夢の中へ
自分の体の中に息が吹き込まれて来るのが分かった。
「げほっ…げほ、げほ!」
水を吐いたミーヤは、目の前の人物を見て安心するかのように、気を失った。
夢なのかなんなのかは、分からないが、ミーヤは叔父夫婦と一緒に食事をしていた。
叔父から、明日には両親達が日本に帰って来ると言われ、浮き足立った。
久々に両親に会えるのだ。
でも何かがおかしいと告げる。
ミーヤは、懐かしい自分の名を呼ばれる。
「柚羽。さあ、お前の両親達が帰って来る前に、お前は行く所があるんだろ?」
叔父に促されて、柚羽は首を傾げた。
はて何だっけ?
「優斗君だろう? 何だぁ? お前は婚約者の名前までも忘れたのか?」
婚約者…?
私にそんな人がいたの?
何かが違う。分からないけど、何かが違う。
和やかに笑っている男の顔を見ていると、何故か無性に腹が立って来る。
どうしてなんだろう?
優斗に優しく微笑まれるだけで、鳥肌が立って来る。
違う…
「どうしたの? 僕の愛しい人」
何で…どうして、そんな優しい言葉を言うのよ…
私が彼から差し伸べられた手に、躊躇していると、彼はふわりと優しく笑った。
「代利子は…どうしたのよ…」
そう…彼には代利子がいたのよ…。
なのに、優斗は首を傾げると、「代利子?誰それ?」そう言って来た。
これは夢だ。私が作った夢…。
私の両親達は、死んだ…
明るかった視界が、急に暗くなる。
家の中では黒い喪服を着た私が泣いている。
私の肩を抱くのは叔父に夫婦。
もう…こんな辛いのは見たくない…見せないで…
眠っているミーヤの目尻から涙が零れて来る。
「……」
男は黙ってそれを指で掬うと指に滴る雫を赤い舌でペロリと舐めた。
「涙か…」
掬っても次々と溢れて来る。
顔をしかめた男は、面倒なものを拾ってしまったと思いながらも、つい声をかけてしまう。
「オイ! だいじょうぶか?」
舌打ちをすると男は、ミーヤの服を拾い、ミーヤの体を米俵を肩に担ぐ様にミーヤを抱えるとエルフの森の中へと入って行った。