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Help, I'm A Rock

ホームセンターには最適な日!

 今日はいわゆる晴天で、まったく渋滞のない国道を走り抜けるには最適な日だった。外の惨状を見ない限りは鼻歌の一つでも口ずさみたくなる。今は正午を回っている。この時間帯ならこの通りは活気に溢れていただろうが今はよろよろ歩く不健康で凶暴な住人が徘徊していた。彼らの大半は車の音を聞きつけたのか、走る音に惹かれたのかこちらへの接近を試みようとした様子だったが、走っている車に追いつく身体能力は持ち合わせていないようだった。これらの事からネクは、この時点で彼らの身体能力は一定であり視覚か聴覚のどちらは機能しているという予想を立てた。ネクの予想を聞いたDBは「ま、バタリアンみたいに綺麗な陸上フォームで走ってこられても困るしね」と言った。

 車は国道を走りぬけ、ついにホームセター近くまでたどり着いた。

「やっと着いた……。はやく入ろうぜ」

 DBの要請に反して、ネクは車をホームセンター手前で止めた。

「?」

「どうもそう簡単には入れてもらえなそうだぜ」

 険しい視線のネクにつられて、一同はホームセンター入り口に目を向ける。うごめく人影。広い駐車場いっぱいにそれらはいた。

「まいったね……。どうする? ホームセンター諦める?」

「それが良いと思います。中に入るには危険が多すぎます」

「同感ね。確実にうちのおでぶちゃんが細切れ肉にされちゃうわよ」

「……」

「まぁ……。そうだよな。無理して入る事もないし。もう堀の方に行こうか」

 エンジンをかけ、車をユーターンさせようとアクセルを踏む「あ、ちょっと待ってください」と

トウコの声が響いた。

「な、なにどうしたの?」敵が出現したと勘違いしたDBが情けない声を出す。

「今、人がいたような」

 トウコは目を細めて建物を凝視している。

「人? 建物の中に?」

「はい、屋上にいたような気がするんですが……」

「見間違いじゃない? それかあいつらか」

「視力2.0ですから。それに普通の人間みたいな雰囲気のようでしたけど……」

 なおも凝視するトウコ。ネクもホームセンター屋上や、窓から内部の状況を確認しようとしたが視力が足りず、諦めた。

「やっぱり気のせいじゃないかな? あんまり長居すると襲われちまうよ」

「もっとよく見なさい坊や」

「そんな事言ったって……」

「……もしかしたらこっちが何かの合図を送れば向こうも返してくれるかも」

「合図?」

「そう。たとえば……クラクションとか、ライトをつけるとか」 

「クラクションはまずいな、あいつら呼び寄せちまう。ライトは……どうなんだろう? あいつら光に反応するのかな」

「と、言うよりそこまで危険を冒す必要があるのかい? 仮に生存者がいるとして合流するにはかなり危険だぜ」

「でも、もし生存者がいるなら合流すべきじゃなくて? こんなときだからこそ力を合わせなくちゃ」

「こんなときだから人間関係は選ばないとだめなんですよお母様。一人がトチると全員が死んでしまうんだ。それは人間が多いほど確立が高くなる。みんながみんな聖人君子ならいいんですがね」

「あらそうなの? トウコちゃんはどう思う?」

「私は……なんとも。向こうが助けを求めてるなら行きますけど」

「そう……。坊やはどう?」

「僕は……」

 正直ここには留まっていたくないとい思いが強い。ついさっき車をひっくり返された事を鑑みてやはりリスクのほうが高いように思えた。しかしトウコが見たという人影が妙に気になる。もしも後ろの席に座っている少年のような子供だったら? あの包囲網を潜り抜ける事は不可能だろう。その他様々なイフがネクの頭を駆け巡る。思考、逡巡の末、ネクは口を開いた。

「トウコちゃんの言ったようにライトを点滅させて様子を見よう。五分間だ。それで反応がなかったらすぐに立ち去る」自身の迷いを吹っ切るように力強く宣言する「……ってことでどうかな?」仕上げに保険をかけるのはネクが日本人だからだろう。


 間断なく一定の間隔で点灯するライト。もし向こうで人が見ていれば気づくだろう。

「モールス信号でも覚えとけばよかったね」

「そうだな。向こうの人間が知ってれば尚良かっただろうな」

「中学生のとき覚えようとしなかった? モールス信号。大体の人は通る道だと思うんだけど」

「いや、少なくともそんな時代は無かったしこれからも来ない」


 なおも点灯するライト。反応はまだ、無い。 

「やっぱり勘違いじゃない? トウコちゃん」

「……」

 トウコはまだ自分の目を信じているようで納得していなかった。

 点灯するライト。反応は、無い。

「そろそろ五分だ」

「……引き返そうか」

「……あ、待ってください!」

 アクセルに乗せた足が魚が跳ねるように反応する。「あれ!」トウコが示す先は空。ではなくてホームセンターの屋上と、そこにいる数人の人間だった。


「驚いたな……本当に人がいるぞ」

 驚きの声が漏れる。屋上に立つ人の数は三人。向こうもこちらを指差し生存者がいる事に驚いている様子だった。

「なんとか連絡が取れればいいんだけど」

「矢文でも飛ばそうか」

「ああ、それより伝書鳩の方が信頼性において勝っている」

「ああん、やられたぁ」

「遊んでる場合じゃないでしょ坊やたち。何とか考えを出して頂戴」母の叱咤が飛ぶ。

「と、言ってもあれじゃあな……」

 あれ、とは目の前の光景を指している。駐車場にうごめく無数の人。ホームセンター内の人間にひきつけられた結果だろうか。

「中央突破は無理そうだ。裏口に回ろうか?」

「裏口って言っても……車で行ったら確実に気づかれるわよ? どうするの?」

 ホームセンターの敷地に即して四角く道路がつながっているが、今ネクたちが位置しているのはホームセンター正面口の前にあるT字路の下長の部分だ。車を直進させると横長の部分にぶちあたり一旦迂回する必要がある。しかしこの横長の道路はホームセンター駐車場と隣接しているので、迂回し、駐車場入り口に入る間に気づかれてしまうはずだ。駐車場は一段高くなっており直進して駐車場に乗り込むことも難しい。

「このまま引き返すって案はどうかな? ほらネクも言ってたじゃない。人数は最低限の方が良いって。無理に合流する事ないよ」

「いや、やっぱりある程度人数は欲しい。それに中にいる人たちが心配だ。囲まれて脱出もできないとしたら食料が尽きて死ぬのを待つだけだ。無理に仲間にしなくても生存者同士喜び合っても悪くないだろう」

「でもほら向こうだって迷惑かもしれないジャン?」

「あっ、あれ見てください」トウコが屋上を指差す。

 そこにはプラカードのようなものとそれに真っ赤なスプレーで書かれた『HELP』の文字が読み取れた。

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