59. あっけなく終わる恋・・
いつからだろう・・
寂しくなったのは・・
「おっす。焼肉行くか?」長山
「いや、出勤前だから・・・」香奈
「ああ・・焼かなければいいじゃん」長山
「ははっ。そうね。」香奈
匂いが気になる所だったが・・
「てか、ここくらいしか知らなくてね・・お恥ずかしい」長山
「地元湯島だもんね」香奈
ここは六本木じゃあ有名な焼肉屋だ。
個室も有るし・・
メニューを見ながら・・
「私、冷麺ください」香奈
「この海鮮サラダと、石焼ビビンバ」長山
「ははっ、焼いたよ」香奈
「あっ・・やっぱノーマルなビビンバで」長山
いつからだろう・・
自然と嫌じゃなくなったのは・・
同じ皿の物を食べる二人
「よかったのに石焼で・・匂い無いと思うし」香奈
「いやっ僅かに出るぞありゃ。てかうまいなこのサラダ」長山
なんてことのない会話が楽しい。
この仕事をしてて良かったなと思う。
人との会話で寂しさは粗方紛らわす事は出来る。
ここ最近巻とは会話もない。
もっと言えばセックスも・・
家に帰ればすぐ寝る巻
起きればすぐ出て行く。
あの報道の後も病院にすぐ駆けつけようとしたが・・
「軽症だって・・後、危ないから来るなって・・」香奈
「ふ~ん・・」長山
もちろん襲撃したのは長山達である。
というより、生け捕りを狙ったが返り討ちである。
「・・今日アフター行ける?」長山
「早いね・・まだ店にも行ってないのに・・」香奈
断る理由ならいっぱい有る。
今日はもう同伴したし、巻の敵でもあるし・・
「・・・他に、誰にも誘われなかったらね」香奈
「おうっ。終わる頃、俺から電話するわ」長山
食事を済ませ、荷物を持ってお会計に向かおうと・・
「ガラッ」
「・・・・ねえちゃんなんだよ・・千夏さ・・」
「へへっ・・そうな・・」
「えっ!?」香奈
「しっ!?」長山
聞き覚えの有る声・・・
隣の個室から漏れてくる声・・
「顔、張れてら・・・殴られた?・・愛羅さんに・・」
「うん・・いい加減に目を覚ましなさいって・・」
明らかに・・
(巻君とリオちゃん・・)香奈
万全な準備で来たつもりだ巻は。
もう、香奈は普通なら出勤してる時間だし、
何より今日、リオと会えたのは・・
「こんな顔じゃあお店出れないしね今日・・」
「よっぽど、お怒りなんだね・・」
そりゃそうだ・・
進藤の仕返しをしてくれるのはリオだけだと期待してる。
「それでね・・」
「ふんふん・・」
恥ずかしい格好だ・・
二人共壁に耳を当てて必死で盗み聞きだ
「そういえば大丈夫なの?携帯に電話して・・」
「もう大丈夫色々と・・」
後、バレて困るのは、
亜美・千夏・香奈くらいだ。
すでに愛羅も知ってるみたいだし・・
「・・っ・・・・」
会話が無くなった・・・
僅かに服の擦れる音が聞こえる
「・・・・・・・・」香奈
(・・・香奈ちゃん・・)長山
さすがの、長山でも香奈の表情に気づく・・
いや、隣で今、何をしてるのかさえ・・
本当に悪い気がして来た・・
奪おうって気持ちは有るけど・・
「手紙読んだよ・・」
「うん。くれる?」
湯島の縄張り・・
「何に使うの・・」
「住む。それにきっちり押さえる。
