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第3話


 学校へ向かう道中、人通りが増えてきた。

「俺たちの声、周りには聞こえてないんだよね?」

「うん! どんなに大声出しても聞こえないよ。例え私がリンを襲ったとしても…… へっへっへー! ガオー! ってな具合で」

 本気の目だった。


「うん、ちょうどいいし試してみよっかリン」

「え? ちょ…… ちょっと待って街中だし……」

「街中だからいいんじゃない!」

「私も初めてだからちゃんとできてるか確かめたかったし、どうせするなら街中でって決めてたの。街中だとスリルも味わえるし」


「いくら街中の人が見えてなくてもこんなにたくさんいたらさすがに緊張するっていうか」

「はははっ! 私を信じて、初めてだけどちゃんとできるはずだから…… それにリンのためでもあるんだよ」

「わかった。覚悟を決めるよ……」

「気持ち良いだろうなぁ街中でしたら…… ふふっ」


 ユイは本当に嬉しそうだがリンは未だかつてない緊張をしていた。弾ける心臓の鼓動が彼女に伝わってやしないだろうかと心配していた。


「じゃあいくよリン、出せるものは全部出してね。全部私が受け止めてあげるから我慢しちゃダメだよ? まずは私からするから受け入れてね。小さくても、これが私だとしても、どんな私も嫌いにならないでね? 約束だよリン。私、さっきも言ったけど初めてだからうまくできなかったらごめんね」

「わかった。ユイがしたいようにしていいよ。必ず受け止める」

「ありがとう…… リン」


 それだけ言い残すとユイはリンの手を握ったまま姿勢を低くした。手が震えている。緊張の表れだろうか。姿勢の低い状態の時に彼女は発した。


「本当にありがとうリン。これは絶対一人じゃできなかったよ。もし一人でやっていたら切なくなっちゃう…… リンがそばにいる。心強い。寂しくないよ。私が先にいっちゃって気持ちよくなるけどいいよね? リン」

「うん」

『その上目遣いだけで既にこんなにもって感じだよ…… ユイ』


 ユイはゆっくりと息を吸い込んだ。

「スー! お父様のっバカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! 私はっ学校へ行きたいっ! 友達と遊びたい! 勉強もスポーツもテストもお弁当もみんなでしたいっ! お買い物もいろんなところへ行くのも…… 普通のことを普通にしたぁーいっ! お父様なんて大っ嫌ーーーーーーーーーーーーーいっ! ――――ふぅ」



「落ち着いた?」

「うん! 初めて出したよ、私」

 君に比べたら俺はやりたいことをやれて生きてこれたのだろう。

 不幸ばかりが人生じゃない、逆に彼女の父は間違えたのか。はたまた国のためという大義名分をつければ間違っていないのか。

 後者の場合間違っていなくても父親としては間違いなく失格だ。

 ならば自分がその立場になった場合はどうだろうか。父親ではない自分が口にしてはならないのだろう。しかし彼女にしてあげられることはまだたくさんあるはずだ。


「はう〜スッキリしたー。はは、さあ次はリンの番だよ! 全部出すんだよ? 頑張れっ!」


「俺は…… 俺は世界を見てみたいっ! 残された時間を…… ユイと過ごしたいっ! いろんなところ見てみたいっ! はぁはぁ」


 初めてこんな大声を出した。

「ユイ…… 俺とでよかったら一緒にいろんなところへ行って見て回ってくれないかな? 今から行く学校では友達もできると思う。ユイのしたいこと少しはできると思う」


「先に…… 先にリンに言われちゃったかへへへ。私の方こそリンといたいのに。私からお願いしようとしてたくらいなのに…… 最後の一瞬までよろしくお願いします。ふへへ」



 二人が照れていると、一匹の子犬が走ってきた。リードをつけたまま走ってきたことから飼い主が誤って離してしまったのだろう。

 リンの足元まできた。明らかにリンに気付いているような動きだ。

 リンの足元に顔を当てている。動物に好かれやすいらしい。

 右手にユイ、左手で子犬を撫でた。子犬は透明化させていないがリンになついた。


「ユイこれは?」

 だが周囲の人間はこちらに気付いていないようだった。むしろこちらが避けなければ当たってくるくらいだ。透明化はしている。

「動物だからかな? 元々透明化は下位魔法なの。あっちの世界は感知に優れた人もいるから透明化したいなら存在ごと消すか、もっと上位魔法を組み合わせるの」

「なるほど……」


 続いて飼い主と思わしきお婆さんが歩いてきた。

「いやいや、これは大変失礼しました。ウチの子が大変な粗相を……」


 リードを掴み直し謝ってきた。

 だがリンやユイに言っているというよりその斜め後ろに話しているようにも映る。だがそこには電柱しか立っていない。


「電柱に謝ってるのかな?」

「律儀だな……」


「最近嫁の味付けがね……」

 愚痴に変わった。

「俺達に愚痴ている訳ではないんだよね?」

「段々魔法に自信なくなってきたよリン……」


 一幕が終わり校門に辿り着いた。

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