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プロローグ

  突然の話ではあるが、高校入学直後で最も面倒、または憂鬱に感じる

  イベントと言えばいったいなんだろうか。オーソドックスに入学式あ

  るいは友達作り人によっては部活動の選択、さらには中間テストなん

  てものもあるだろう。だが、俺はあえて自己紹介と言いたいと思う。

  いや、一般的に自己紹介はそこまで面倒なものではないものだろう。

  ただ、名前を告げるだけでいいのだから。ほんの数十秒で終わること

  だ。だが、俺の場合はいささか事情が異なる。

  「それでは次の人。お願いします」

   その声を合図に立ち上がって、俺は黒板に

        二   一

  と書く。それを見てクラスメイトは多少のざわめきを発した。無理も

  ない。誰がどう見てもそれを名前しかもフルネームだとは思わないだ

  ろう。だが、残念なことにこれが俺の名前だ。なんでも俺の親父が自

  分が名前が非常に長く苦労したので(ちなみに親父の名前は|二正三

  位近衛大将轟龍《いちのつぎしょうさんいこのえたいしょうごうりゅ

  う》という)なるべく簡単な名前にとういことでこう名付けたらしい。

  確かに 簡単だ。姓名合わせて三画というのはなかなかお目にかかれ

  ないだろう。 全くうちの一族は中くらいとか程々という単語を辞書

  にのせていないのかね。そんな名前なので、できる限り好奇の対象と

  ならないよう、

  「二 一(いちのつぎ はじめ)と申します。どうかよろしくお願いします」

  とだけ言って席に向かおうとした。だが、どうも気に入らない。なぜか。

  理由は簡単だ。クラスメイトの態度にある。この名前をみて戸惑うのは

  しかたない。変わっていると思うのもいいだろう。確かにそれは事実な

  のだから。しかし、変だと思われるのは不快なものだ。変というのには

  どことなく馬鹿に したような雰囲気がある。そして今クラスメイトの

  間で囁かれている言葉は変だ。もっとも、いちいち腹を立てるのではなく、

  受け流しても構わないはずだ。ここでつまらない軋轢(あつれき)を生むと今後

  の3年間の高校生活にも支障 がでる。だが、この時はなぜだかそうす

  る気にはならなかった。

  「そうだ。一つ言い忘れてたが、この中で珍しいから、一般的出ないか

   らといってそれだけで人を馬鹿にするような品性の卑しい人物はいな

   いものと信じている。 以上だ」

   席に着く直前に必要以上の大きさでそう言ってしまった。群衆心理が

   俺の一言で 消え去り、その後には気まずい沈黙がクラスを覆う。

  「ええと、それでは次の人お願いします」

   そんな空気をとりなすように、先生が次の人への自己紹介を促した。そ

   してその後は何事もなかったかのように順調に消化されていく。だが、

   このことで俺がクラスに馴染めないことは確定したようなものだった。

  

   そんな出来事があってから1週間後の昼休み。さすがにこの時期になる

   とクラス内仲良しグループといったものが出来上がってくる。もっとも

   入学直後の出来事の影響で俺はそのいずれにも属していない。むろん、

   それはそれで良いのだが、孤立していると時間を持て余す。友人のいな

   いクラスの中で、ボーっとしてるのはどうにもつまらない。そこで俺は

   教室を出て校舎を探検することにした。いや、探検というのは大げさだ

   な。徘徊と言った方が正確だろう。もちろん行くあてなどあるはずも

   ない。ただ行き慣れないところをうろつくだけだ。

   そして、どれ程歩いたろだろうか。俺は少し変わった部屋を見つけた。

   その部屋には『第二生徒会室』と書かれたプレートがぶらさがっている。

   生徒会室なら俺の中学にもあったが第二生徒会室なるものはなかった。

   この学校の生徒会役員はよほど数が多いのだろうか。少々気になって中

   を覗いてみる。

   ・・・うわぁ。かなり豪華だよ、この部屋。パソコンはいいとして、

   ソファーに冷蔵庫、しかもなぜかキッチンまでついてる。他にもなにかお

   もしろいものがありそうなのだが、ドアの隙間からじゃこれ以上見えない。

   それでも、なんとか見ようとドアとすこしガタガタとしてみる。

   う~ん、ダメか。いやいあやもう一度挑戦して、しかし、俺はその時どう

   やら夢中になりすぎていたようだ。なにしろ後ろに人がいたのを、本人に

  「君はいったいそこでなにをしてるのですか?」

   と聞かれるまでまるで気づきもしなかったのだから。

   

      

     

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