連想したがユイに押し込まれそれどころではなくなった。


 リンが透明化を解き家庭科室に入ると同時にチャイムが鳴った。

 いやそれ以上に歓声が湧いた。

「キャーキャー! 佐藤せんぱーいっ!」

「佐藤先輩かっこいいー!」

「キャーイケメン王子!」

「佐藤先輩佐藤せんぱーい!」

 誰が誰の声か判別がつかない……

 もはや後輩男子に話しかける余裕がなくなった。

「あっあのっ! 佐藤先輩これ食べて下さい。」

「あっ私も私もー」

「ずるーい私が先ー」

「こらみんな凛先輩が困るでしょ? ファンクラブの制約は守りなさい」

「キャーキャー」

「キャー佐藤先輩私のもー!」


 収集がつかないがあっという間に両手にドーナツとラッピング済みドーナツに手作り弁当が渡された。

 まだまだ渡していない生徒もいた風だがさすがに持てない…… と判断した。

 お礼を言い立ち去ろうとするが追いかけてくる。しかしドアを出た瞬間彼女達全員がリンを見失う。


「あれ先輩は?」

「どこー?」

「もっと話したかったなー」

「私まだあげてないのにー」

「ねぇー! お腹空いちゃうよね佐藤先輩」



「いや…… 本当にありがとう。十分だよ。いやほんと」

「リンってばモッテモテー! でも…… 少し妬けるんだからね」

「え? はあはあ…… ごめん聞こえなかった。はあ……」

「うんんっ! なんでも! 持つの手伝うよ!」

「ありがとう。これでやっとユイのドーナツ落ち着いて食べられる…… 確かに味はないけど、これはこれでアリだな……」

 ユイを意識すると照れる。

「ん? 私がなーに?」

「いやユイのくれたドーナツ美味しいよって」

「えー! ほんと? もっと甘い方が美味しいよ〜! ほらっ」

 再び食べかけのドーナツを口に放り込まれた。

「えっへへ、美味しいでしょ?」

「あぁ! 美味しい…… ユイに食べさせてもらえばなんでも美味しいってわかったよ。ふふ」

「ひゃっ! リンのバカ」


 そんな幸せそうな会話も二人の間にしか響いていない。


 再び非常階段に戻ると、さっきの少女はイヤホンで音楽を聴きながら本を読んでいた――


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