あそこの情報網もすごいや・・届きそうだし・・」
(どこに?てか、この二人が繋がってるってなったら)長山
もう巻の東京制覇じゃ?・・
「見えてきたね・・」
「最後の敵が一番強力だけどな・・」
亜美・・
「・・香奈さんとは、どうするの?」
どうするの・・・
この女の発言は遠まわしだ・・
どうするって・・
きっと別れてくれって事なのか・・
この会話の答えを聞くのが流れかもしれないが、
女の勇気は僅かな躊躇で動き出す・・
「・・・いつから、デキてたのかしらね?」香奈
(ばっ!!声出したら!)長山
普段より、大きめの声で勇気を振り絞る・・
いや、怒りなのか、逆ギレなのか・・
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
隣の個室の会話も止まる・・
居ても立っても居られなかった・・
聞き流して、そんな事ないなんて思う事は、もう出来なかった
「ガタっ・・・トっ・・・」
きっと、どちらかが壁に近づいて来て壁を触った・・
今、近くに居る・・
温もりさえ届きそうなくらいに。
「・・・・・香奈か?」
隣から聞こえてくる巻の声
すぐ近くに居るのが分かる・・
「・・・・・・・」香奈
だが声が出ない・・
しゃべりかけた自分が悪いかもしれないけど・・
何か一言でも言えばそこから終わりの会話が始まりそう・・
(リオちゃんと・・デキてたなんて・・)香奈
もう確信だ。
違うならリオも違うよと言ってこちらに笑顔で駆け込んでくるはず。
黙ったまま・・いや、きっと唇かみ締めてるはず・・
やってしまった・・バレてしまったと・・・
「香奈ぁ・・・」
どうしていいか分からない・・
この呼びかけに・・
たとえ泣きたくても泣けない。
リオにも聞こえるし、長山もすぐ近くで見てる
「っ・・」
やっと落ちる涙。
「・・どうしたらいいの・・・私・・」香奈
こう言うしか・・
どうしたらいいの・・
自分からは言えないから・・別れようなんて・・
(俺が声を出したい・・
巻、何やってんだバカヤロウ!!って・・)長山
香奈を利用しようとした自分が、
何かすごく情けなくも思えてきた
こんな純な子を・・
声を出さずにいるが、一度落ちだした涙は止まらない。
「・・・別れようか・・・一旦・・」巻
一旦・・・
これが最善の言葉だ・・
あくまでこのリオとの付き合いは、
抗争の絡みだと匂わす最善の逃げの言葉だ。
せめて抗争の為にしょうがなく、くっついてる
・・なんて思えるような言い方で
しばらくの間・・・
お互い壁に体をつけたまま、うつむく。
「トッ・・」
香奈が壁に手を当て・・
「・・・・荷物は明日・・・全部片付けます・・」香奈
「・・・・ごめん・・・」巻
あっけなく終わる恋・・
「私っ!本気で!・・利用するとか騙すとかじゃなくて!」
「・・いいから・・もう・・」香奈
リオの声が聞こえた・・
何が本気なんだろう?
本気で女帝になりたいの?
そりゃあ二人が組めば、もう確定。
巻が東京のトップで女はリオがトップ。
千夏と爆撃の総長の後継者として東京の覇者に・・
愛羅の後継者として六本木の女帝に・・
それとも本気で、ただ巻を愛してるの?
