出会い
「君はいったいそこでなにをしているのですか?」
そう聞かれたとき、俺は非常に動揺した。特に他意はなくとも、傍から
見たときの俺の姿はドアをがたがたとならし、なかを何とか見ようとす
る怪しい人物である。 落ち着け!そう自分を叱責しながら、どうにか
振り返る。するとそこには、かなりの長身で涼しげな雰囲気の男性の姿
があった。ただ、意外と年のころは若くどうやら、20代前半のようで
ある。声の荘重な感じからもう少し年配の人かと予想していた。
「あの~、できれば質問に答えていただけると嬉しいのですが。一応
私がその部屋の管理責任者なのでさすがに不審な行為は見逃せません
から」
そう言われてまだ、質問に答えていなかったことを思い出した。しかも
管理責任者がおでましである。
「すみません、先生。別に悪さをしようと考えていたわけだはなくてで
すね、ええと、その、つまりちょっと珍しい部屋だったので、つい興
味がわいてですね・・・」
とっさのことで、つい言い訳がましくなってしまった。なんというか我な
がらうさんくさい。相手もそう思ったのか不審そうな顔をする。
「本当に、本当にすいません。特に悪意はないんです。第二生徒会室なん
て中学にはなかったのでちょっと興味がわいただけなんです」
「いえ、そこは了解いたしました。いくらなんでもこの部屋に何かをしか
けるとすると、正面からドアを揺さぶるなんて行動にはでないでしょう
から。そうではなくて、私が言いたいのはですね、私は教師ではなくて
生徒ですよ」
ほう。生徒なんですか。なるほど、なるほで・・・
「っえええーーー!!」
いやいや、どう見ても20代にしか見えないんですけど。
「そこまで驚かれると、さすがにショックなんですが・・・。私そんなに
老けてましたか?」
「いや、その大人びていたのでつい、先生かと」
「こう見えても高校2年生ですよ。制服を着ているのだし気づいてくれて
もいいでしょうに」
やや諦観したような口調で目の前の男性(男子生徒?)はつぶやく。
きっとよく間違えられているのだろう。だが、確かに言われてみれば、
彼の着ているのはうちの高校の制服だった。しかし、一般的な制服とど
こかちがうような気がする。俺の怪訝そうな視線を解したのか、
「もっとも、私の制服は皆さんのものとは若干異なりますが。校章のところに
ついているのが、特務部徽章なんですよ」
よく見てみれば、校章のワッペンが普通とは違う。普通は臙脂色に
楓があしらってあるのだが、彼のそれは黒字に銀のフクロウである。
と、こで素朴な疑問が一つ。
「あの、先輩。特務部徽章ってなんですか?」
「ああ、我校は生徒会の権限が非常に大きいものですから、昔生徒会を語って
悪事に働く生徒がいたそうなんです。そこで、生徒会役員には識別ように特
別の徽章にしようということになったんだそうです。で、ついでに通常の生
徒会と特務部にも変化をつけるようになりまして。それ以降私どものが特務
部徽章、生徒会のが生徒会徽章と言われるようになったと言うわけなんです。
まあ、ようするに、特務部に所属していることを示すための徽章ってことで
すね」
わざわざ、識別用に制服を改造するとは。そんなに生徒会の権限って大きい
のもなのだろうか?
「じゃあ、先輩も特務部なんですか?」
「ええ。生徒会特務部部長を務めています」
へえ。部長さんなのか。なんとなく納得できる。すごい威厳だし。しかし、
そもそも
「あの、先輩。特務部ってなんなんですか?」
そう。それが良く分からない。すると先輩は、やや困った顔して
「一言で説明するのはなかなか難しいのですよ。強いて言えば生徒の悩みや相
談、その他学校で生じる大小のトラブルを解決するための組織とでも言いま
しょうか」
なんだか分かったような、分からないような。
「もし興味があるのでしたら、ここに放課後にでも来てください。この第二生徒
会室で活動していますから。その方が実感していただけると思いますよ。それ
に、第二生徒会室にも興味があったようですし」
興味がないと言えば嘘になるな。それに、部活にも委員会にも属しておらずク
ラス内でも孤立している俺は放課後に特に用事があるわけでもない。また、い
ざという時に頼れる人が学校の中にいるのは悪いことじゃなさそうだ。ここは
顔をつないでおく方がいいだろう。そう考えて、
「はい。それでは放課後にうかがいます」
と返事をした。もっとも、この時俺はこの返事が自分の高校生活に大きな影響
を与えるとは予想だにしていなかった。