水も滴る良い男?
こんな恐ろしい云われがある泉に来ようとする人間は、自分以外いないだろう。ミーヤは、泉に腰まで浸かると泳ぎはじめた。
この時、ミーヤはまさか自分の姿を誰かに見られていた事など知るわけない。
調子良く泳いでいたときに、茂みが揺れる音が聞こえて来て、「あ!!やべ!」なんて思ったくらい。
ミーヤは早く岸に上がろうと必死に泳ぐが、こう言うときに限って、なかなか前には進まず、余計に体が疲れてくる。
長く泉の水に浸かり過ぎたせいか、体が冷え切ってしまったみたいだ。
クソ!
見られない内に早く…早く…
焦って先に進めない…
「あ、足が!」
なんでこんな時に足がツルんだよ!!
ミーヤは、自分のふくらはぎに刺すような痛みを感じると、もがきはじめた。
だ…ダメ…。
どんなにどんなにもがいても、前に進むどころか自分の体が鉛のように重くなる。
ミーヤは自分の体がどんどん泉の底に引き摺られて行くのを感じた。
青白い太陽が水の底から幻想的に揺れているのが見える。
あ…私は、死んで行くんだ…
ビーツ様…
やっぱりあんな男と、結婚なんて絶対にあり得ないよ…
助けて拾って持ってもらったのに……
ビーツ様のお役に立てなくって…
ごめんなさい…
ああ…元の世界で特大バニラパフェてんこ盛り、挑戦したかった….
ラーメンの特盛りも…
後、金魚すくい大会にも出たかった…
なぜかミーヤが後悔を残すのは、全て食べ物関係や、金魚すくいと言う様なものだった。
く…苦しい…
息が…
ボコボコ………
白い泡が大きくミーヤの口や鼻から、空気が抜けて行く。
せめて…もう一度…
ビーツ様に
逢いたい…
諦めていた時に、自分の体が上に引っ張られて行くのを感じた。
ぐったりしていたミーヤはそれが誰かも分からなかった。
ただミーヤの耳に聞こえるのは、必死になって自分に呼びかけている男の声だけだった。
…だれ…?
ミーヤの意識は、ここでプッツリと切れた。