「ガタっ・・」
香奈は一人で出て行く。
追う事も出来ない長山。
しばらく、向こうも会話も注文する気配もない。
きっとお互い相当ヘコんでる・・
「ガタっ・・」
長山もこの場所から出て行く。
隠れてずっと聞き耳立てるなんて何かバカらしい
もう最初のこの会話で十分だ・・
「今日、私抱いたら最低だよね」
「だから抱くと思うよ・・・飛び切り最低の日に・・」
悪に、悪を上塗りして生きていくというか・・
店の外に出て、行くあてもなく歩き出す長山
「・・・新時代の不良止めようかな・・」長山
今日敵わないと、はっきり分かった。
巻や亜美には到底届かない・・
「俺には騙せないな・・香奈ちゃんを・・」長山
そして俺には最後の最後、
何か悪党の最後の雫みたいなものが出ない。
濃度の濃い・・特別な何かが
結局何もかもが俺には足りない・・
きっと違う次元に居るあいつ等は・・
何も無かったように振舞う六本木の街
ここではたった一つの恋なんて、
砂漠に落ちた一滴の雫のようなものだ
だが恋が似合う街だ。
道行く人を見れば、きっとすべて恋だ
やさしく笑う声、寄り添い歩く人、
期待を膨らまし遊びに来る若者・・
「これも恋か・・」長山
自分の胸の鼓動が少し早い・・
香奈の店に行こうと思ったから。
空気読まない奴って言われてもいい・・
同伴だって言っただろ?って、言い訳も言えるし・・
ここで行かなかったら、
逆にいつ行けばいい?もっと行きづらくなるはず・・
だから・・
「香奈ちゃん指名ね」長山
「はいっかしこまりました」ボーイ
素直に会いたいって思った。
元、巻の彼女でもいい・・お古だって言われてもいい・・
一度だけ、ちょっとフライングしたけど・・
「おお~いらっしゃいっ。いつものでいい?」香奈
「はは・・」長山
敵わないや・・この人にも。
その満面の笑顔に・・
負けたんだ・・俺は。
いや、振り落とされた・・
新時代から・・
「くそシャンパン持って来てよ!うおおおおおおっ」長山
「ははっ叫ばないのお店で」香奈
取れよ・・
六本木・・
アンタがこの六本木の女帝になればいい・・
「負けんなよ!こんちくしょうが!」長山
「ははっ、もう負けた人~」香奈
そう・・
まだ私は負けてない。
いや、やっとスタート地点に立ったんだ・・女帝への道の・・
散々飲んで盛り上がって・・
「もう飲めねー」長山
「ははっありがとね気を使ってくれて」香奈
もう負けたけど・・
いいんだ。
「また来るね」長山
「うん。」香奈
恋って、いいもんだぞ・・巻。
店を上機嫌で出て行く長山
僅かに歩いて・・
「トンっ・・」
「あっ、と・・、すいません・・」長山
「いえっ・・」
ははっ俺、酔っ払ってるのかな・・
通行人とぶつかる長山。
「おおー・・・・・・」
「・・・わああ・・・・」
なぜだか遠くで大きな揉め事のような声や音が聞こえてくる
それに釣られて六本木の住民もみんな移動したのか・・
誰も居ないこの道・・・
「ああそうだ・・」香奈
「んっ、何?」長山
長山が振り返り香奈を見て・・
「ごぱあああ!」長山
熱い・・・
焼けるように背中が・・
「その子、・・・流李っていう子。危ないよ・・」香奈
現れた時点で、もう香奈は諦めた・・
この作られた状況に・・
そして、必殺・・
「く・・は・・殺戮の・・」長山
熱い・・刺されると。そしてどこまでも流れ出てくる血
分かってる・・何度か経験あるから・・
これが相当深い傷で・・ヤバイって事も・・
どうして?・・・
俺もう降りたよ・・
負けたし、もう勝てないと思ったから、
もう巻にも千夏にもちょっかい出さないよ・・
ただ色々調べてるウチに知ったのは・・
「・・・どこまでも行くね・・刀真君・・
せっかく新しく始まった恋だと思ってたのに・・」香奈
「・・巻君の磐石なる東京制覇の為になら・・・・・」流李
どこまでも行く・・
この流李のあだ名?本名?
香奈は知っている・・
たまに巻が人が居ない時、とうま、とうまって呼んでたから
いや、正確には聞いた香奈に、知っていた進藤に、知った長山。
流李の別の呼び名が有ることは長山が湯島で手に入れた情報だ。
湯島も四部夜のようにすべてが手に入る場所だ。
これも解けないパズルの1ピース・・
「その・・る・・・・ぁ・・」(その流李ってなんなんだ?)長山
この流李の名前が鍵なんだ・・知れば殺されるってほどか・・
その答えに俺がたどり着きそうだったの?
最後に俺も咲いたかな?
アウトローの激しい恋の華は・・
あっけなく終わる恋だけど・・
読みにくく言いにくいけど、何かいい字の並びだな・・
綺麗だな・・お前の特攻服・・
目に焼きつけとくよ・・
狂恋黒華・・・
これで・・
あと・・・
一人。




